これは、山田洋次監督が倍賞千恵子と木村拓哉のW主演で描く、人生の終焉に向かうマダムの「1日の旅」。
原作はクリスチャン・カリオン監督のフランス映画「パリタクシー」。
タクシー運転手の宇佐美浩二は、腰を痛めた同僚から予約客の対応を頼まれる。娘の学費や車検など家計が苦しい浩二は、「長距離の上客」と言う言葉に釣られて、徹夜勤務明けながら、その仕事を引き受けた。
85歳の老婦人・高野すみれを柴又の帝釈天でピックアップ、神奈川の葉山にある高齢者施設まで送るのが仕事だが、すみれは浩二に、「思い出の場所を訪ねたい」と、いくつかの寄り道を依頼……それに快く応じた浩二に心を許したすみれは、自らの過去を語り始めて……
映画は、基本、老婦人と、彼女を施設に送り届けるタクシードライバーの会話劇で、思い出の場所を巡る老婦人の思い出話から、過去の回想シーンに転じると言う展開も「パリタクシー」そのまま。ただ、本作は、そこに、日本の戦中・戦後史を振り返り、更に、山田洋次監督のフィルモグラフィーをも織り込んで、内容の濃い、見応えのある映画としている。
言問橋で東京大空襲を語り、未だに残る下町の小道で戦後の復興を語る。ブギウギ・ダンスに、立見客で混雑する映画館など、当時の風俗も描かれているし、朝鮮帰国事業や、DV、そしてウーマンリブを思わせる女性の反抗、と現在にまで通じる社会問題をも盛り込んでいる……確かに、この辺りも「パリタクシー」と同じではあるのだが、それを日本の戦後史に合わせて再構築、更に、思い出話に重ねて現在の街並みを見せる事で、失われた昭和の東京への愛惜と、移り行く時代をも切り取っているのは、さすがは山田監督、熟練の技と言えるだろう――ただ、語り口としては、強い感情を押し出す事は少なく、時にユーモアを交え、あるいは表情で語るに留めるなど、抑制を効かせているだけに、淡々とした印象を与えるかも知れないが……
また、すみれを迎えに行くのが柴又は、山田監督の代表作「男はつらいよ」の舞台でもあり、すみれの若い頃の描写には、倍賞千恵子のデビュー作で、これまた山田監督の「下町の太陽」にも繋がるシーンも盛り込むなど、山田洋次監督映画の集大成とも言えるものとなっているのだ。
映画の中心となるのは、やはり倍賞千恵子で、さすがの存在感。そんな彼女の前では、いつもぶっきらぼうで我を通すキムタクでさえ、受けに回らざるを得ず、ラフな格好が持ち味のキムタクが終始ネクタイを締めて畏まっているのが新鮮であったり……
最後に泣かせてサプライズで締めるのもオリジナル通りで、観終わってすっきり、面白かった、と言える内容も山田洋次監督映画らしい。
ただ、本作は松竹創業130年の記念作品であり、内容的にも、山田洋次監督映画の集大成であるならば、リメイクではなく、オリジナルで見せて欲しかった。と思ってしまうのだが……
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