これは、「ミッドナイトスワン」の内田英治が原案・脚本・監督を務めて描く、貧困から危険な裏社会に踏み込んだ家族を描く人間ドラマ。
出演は「ラーゲリより愛を込めて」の北川景子、「シティハンター」の森田望智、「マッチング」の佐久間大介。
蒸発した夫の借金と、二人の子供を抱えて東京へ逃げてきた永島夏希は、昼夜働きながらも、食べるものにさえ困る生活を送っていた。
ある日、夜の街で偶然、違法ドラッグを手に入れた夏希は、それを売って思わぬ大金を掴むが、密売組織からの制裁を受けてしまう。そんな夏希の前に現れたのは、格闘家の芳井多摩恵。裏社会に繋がりがある多摩恵の幼馴染・池田海の口利きで、密売組織の配下となった夏希は、多摩恵をボディガード役にし、本格的に売人の仕事をするようになるが……
映画タイトルの“ナイトフラワー”は、花サボテンの一種・月下美人の事。月下美人は夕暮れに花を咲かせ、朝にはしおれてしまう、夜しか咲かない花、として知られている。
この映画、北川景子が借金抱えたシングルマザーを演じた事でも話題となり、社会の底辺と貧困を描いているのだが、冒頭から(と言うか予告編から)物語と設定の非現実性が気になって仕方ない――北川景子は悪くなく、いささかオーバーアクトに思うものの、なかなかの役作りを見せているのだが、夏希の抱える苦境が雰囲気で描かれるだけ、とか、夏希が最初にドラッグを売った時、何故それが組織にバレたのか、など描写がどうにも雑なのだ。
また、夏希の「母性」をいささか誇張して描く事も居心地悪く、これも、“悪しき男性性”の発露ではないか、とも思ってしまった――内田英治監督は「ミッドナイトスワン」でもそうした傾向があったが、男社会の住人からの“上から目線”を感じてしまう、と言うか……
その一方で、格闘家を演じた森田望智と、彼女が身体を張った試合シーンは素晴らしい。森田望智は、本作の為に半年のトレーニングを積んだ、と言う事で、本物と見紛う程の空気を纏って、今までの彼女が演じた役を感じさせない辺りは、カメレオン女優の面目躍如だろう。そして、試合シーンも素晴らしく、本物の選手相手の格闘、そして殴られて変形する顔まで見せるなど、日本映画として相当に気合の入ったものとしているのだ。
あと、特筆しておきたいのは、田中麗奈で、元々“特殊メイクなしで猫むすめを演じた”彼女だが、本作では“素顔で「アバダー」のナヴィ族”と言う感じで、何とも底知れぬ雰囲気を見せていた。
終盤の展開は、内田英治の悪い所が露わになった感じがした――クライマックスに向け、物語はいささか過剰にドラマティックな様相を見せて行くのだが、編集の事故で必要なシーンまで切っているのでは?と思うくらいに話が繋がらないし、展開が判らない。
そして、最大の問題はラストシーン……ハリウッド映画なら当然ですが、そうでなくとも、物語の中で罪を犯した者がハッピーエンドを迎えるのは映画の倫理的に許されない以上、夏希が踏み外した道の先に明るい未来はない。であればこそ、その結末は逃げずに見せるべきだろう――それなのに、本作は最後を家族の幸福な笑顔で締めくくった。ラストシーンが陽光の下に咲く月下美人なので、それが現実ではない、と言う言い訳はあるのだが、私はそれは「逃げ」だと思った。
社会の底辺を描くなら、そのどん底に向き合う覚悟が必要なのではないだろうか?――貧困、暴力、犯罪と、そして死……重い題材だからこそ、逃げずに向き合う覚悟が必要なのではないか、と……
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