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2025年12月17日00:07

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「落下の王国」感想

 これは、「ザ・セル」のターセム・シン監督が描くアドベンチャー・ファンタジー。
 2006年に製作されたもので、構想26年、24か国を巡り、13の世界遺産でロケをし、撮影期間は4年にも及んだ、と言う。勿論、これが劇場映画2作目と言う新人監督に出資をするスポンサーはなく、製作体制は、ターセム・シン監督の自主製作に近いものがあったようだ。
 日本では2008年に公開され、当時は興行収入¥5千万円程度の不発に終わったのだが、17年の時を超え、4K・デジタルリマスター版として公開された本作は満席を連発させる人気となっている。

 1915年、ロスアンゼルス郊外の病院。映画撮影中に橋から落ちて大怪我をった、スタントマンのロイは、私生活でも恋人を主演俳優に奪われ、絶望していた。
 そこに現れたのが、オレンジの樹から落下して入院していた5才の少女アレクサンドリア。
 ロイは、入院生活で退屈していた彼女に、思いつきの冒険物語を聞かせ始める――それは6人の戦士が、総督オウディアスへ復讐を果たす物語。主人公は仮面の山賊だ――
 でも、この語りには裏があった。ロイは、歩けない自分に代わり、アレクサンドリアに、薬を薬剤室から盗ませ、自殺しようと企んでいたのだ……

 この映画、はらは公開時にも観ており、そのビジュアルには圧倒された事が印象に残っている。今回、4Kリマスター版をあらためて鑑賞したのだが、ブラッシュアップされたその映像は正に圧巻……2006年製作だから、勿論、CGなど使っていない。これが、現実の光景か、と信じられないような絶景が幾つも登場するのだ。
 その代表は、インドのチャンド・バオリの階段井戸だが、その他にもパラオの蝶型の環礁など、「CGではないか?」と、目を疑うような光景が連発される。また、タージ・マハルに、ウメイド・バワン・パレスなど、インドの世界遺産が多いのは、やはり、インド出身のターセム・シン監督ならでは、だろうか?
 そして、石岡玲子の衣装が、その絶景に負けていないのも特筆に値するだろう――ちなみに、石岡玲子が衣装を手掛けた映画は8作品、うち、4作品がターセム・シン監督作だと言うから、相性もよかったのではないかと思う。

 物語の方は、「物語についての物語」となるだろう――退屈な入院生活、色褪せた現実の中で、物語は色鮮やかに輝くのだ。最初は退屈凌ぎとして、その場の思いつきで語られた物語が力を得、やがて現実を取り込んで、遂には、現実を変え、人生を拓くのだ。
 この物語パート、かつて観た時には、話が飛び、筋も繋がらないのにひっかりもしたが、見直してみると作りは非常に巧妙で、現実が物語に映し込まれ、そして変えて行くと言うのを語っているのだ、と思うと納得出来る。また、現実パートの登場人物が、衣装と設定を変えて、物語の中に登場するのも、これもまた夢や幻想によくあるものだし、映画としても、そこに現実と物語の共鳴を感じさせるものとなっている。

 ロイの自殺の為の物語は、アレクサンドリアの干渉で、最後には再生の物語へと変容する。
 そして、ロイが身体を張った映画は完成し、そしてこの映画も終わる。
 映画を締めくくるのは、映画創成期から身体を張ったスタントマンの姿……走り、転び、ぶつかり、そして落下する――そのひとつにもかくも豊かな物語があり、それらが煌めく“落下の王国”こそが映画なのだ、と言う映画賛歌を謳い上げる……なるほど、大人気にも納得の1本だ。
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