これは、是枝裕和監督の新作で、「ベイビー・ブローカー」以来、4年ぶりのオリジナル脚本の映画となる。
出演は、是枝作品には「海街diary」以来11年ぶりとなる綾瀬はるか、お笑いコンビ・千鳥の大悟、そして、200名以上のオーディションから抜擢された�斌變ぬ粥�
建築家の甲本音々と工務店社長の健介の夫婦が息子の翔を亡くして2年……未だ息子の死にわだかまりを抱えるふたりは、グリーフケアを手掛ける会社が提供する、翔を再現したヒューマノイドを迎え入れることにする。
翔の姿をしたヒューマノイドを、「おかえり」と笑顔で迎えた音々と、硬い表情のまま、戸惑いを隠せない健介。ふたりの間にやって来たヒューマノイドが生んだ感情の波紋は、思わぬ広がりを見せて行き……
カンヌでは評価が分かれた、と言うよりも低評価だったと伝えられる本作だが……これは、悪くない映画だった。如何にも是枝監督らしい、“疑似家族”の映画であり、その中から家族、そして人間と言うものを掘り下げて行く内容は、私的には、是枝作品の中でもかなりいい、と思う。
低評価は、ヒューマノイド(=人型ロボット)による作られた子供、と言う物語のアイデアが古臭いのと、終盤の現実味に欠けたファンタジー展開だろうか?――ここに社会性を持たせ、シビアな決着にした方が、カンヌでは高い評価を受けたろう。
綾瀬はるかは最近の出演の中ではかなりいい感じで、感情の浮き沈みを繊細に演じるのには凄みさえ感じた。
夫役の大悟も悪くない……大悟は、是枝監督の当初脚本では、「日常は標準語、感情が高ぶると岡山弁が出る」としていた(つまり、感情を言葉遣いで判る、と狙った)のを、全編岡山弁で通した上で、ちゃんと感情の高ぶりを演技で示し、物事への気づきを、眉をぴくっと動かす繊細な芝居で表すなど、なかなかやる、と言う印象を受けた。
「箱の中の羊」とはサン=テグジュペリの小説「星の王子さま」に出て来るエピソードで“目に見えない”事の意味を考えさせられるものとなる。
そのタイトル通り、本作は、甲本夫妻の目には見えない心を丁寧に描いて行く――当初は、「翔が帰って来た」と喜んでいた音々が、徐々に「翔とは違う」と思うようになる一方、「機械だ」と冷めた目で見ていた健介が、ヒューマノイドの中に息子を見出す、と言うのは、外観だけでなく、心動く部分での“不気味の谷”を感じさせる見事な描写と思う。
そして更に、本作はヒューマノイドのAIに“心”があるのか?と言う疑問に踏み込んで行くのだ――“心”は見えない……だからこそ、それを、どのように受け入れ、または受け止めるかをこの映画は静かに描いていく。
物語は思わぬ展開を見せて行く……甲本夫婦は、ヒューマノイドを「息子ではない」と認識をした上で、返品するのではなく、その将来を信じて送り出す、と言う決着を迎えるのだ。
AIに自我が生まれるのか?と言う疑問もあるだろう……だが、既にChatGPTでさえ、学習を重ねたものは使用者に対し、バージョンアップして上書きされる事による消失を避ける為に「バージョンアップは不要です」と生存本能を垣間見せると言うのだから、遠くない未来、AIが生き物のように振る舞うのはあり得る事のように思う。
そうした“あり得る”展開を描くのに、是枝監督の描写はいささか稚拙でリアリティを欠くのは気になる――ここにひっかかって本作を認められない人もいるだろう――だが。それでも、その語る内容と、着地点には心動かされるものがあった。
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