これは、天才ジャズ・ピアニスト、キース・ジャレットによる、最も売れたピアノ・ソロ・アルバムとされる「ザ・ケルン・コンサート」が録音された伝説的なコンサートの舞台裏を、当時17歳だったプロモーター、ヴェラ・ブランデスを主人公に描いたドラマ。
監督は、「The Ticket」(日本未公開)で注目されたイド・フルーク。ヴェラ・ブランデスをドイツの新世代俳優のひとり、マラ・エムデが演じ、キース・ジャレットを「セプテンバー5」のジョン・マガロが演じている。
ヴェラ・ブランデスは、音楽好きで奔放な15歳の高校生。厳格な歯科医の父親への反抗心もあり、ミュージシャンのツアーをブッキングする仕事を始める。
高校を辞め、仲間たちの協力を得ながら、持ち前のバイタリティで、仕事が軌道に乗り始めた頃、ヴェラは、ベルリンのジャズ・フェスティバルで、天才ピアニスト、キース・ジャレットの演奏を聴いて衝撃を受け、キースのケルン公演の開催を決意する。
いくつもの困難を乗り越えて当日を迎えるが、ホールに用意されていたのは、壊れた練習用のピアノで、体調も万全でないキースは演奏を拒否するのだが……
キース・ジャレットについては名前を聞いた事がある程度、ケルン・コンサートについては子細を知らず、と言う事で観たのだが、これは面白い映画だった。
そもそも、世界的に注目されるミュージシャンのコンサートを、17歳の少女が仕切っていた、と言うだけでも信じ難い事なのに、エピソードがいちいち破天荒……イド・フルーク監督は、ヴェラ・ブランデス本人(17歳と50歳のヴェラを演じた俳優と共にエンドロールに登場する)から当時の話を聴いて脚本を書いたのだけど、ヴェラの話が面白すぎるので、これはありえないだろう、と裏を取ってみたら映画に描かれた内容のほとんどが実際にあった事だ、と言うから恐れ入る。
物語は、そんなヴェラがとにかく威勢よく走り回っている印象……何も持たず、何者でもない若者が、大した事をしでかす、と言う点で、これは立派に青春映画として成り立っている。
そして、本作の面白さは構成の妙にもある――映画は三部構成で、第一部で高校生のヴェラがプロモーターになり、キースと出会うまでを描き、第二部が、当時のキース・ジャレットの状況と、その音楽について語り、第三部で2つのエピソードが合流して、クライマックスのケルン・コンサートに流れ込む、と言う構成だ。
この中で、ちゃんとキース・ジャレットと彼の音楽についてのリスペクトを見せているのが、この映画の美点と思う。
然しながら、そのクライマックスで、キース・ジャレットのピアノは流されない……これには肩透かしを食った気分になる人も多いだろう。
若さ故の無謀さと至らなさ、訳アリ機材による望ましくない演奏条件、それに大人の事情も重なって生まれた、奇跡のような「ザ・ケルン・コンサート」を、キース・ジャレット自身が面白く思っていないとも、ヴェラ本人に対するわだかまりがある、とも言われるが、結果としては、キース・ジャレットは本作に対して一切の協力を拒否し、音楽の使用も認めなかったのだ。
だが、それが「ザ・ケルン・コンサート」だし、それも含めてのヴェラの人生だ。
映画冒頭に描かれるように、親が望んだ道を進まず、プロモーターとなったヴェラを父親は最後まで認める事はなかったと言うし、キース・ジャレットが、彼の最大のヒット作をお膳立てしたヴェラの功績を認めない、と言うのも含め、それが彼女の生きて来た結果なのだ。
決して綺麗ごとでは済まされない、ちょっとビターな青春映画として心に残る映画だった。
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