これはケイン・パーソンズの長篇デビュー作。彼は、本作により、史上最年少となる21歳で全米・世界興収ランキング1位を記録した。
出演は「それでも夜は明ける」のキウェテル・イジョフォー、「わたしは最悪。」、「センチメンタル・バリュー」のレナーテ・レインスヴェ。
家具店の店主クラークは、謎の漏電現象を調べるうち、地下室の壁に“見えない扉”を発見――その扉の向こうにあったのは、広大で空虚な空間だった。
まるで迷路のような“黄色い部屋”の連なり……それを、かかりつけのセラピストのメアリーに説明するも、信じてもらえなかったクラークは、その空間の存在を証明するため、記録用のビデオカメラを手に、従業員と共に再び足を踏み入れるのだが……
本作は、“リミナルスペース”の定義を有名とした4chの投稿“The Backrooms”を題材としたホラー映画となる。
“リミナルスペース”とは、インターネット美学において、空虚な、若しくは放棄されて無人となった空間を意味し、空間としての“不気味の谷”とも言われ、それは同時に何かに移行する過渡的な空間である、ともされる。
ケイン・パーソンズは“The Backrooms”に魅了され、16歳で、それを題材にしたホラー動画を製作し投稿、そこに着目したA24により大抜擢され、当時20歳の若さで、本作を監督する事になった。
本作が描く“黄色い部屋”のビジュアルは、“The Backrooms”を拡張したもので、これぞ、正しく“The Backrooms”を映画にしたものと言えるだろう――尚、“The Backrooms”世界は利用者の共有財産であり、著作権はない、とされているようだ。
ホラー映画でありながら、恐怖に繋がる不気味でも不可知でもなく、ただ“不安”を感じさせる、その世界観、美術とも強く印象的だ。自分も人間が苦手な部分があり、それが故にクラークが“The Backrooms”に魅了されてしまうのにも共感してしまったりもしたし、“リミナルスペース”には以前から関心があったので、思わず引き込まれてしまった。
また、「8番出口」との類似性を指摘する人もいるが、これは「8番出口」が、“The Backrooms”の影響下にある、と見た方がよさそうだ。
撮影当時20歳でありながら、これだけの世界を構築し、夢を現実にしたような理不尽なビジュアルと展開にも圧倒されるし、この“The Backrooms”が、実はインターネット世界そのものを示している、と言うのに至っては、その設定を含め衝撃的でもあった――これが、デジタルネイティブ世代の感性と言うものか、と……
もっとも、少々の不満はあり、クラークによる“The Backrooms”の探検をもっと見せて欲しかったし、終盤のショックシーンから、メアリーが逃げ惑うシーンは、一気に普通のホラー映画になってしまったようで残念だった。
映画は、多くの謎と疑問をそのままにぶった切られたように終わる……だが、これは広大な“The Backrooms”に、少しだけ踏み込んだに過ぎないのだ。ケイン・パーソンズ監督は、元々これをシリーズの第一作として考えていた、と言うし、これだけのヒットとなれば続編は当然だ。
更なる“The Backrooms”の深部に踏み込むであろう、次作にも期待したい。
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