これは、マッツ・ミケルセンと共に「ライダーズ・オブ・ジャスティス」など数々の作品を手掛けて来たデンマークの鬼才アナス・トマス・イェンセン監督によるブラックコメディ。
強盗事件で15年の服役を終えたアンカーは、事件の際に分け前の大金を兄のマンフレルに託し、隠すように頼んでいた。
だが、再会したマンフレルは統合失調症を悪化させていて自身をジョン・レノンだと思い込んでおり、過去を思い出そうとすると激しい自殺衝動に駆られる状況だった。
アンカーは大金を隠したと思しきかつての実家に向かうのだが……
原題の「Den sidste viking」は、直訳すると“最後のバイキング”となり、映画のプロローグとエピローグで語られる最後のバイキングを巡る絵物語のタイトルになっており、物語内にもバイキングが出て来るのだから、邦題も「最後のバイキング」でよかったように思うのだが……
この映画、自身をジョン・レノンと思い込んでいる兄の症状を好転させる為に、ポールとジョージ、リンゴだと思い込んでいる患者を連れて来てバンドを結成させる、と言う予告編から、ほのぼのとした映画なのか?と思わせて、その実、凄まじいまでの暴力描写もある内容……まぁ、マッツ・ミケルセンの映画だから、暴力と流血は当然と言えるかも知れないが……
映画は時に、笑える場面も盛り込んではあるものの、痛みや流血、人体破壊と言う笑えない展開も多く、確かにこれはブラックコメディ。
そして、映画は、その中で“正気”と“狂気”と言う対立を超え、人が脳内に作り出す精神世界に迫って行く……直視現実に直面した際、それを“封印する”のと、それから“逃げ出す”のどちらが“まとも”なのかの問いには考えさせられる。
だが、もっともゾッとさせられたのは絵物語「最後のバイキング」だ。
左腕を失った族長の息子の、疎外感を解消する為、族長は一族の左手を切り落とす……そして、右足を失った者が出れば右足を、とやって行くうちに、一族のひとりが首を落とされて――と言うエピソードは、正に現在、保守派が主張する「行き過ぎた弱者への寄り添い」をカリカチュアライズするもの。
「福祉国家」で知られる北欧各国だが、彼らはバイキングの末裔でもあるのだ。
行き過ぎた弱者への施しは社会を滅ぼす……そうした思いが燻っている事を匂わせるラストシーンには背筋が寒くなる思いだった。
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