これは、1970年代、軍事政権下のブラジルで、元議員のルーベンス・パイヴァが軍によって拉致された事件を、「モーターサイクル・ダイアリーズ」のウォルター・サレス監督が映画化したもの。
本作は、ブラジル映画として史上初めてアカデミー作品賞にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞。
主演は、本作でゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞した、ブラジルの名女優、フェルナンダ・トーレス。
1971年、ブラジルの元国会議員ルーベンス・パイヴァが突如軍に連行され、音信不通となってしまう。
更に、妻のエウニセも拘束され、12日間にも及ぶ苛酷な取り調べを受ける事になる。
ルーベンスの行方は判らず、軍から監視を受け続けながらも、エウニセは決して諦める事無く家族を守り続けるのだが……
この物語は、1970年代の軍事政権時代から、現在のブラジルに至る時代の流れに翻弄される家族の話ではあるのだが、さすがは名匠、ウォルター・サレス監督、家族に迫る強権的な軍事政権の圧力を、身に迫る臨場感を以て描いているのが何とも恐ろしい。
尚、ウォルター・サレス監督は、十代の頃にパイバ一家と親交があったそうで、家族の暮らしや、家の様子もリアルに再現されているだけに尚更だ。
特徴的なのは、視点を広げる事をせず、あくまでもエウニセの視線で描き、政治的な背景や、軍の思惑などについては触れない……それ故に、家族に起きた事を通じて、社会が得体のしれないものと化す恐怖を、普遍的なものとして見せるのだ。
また、映画は、主役のエウニセに寄り添うのだが、その弱みを見せる事を好まない――エウニセを演じたフェルナンダ・トーレスが展開に感情を揺さぶられ、涙を流したカットをウォルター・サレス監督はすべて切ったと言うし、唯一、心折れそうになったシーンも、娘の視線を感じて母の顔に戻るなど、「母は強し」と言う姿勢を貫くのだ。
また、本作は音楽の選曲がなかなかだ、と言う……映画中でも名前が出され、そのジャケットを見た軍人が何か納得した表情を見せるカエターノ・ヴェローゾを始め、体制に逆らったミュージシャンの楽曲が効果的に使われているそうだ……以前観た「撃たれたピアニスト」もそうだったが、この辺り、ブラジル人ならば判る事でもあるのだろうけれど、なかなか理解するには至らない事にもどかしさを覚える。
映画は、政府が強権的になった時、それに反する人がどういう目に遭うかを描いているのだが、これは決して過去の話ではない。現在のブラジルでは、軍事力を背景に強権政治を布いていたボルソナル大統領が落選し、民主的なルラ大統領となってはいるのだが、ボルソナル前大統領は、トランプ大統領との親交を背景に復権を目論んでいるとか……右派は本作を「存在しない軍事政権を描いた絵空事」と酷評しているそうだし、この映画が描かんとする物語は、現在のブラジルにおいても、まだまだ終わっていない、と言う事だろうか……
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