〜「女は二度決断する」「愛より強く」などで知られるドイツの名匠ファティ・アキンが、第2次世界大戦末期のドイツを舞台に、母の願いをかなえるべく奔走する12歳の少年の姿を通して時代の転換点をみずみずしく描いたドラマ。アキン監督の恩師であるドイツの俳優・映画監督・作家ハーク・ボームが自らの幼少期の体験をつづった自伝的小説を映画化した〜
〜第2次世界大戦末期の1945年。ドイツ北部のアムルム島は、本土へ向かう爆撃機が上空を飛び交いながらも、どこか楽園のような静寂を保っていた。この地に疎開してきた12歳の少年ナニングは、戦地から戻ってこない父に代わり、農作業を手伝い家族を支えている。そんなある日、妊娠中の母ヒレが、心酔するヒトラーの訃報を受けて絶望し、心身ともに崩壊してしまう。生気をなくし食事を拒む母が唯一口にしたいと願ったのは、たっぷりのバターとはちみつが塗られた白パンだった〜
<映画.comさんより>
かなり内容に触れていますので、未見の方はご注意下さい
いやあ〜、良かった。これは、良かった。
冒頭に上空から映し出されるアムルム島の美しさよ。
ドイツ本土とは違うこの島の独特の雰囲気が、作品を静かに包み込む。
始まってすぐ、連合軍の爆撃機がやってきて海に爆弾を投下。
その時、確か、ナニングが「あれは、バラストだ」と言ってて・・・。
「バラスト」ってなんだ?
’乗り物(本来は船舶)の重量を増したり重量のバランスを取ったりするために積み込む重し’
不要の爆弾を落として行ったということ?
12歳のナニングは、妊娠中の母親と叔母、弟と妹の5人家族。ハンブルクから疎開してきました。
父親はSS(ナチス親衛隊)の将校で・・・最後の手紙で居場所が明らかになります。
東プロイセン(と、あとひとつどこか)から避難民が島にやってきます。
学校では、その子たちが、島の子たちに「そよ者」扱いされていて、ナニングも島の子たち側にいるんですが、島の子たちに「お前も島の者じゃないだろう」と、どちら側でもない’真ん中’に立たされるナニング。
ただ、島の子たちはおそらく皆、ナニングの親がどういう人物かを知っていて・・・。
ナニングに対しては、それ以上、手を出してきません。
ナニングの母親ヒレはヒトラー信奉者。
家の外には、鉤十字の旗が高らかとなびいています。
なので、ナニングが夕食時に何気に「戦争は終わるの?」と尋ねた時(農場アルバイト時、テッサがそんなことを言っていたので)ヒレは猛烈にナニングに問いただしてきます。
「誰が言ったの?」「兵士は祖国のために戦っているのよ」
ヒレはそれを言ったのはテッサと決めつけ、密告へ。
後日、テッサが畑仕事をしている時、ナチ党員と思われる男がやってきてテッサに警告。
テッサは「あの母親にこの子ありだ!」と怒り、ナニングはもう、そこで働けなくなってしまいます。
(本来なら、ここでバターがもらえるはずだった...)
ちなみに、ナニングと一緒に農場で働いていたのが、友人のヘルマン。
(この子、すごく魅力あった。いつか、主役とかやりそう)
ヘルマンはナニングの父親の書斎から『白鯨』を借りていきます。
船長はヒトラー、沈みゆく船はドイツ。なるほどね。鯨は何だったっけ?ソ連?
ヒトラーが自殺。
ヒレはショックがたたってか、いきなり破水。それでも赤ちゃんは無事出産。
しかし、まるで食事をしなくなります。
唯一食べたいと言ったのが「バターと蜂蜜をたっぷり塗った白パン」
そこからナニングの冒険の始まり、始まり。
食材を求めて、食品調達が困難な町中を走り回るって、どこか『大統領のケーキ』?
ただ、こっちはナニングひとり。

もいません。
必要なのは、パン作りに必要な小麦粉に卵、そしてパンに塗るバターと蜂蜜。
それらをナニング調達していく過程が見どころの一つなんですが、一番スリリングだったのが砂糖ゲットシーン。
(砂糖は蜂蜜がすんなり手に入れば必要なかったんですが)
アムルム島は、干潮時は隣のフェール島と繋がり、徒歩で移動できます。
ナニングは、ヒトラーユーゲントの制服を身にまとい、母親と同じヒトラー信奉者である叔父オンノを訪ねるため、フェール島に自転車で向かいます。
オンノは砂糖ならと、分けてくれそうになるのですが、その時、ナニングにヒトラーユーゲントなら、いつでも口に出せるはずの標語を言ってみろと迫り・・・。
ようやく砂糖はゲットできたものの、帰り時間が遅れてしまい、なんと海は満潮に。
片手に自転車。片手に砂糖。水量はどんどん増して・・・。もう命がけ。
この海、干潮時は穏やかな表情を見せるものの、満潮時はひたすら恐怖。
この表情の移り変わりが、今作で重要な役割を果たしていると思いました。
この海は、ドイツの戦況?それに左右されるドイツ国民の心境?もしくはナニングの成長過程?
