これは、「君の名は。」のアニメーションスタジオ、コミックス・ウェーブ・フィルムが手掛けた短編アニメで、フリーの映像作家として自主制作を続けてきた片野坂亮による初の商業アニメ作品となる。
主演は、歌手・タレントのあの。共演に花澤香菜、三木眞一郎。
夏の終わり、熊本の海辺の町。10才の少年・湊は、母親が家を出てから酒浸りの父・マサルとふたりで暮らしている。
父の暴力に怯える港にとって、夕暮れに姿を見せる、弁天島の小さな社の神さま“べんちゃん”だけが心の拠り所だった――だが、湊は施設に保護され、町を離れることとなり、そうなれば、湊しか祈る者のないべんちゃんは消えてしまうだろう。
湊は、命と引き換えに願いを叶えてくれるという不思議な光・不知火<しらぬひ>に祈るのだが……
本作は上映時間36分と言う短編ながら、なかなか見応えのある映画になっている。
映像は、さすがコミックス・ウェーブ・フィルムと言う美しいものだし、声優陣も素晴らしい。「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」で、あのの声優としての見事さは承知していたが、本作でのあのは、下手な本職以上……冒頭の幼い湊の声に驚き、タレントのあのの声を封印し、ちゃんと1少年の声を出している事に感嘆した。
物語はファンタジー……と言うか、1996年と言うほぼ現代を描きながら、まるで昔はなしのような「願いと代償」をテーマとしている。
もうひとつのテーマとなっているのが「DVと家庭崩壊」だ――貧しさ故に水商売から風俗へ身を落とした母に、理不尽な嫉妬をぶつけた父――だが、現実から逃避し、何かに依存する、と言う点において、湊と父はよく似ているのだ。
似た者でもあり親子でもある、それ故の強い近親憎悪が、湊の“祈り”を“呪い”に変える……その暴力の矛先を己に向け、己が命を代償にして……
最後、去って行く2頭のクジラは、湊とべんちゃん、あるいは母であろうか……物哀しくも美しく物語は終わるが、後味には苦いものが残る……湊の決断もそうだが、結果、救われる事のなかった父もまた哀れに思えてならない。
ログインしてコメントを確認・投稿する