mixiユーザー(id:124952)

2026年10月11日17:19

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「雌鶏」感想

 これは、ハンガリーの鬼才、パールフィ・ジョルジ監督が、1羽の雌鶏を通して、社会の理不尽さを風刺する現代の寓話。
 
 養鶏場で生まれた1羽の黒い雌鶏。採卵用鶏として出荷時されるトラックから脱走し、自由を手に入れた彼女は、刺激と危険に満ちた世界を彷徨う。
 ある日、犬に捕まり、咥えられたまま連れ込まれたのは、海辺の廃業したレストラン。怪しげな男たちが出入りする家の鳥小屋で新生活……初めて見る雄鶏と、彼との交尾、そして産卵……だが、産み落とした卵は毎日、人間に回収されてしまうのだった。
 ある日、小屋を抜け出した雌鶏は、そのせいで飼い主一家が関わる“裏稼業”での問題を起こしてしまい……

 この映画の主人公である雌鶏は、これが何とCGやパペットと言う動物映画でお馴染みの特殊効果を使わず、8羽の雌鶏を使い分けながら、全て実演にて撮影したのだとか……まずは、そんな鶏たちの名演技に驚かされる。
 冒頭、機械的で自然と生命の営みを無視するかのような、鶏の“生産工場”に始まり、そこで生まれた1羽の黒い雌鶏が“不良品”として排除される所から物語が動き出す……職員の夕食になりかけた雌鶏だが、鶏には人間の言葉は判らないので、ただ、何かをついばんでいる鳩を見て、自分にも寄越せと駆け出して危機を脱してしまうと言う、鶏に寄り添っている描写が、何ともおかしい。
 その後も、キツネに追われるサスペンスあり、朝の街に迷い込み、街並みや朝市の喧騒を、鶏目線のスーパーローアングルで見せるなど、正に見た事もない冒険行に引き込まれる。

 後半、海辺のレストランに舞台が移ると、物語から躍動感と新鮮味は消えるが、今度は、人間と家禽、と言う関係性を考えさせられる展開に転じて行く――雌鶏の世話をする一家の老主人だが、それは決して“優しさ”ではなく、家禽として利用し、産んだ卵を食べる為なのだ。鶏目線だと、お腹を痛めて産んだ卵を割って食う、それが違うものに見えて来る……特に、胚(有精卵なので)を取って捨てる所の生々しさと行ったら……
 勿論、そこには搾取の構図が見てとれるのだが、同時に、一家の“裏稼業”でモノのように扱われる不法移民たち、それを通報した老主人が、不用品のように“始末”されるのは、人間もまた同じなのだ、と言う暗喩だろうか……

 だが、老主人の死により、今度は卵が食べられる事無く孵化……雌鶏はやっと雛に出会う事が出来た。
 最後まで物言わぬ雌鶏が主人公であるだけに、その真意は語られる事はない。だが、生きて、愛して、子供を産む……ただ、それだけの事なのに、それを悉く妨害するのが、人間社会の構造だ、とでも言うような展開には考えさせられるものがあった。
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