これは、末期がんの哲学者・宮野真生子と、人類学者・磯野真穂が交わした20通の往復書簡を書籍とした「急に具合が悪くなる」を元に、「ドライブ・マイ・カー」「悪は存在しない」の濱口竜介監督が映画化したヒューマン・ドラマ。
主演は「ベネデッタ」のヴィルジニー・エフィラ、TAOの名でモデル・俳優・監督としても活動する岡本多緒。共演は、「敵」の長塚京三、「見はらし世代」の黒崎煌代。
尚、今年のカンヌ映画祭では、ヴィルジニー・エフィラと岡本多緒が、異例の主演女優賞W受賞をしている。
パリ郊外の介護施設「自由の庭」の施設長マリー=ルー・フォンテーヌは、入居者の認知症患者に対し、人間らしくケアする“ユマニチュード”の技法を導入することを目指していたが、現場からは、人手不足と低賃金・高負荷なスタッフ待遇に対する不満の声が上がり、悩まされていた。
そんなある日、日本人舞台演出家・森崎真理と出会ったマリー=ルーは、真理が手掛けた舞台に心打たれる。さらに、末期がんだと言う真理の、諦めない生き様に勇気をもらったマリー=ルーは、そのまま朝まで話し込んでしまう。
そうして始まった真理との交流だが、あるとき真理は、急に具合が悪くなって倒れてしまい……
本作は、淡々とした会話が続き、時に「台詞棒読み」と酷評される“濱口メソッド”の集大成とも言える映画で、時間も3時間16分もある……退屈するのではないか、と危惧したが、これは本当に面白い。入り込んでしまう内容で、3時間超えと言う長さを感じさせないのだ。
物語の方も、今回はきっちり区切りをつけてくれるし、濱口監督映画としては、判り易いとさえ言えるだろう。
物語としては、理想を目指しながらも行き詰っているマリー=ルーの抱え込んでいるものを、哲学者である真理が解きほぐして行く、と言うのが中心となる……介護施設が抱える問題を、「構造」の問題と言ったマリー=ルーに、その「構造」を、「資本主義社会」の構造上の問題として説明する辺りの展開は圧巻で、これはもう「何を観ているのだろう?」と言う疑問も飲み込まれてしまう勢い。
そして、真理の手掛けた舞台劇「近くで見れば、誰もまともではない」に重ね、介護施設の入居者と介護人の敷居を曖昧とする、と言う解決の道筋を、ふたりが見つけ出して行くのだ。
この世界は、先も見通せず、問題だらけ。そんな世界に踏み出して、生きて行く為に必要なのは、ささやかな「勇気」……それがどこから来るのかを示すクライマックスで真理が「生きたい」と言った、その一言に胸が熱くなった。
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