これは、「下妻物語」、「告白」の中島哲也監督が、打海文三の同題小説を、構想18年という歳月をかけて遂に映画化に漕ぎつけたもの、と言う。
映画は昨年には完成し、6月公開を予定していたのだが、中島哲也監督の過去作におけるハラスメント(本作撮影においてではない)により、1年以上延期となって漸く公開となった。
探偵がひとり、殺された。被害者は“死んだほうがマシな人間”と呼ばれていた米本だった。それでも仲間が殺されたのだから、と縁のある探偵事務所が動き出す。真相を明かすべく、米本の元同僚で今は一匹狼の佐竹が指名され、助手には探偵修行中の聡子がつけられる。
調査を進めるうち、2人は9年前に起きた新生児誘拐事件に辿り着く――米本は事件被害者の女性と接触し、重い障害のある子供と暮らす明野と言う男を調べていた……
これは殺人事件から始まる探偵モノではあるが、決してその本質はミステリーではない。
この映画が描こうとするのは「親子」……それも、親の覚悟と責任を問う物語なのだ。
主人公の佐竹には、生まれつき重い障害を持つ息子がいたが、彼はその子の世話を妻に負わせ、逃げた。妻は精神を病み、長女は蔑ろにされた。息子は亡くなったが、妻は入院したまま、長女は父に口もきかない。佐竹は酒に溺れ、孤立を深めた。
聡子もまた夫を刺して逮捕され、娘の親権を奪われた。娘は聡子を避け,会おうとしない。
そんなふたりが追う明野は、佐竹の息子と同じ障害を持つ9歳の息子・新を育てている。亡き妻の保険金と生活保護で暮らす明野だが、息子には24時間介護が必要で、働こうにも働けない――どん詰まりにしか見えない生活だが、息子に対し不器用ながら深い愛情を注ぐ明野の暮らしに、聡子は、そして佐竹も、やがて羨望を抱くようになる……調査の結果、明野の息子は9年前に誘拐した子供で、実子ではない事が判る。だが、血が繋がっていても関係性の壊れた親子関係を持つ2人とって、偽物の息子であっても、会話が通じなくとも、「愛する」事、「共に生きる」事が出来る明野が羨ましくてならないのだ。
映画は、そんな2人の羨望が、探偵調査の領域を超えてしまうまでを描いて行く――なるほど、これは探偵ものでなければ描けない物語だし、実際に、作中同様の障害を持つ子供を持った打海文三の経験に裏打ちされたものでもある。
この映画、キャストも抜群にいい。まず、W主演となる、佐竹役の西島秀俊、聡子役の満島ひかりはさすがで、この2人熱演が映画を引っ張る。――そして、映画は、そこに宮藤官九郎の、緩く、穏やかな芝居を見せる事で、その存在そのものを主演2人と対照させる巧さと言ったらない。
そして、新役には、本当に障碍を持つ子供が宛てられた。他にも重度障害の子供たちが幾人も映画に出演している……これは意欲的なものと思う。
また、米本役の佐藤二朗、“死んだ方がマシ”な米本が、最期に息子を庇っての悪足掻き……これを笑いなしの熱演で形としたのもまた見所だろう。
映画の出来は、正直、褒められたものではない……冒頭部分の編集はさすがにトリッキーで、正直、理解に時間を要したし、佐竹の酒の飲みっぷりにもリアリティがない。幾ら元同僚とは言え、依頼も受けていない米本の調査に力を注ぐ意味もまた映画では説明不足だ。
だが、障碍児と言う「もの言わぬ」存在を、正に鏡のように使い、実力ある俳優らに、そこに映る“親の愛情”と言うものを描いて見せた本作には、ずしりと重い衝撃を受けた感じだ。
ログインしてコメントを確認・投稿する