これは、「ONE PIECE FILM RED」の谷口悟朗監督による劇場版オリジナルの長編アニメ。
声の出演は、「おいしくて泣くとき」の當真あみ、「マイスモールランド」の嵐莉菜。
1907年、横浜の劇場でバレエを初めて見たフジコは、その衝撃を描きたいと画家を志すようになる。そして、同じ舞台を見ていた武術家の跡取娘の千鶴は、いつかバレエを踊ってみたいと言う夢を抱くのだった。
5年後、パリで再会し、千鶴の夢を知ったフジコは、その夢の実現に協力するのだが……
このアニメ、どことなく既視感があるのは、「魔女の宅急便」の近藤勝也がキャラクター原案を手掛け、また、本作のプロデューサーも手掛けた製作会社代表のカルキ・ラジーブが「魔女の宅急便」を好んでいた、と言う事もあるのだろうか?いずれにしても、一昔前の欧州と言うのは、日本人にとって、現実味のあるファンタジー世界としてイメージし易いものであるようだ。
また、細部までリアリティのある描写をしているのが、本作を宮崎アニメに通じるものとして見せているように思う。
バレエの踊り、そして、千鶴の本領でもある薙刀の所作は、モーションキャプチャーにて実際の動きを取り入れて描かれ、モーションキャプチャーし切れない指先の揃え方などは、実写映像から、経験のあるアニメーターが描いたのだ、と言う……バレエについては、フランスバレエとロシアンバレエの身体の使い方の差まで描く事を求められた、と言うから相当な拘りだろう……自分にはバレエの知見がないので判らないが、この辺りは詳しい人の評も知りたい所。
更に、本作は、「メカ作画監督」がいるが、これは何もロボットアクションがある訳ではなく、本作が描くのは1912〜1916年のパリだから、後半には第一次世界大戦が始まってしまう。
その戦争描写を、第一次大戦と言えば誰もが連想する塹壕戦ではなく、空中戦と空襲で描いているのが特色であり、そこに「メカ」の出番がある――ロンドンを空襲するツェッペリン飛行船に、迎え撃つRAF・S.E.5……後半には、スパッドA2と言う珍機まで登場するのには笑ってしまった。(このゲテモノが動画になったのは初めてではないのだろうか?)
物語は、当初の、パリでオーケストラの指揮者を目指す日本人少女の物語、と言うのが現実的ではないとして、脚本の吉田玲子が、10代少女の現実味のある夢として「画家」と「バレリーナ」にした、と言う。
このダブルヒロイン、と言う構成は、ジブリは勿論、ディズニーでもあまり例を見ないもので、これは本作の特色のひとつとなっている。
ファンタジックな描写を極力控え、唯一あるのはフジコのインスピレーションが爆発する時だけ、と言う、リアリズム重視のアニメだが、前述するように、確かなリアリティで描き出された物語は、良質の青春映画となっている。
見応えのあるのは、やはり千鶴のバレエ修行で、天性の才能だけで難関を突破するのではなく、周囲に助けられながらステップを一段一段登っていくのには見応えと説得力がある。
その一方で、主人公であるフジコの絵についての物語が希薄になってしまっているようにも思うが、これは仕方のない事だろうか。
そして、千鶴の登るステップは、やがてオペラ座の舞台になる、と言うのは感動のクライマックスでもあるし、それにも一定の説得力を持たせているのは吉田脚本の妙、か。
予備知識なく、予告編だけ観てイメージしていたのより、はるかに複雑で長期に渡る物語となっていたのは驚きでもあるし、非常に見応えもあった。
これは大変に力の入った映画であり、日本式セルアニメのひとつの頂点と言える傑作だと思う。
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