そういうことを考えながら見ていて、ますます引き込まれていきました。
自転車(叔母のもの)は失ってしまいましたが、母親のために砂糖は守り切ったナニング。
結局、母親を優先したのかという、いじわるな見方も。
しかし、小麦粉と卵の入手方法は驚きました。バターを手に入れた時も...。
別のエピソードですが・・・。
ヘルマンとうさぎを捕まえて、肉屋に「さばいて〜」と持って行くものの、逆に「さばいてみろ」と言われてしまうドキドキシーンや、いきなり「アザラシになれ」と言われ(笑)、砂浜に横たわるシーンなど、ちょっと吹き出してしまうシーンも。
このあたりは、島民にとっては当たり前の日常なんでしょうが、ナニングにとっては、何もかも人生初体験で、いつ気を失って倒れてもおかしくないことばかり。
話は戻りますが、バターを手に入れた後、ナニングが、避難民の少女から「兄を助けて!」と言われ、海で溺れかかっている少女の兄を助けるシーンがあります。
この時に使うのが、叔父テオのナイフ。
テオはアメリカにいるのですが、かつて、あるユダヤ人女性との結婚を望んでいました。
ところが、彼女は収容所へ送られ、殺されてしまったという。
ナニングの両親、とりわけ父親は助けられる立場にあったのに、彼女を助けなかった。
そんなことがあったなんて・・・。知らなかった家族(親族)の過去。
自分の中に未知なるモノがどんどん入ってきて、ついでに夢にはテオ叔父さんが登場。
やがてドイツは無条件降伏。
ナニングの家の鉤十字の旗も下ろされます。
島民たちが集まって、楽しそうに踊ったりしています。
ヘルマンがナニングに「こっちにおいでよ」というそぶりを見せますが、ナニングは断ります。
※予告編
https://youtu.be/XiZmpbMvGZg
あれっ、パンを作ってもらうのって、降伏のあとでよかったっけ?
材料が揃い、パン屋に白パンを焼いてもらい、家でスライスして、バターと蜂蜜をかけ、母親のもとに持っていくナニング。
ナニングはどれだけヒレの喜ぶ顔が見たかったことでしょう。
しか〜し、母親は「台所に返して」と言ってきます。
白パンを台所に戻したナニングは、再び母親の元に行き、泣き崩れます。
この時のヒレの態度には、同じ母親として、怒りしかありません。
ヒレ「弱虫だから戦争に負けたよの。男らしくしなさい!」
えっ、マジか、おい、ちょっと、それは酷すぎるだろう。大事にすべきなのは、ヒトラーより息子だろうが。
ヒレがそうなってしまったのは、ヒレ本人のせいではないっていうのも、わかるんですけど、やっと普通の子のように(ヒトラーユーゲントではなく)泣けたというのに、ナニングがあまりにも可哀想だった。
台所の白パンの行方には、場内は穏やかな笑いに包まれました。
されど、ナニングの気持ちになれば、彼の感情爆発もわかるわけで。
後日、ヒレはナニング&子供たちを連れて町へ(妹はいなかったような)。
肉屋で配給券を出し肉をもらおうとしますが、もう、それは使えないと言われてしまいます。
肉屋「買うなら、ドルかポンド、もしくは物々交換」
どれも持っていないヒレ。子どもを外で待たせて「つけ」を頼むものの、肉屋は断ります。
するとヒレは・・・。
この母親の行為&謝らない態度。何をやったか知ってしまったナニング。島民たちの視線。なかなか強烈。
ナニング一家が引っ越しを決めました。
ヘルマンが『白鯨』を返しに来ます。まだ半分しか読めていないっていうところが意味深。
「本はあげる」とナニング。
ナニング「所詮、僕はよそ者だ」
ヘルマン「君は僕以上に島民だよ。本物の島民は島を出ていくんだ」
ヘルマン、なんて良い子なの。実際そうだとしても、ちょっと、この台詞は泣けたぞ。
馬車が動き出すと、避難民の子たちが働いている様子が見えます。
兄を助けてもらった少女が「待って〜」と声をあげています。そして・・・。
最後のナニングの笑顔は『ジョジョ・ラビット』のラストシーンの2人を思い出しました。
テッサがダイアン・クルーガーだったとエンドロールで気づきました。強力キャスティング!
総評:ファティ・アキン監督作は、そこそこ観ているんですが、全部が全部好きというわけでもなく・・・。
ただ、今作は大好き!最初から最後まで全部好き。アキン監督作で一番好きかも。
島民、中間、避難民。ヒトラー信奉者の生き様。ヒトラー信奉(者)に対しての温度差。
何も知らなかったナニングだけど、この島での体験を得て、無敵な大人になる気がした(笑)
93分とコンパクトにまとめられているのも素晴らしい。必見の傑作!4.2☆
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