mixiユーザー(id:124952)

2025年12月30日08:19

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「セプテンバー5」感想

 これは、オリンピック史上最悪の悲劇として語り継がれる1972年ミュンヘン五輪で起きた人質テロ事件を、TV局クルーの視点から描く社会派サスペンス。
 出演は「ニュースの天才」のピーター・サースガード、「パスト ライブス/再会」のジョン・マガロ、「ありふれた教室」のレオニー・ベネシュ。監督はティム・フェールバウム。

 1972年、西ドイツ・ミュンヘンオリンピック開催中の9月5日、五輪選手村で、パレスチナ武装組織「黒い九月」による、イスラエル選手団9名を人質にするテロ事件が発生。
 その一部始終は、当時、技術革新がめざましい衛星中継を経て、全世界に生中継された――その、世界が固唾を飲んで見守ったTV中継を担ったのは、こうした事件を報道するニュース番組のクルーではなく、オリンピック中継の為に会場入りしていたスポーツ番組の放送クルーたちだった……

 この映画、厳格なルールに基づいて、9月5日の未明から、事件が悲劇的な幕切れを迎える翌9月6日の未明までの約24時間を描いている――そのルールとは、「TVクルーと同じ目線で見る」と言う事……視点は基本、オリンピック会場のTV局放送基地内で、幾度か出入りはあるが、それもTVクルーの移動範囲に留められる。実際の事件の再現であり、記録映像を使えば描写や説明が楽だろう、と言う場面でも、それらはあくまでTV局クルーがモニターで見る事が出来る範囲に限られるのだ。
 これにより、観客も、あたかも自らTVクルーのひとりとして、その場に居るような臨場感を感じられるのだ。

 本作に主人公はおらず、基本は様々な立場の人々らの群像劇となる――プロデューサー、ディレクター、カメラマン、音声、そして通訳……オリンピックの為にかき集められたチームが、本来の仕事ではない事件に直面し、それでも「自分たちはジャーナリストで、そして“現場”にいる」と言う矜持と責任を以て、中継を成功させる……と言うのは、これは娯楽映画の枠組みとしても出来すぎなぐらいで、これには胸が熱くなる。
 また、当時の実際の機材を集め、当時のTV放送をそのままに再現しているのも興味深い。今と違い、機材は重くて大きく、電池の性能も低いし、メディアの情報量も小さい。勿論、コンピューターなどなく、画面にテロップを入れるにもひとつひとつが手作業となるのだ。また、インターネットのない時代、情報を調べようにもソースが限られるのだが、それを巧みに組み合わせて、放送できる素材を作り上げて行くのには驚かされる。

 映画は、テロ事件と進展に留まらず、TV局内での番組制作部と報道部の主導権争いに始まり衛星電波の奪い合いや、現地警察の介入など、“その日”に起きたさまざまな要素を突っ込み、そしてかき回す……登場する誰もが、悩み、話し、時にぶつかり、そして走り回る――そして、驚くべき事に、この映画、ほとんどノンストップで、“その日”の24時間を90分に圧縮して見せるのだ。この緻密で、濃厚なスピード感には驚くしかない。
 更に、映画を観終わった後に痛感する、この事件の要因が、今尚存在し、現在とも繋がっている、と言う現実感……これは傑作だ。
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