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2026年01月06日12:50

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「ANORA アノーラ」感想

 これは、昨年のカンヌ国際映画祭でパルム・ドール、今年のアカデミー賞では作品賞・監督賞・主演女優賞・脚本賞・編集賞の5部門を受賞して話題となったショーン・ベイカー監督のロマンティック・コメディ。

 ニューヨークでストリップダンサーとして働くアノーラはある日、ロシアのオリガルヒの御曹司・イヴァンと出会う。アノーラは、ロシア語が話せる事で彼のお気に入りとなり、1万5000ドルで“契約彼女”となる。そんな関係から始まった二人だが、ラスベガスに遊びに行った際、勢いで結婚をしてしまう。
 息子の乱行と結婚に激怒した、イヴァンの両親が部下2人を連れてニューヨークにやって来ると、イヴァンはアノーラを置いて何処かへ逃げ出す。アノーラは、イヴァンの両親とその部下と共に、イヴァンを探し回るのだが……
 
 主人公のアノーラを演じたのは、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」での演技からショーン・ベーカーが見出した、マイキー・マディソン。本作への出演で、彼女は一躍、トップ女優の地位に駆け上がった。
 マイキーはまだ26歳だけど、芸歴は長く、本作出演に当たっては、ロシア語を習得すると共に、ストリップバーに通うなどして役作りに務めたと言う……主演女優賞の受賞は、そうした努力で結果でもあるのだろう。

 映画にセックスワーカーを登場させる事の多いショーン・ベイカー監督が、この映画で描こうとするのは、セックスワーカーの視点の“シンデレラ・ストーリー”。
 シンデレラは魔法の力で王子様のハートを掴んだけれど、アノーラは若さとセックスで御曹司をモノにした――この“若さ”と“セックス”が、何も持たないアノーラにとっては、金を生み、現実を変える、と言う夢を見させてくれる、正に“魔法の力”なのだ。
 そして、愛を知らないふたりの間にあるのは、すれ違いと勘違い――御曹司は、グループを背負う重圧から逃れる為に、若い肉体とセックスに逃避したのだが、アノーラは、“自分”が御曹司を夢中にさせているのだと、勘違い……だからこそ、繰り返し描かれるふたりのセックスは、激しくはあっても、何処か空虚に映される。そこには、愛もなければ、気持ちが通じいる訳でもないからだ。
 でも、“シンデレラ・ストーリー”とはそんなものなのだ、と言うのがショーン・ベイカーの達観だろう……そりゃそうだ。「シンデレラ」の王子様だって、惚れた女の顔も覚えていないぼんくらだったではないか。

 だから、そんな2人の関係は、御曹司の両親と言う“現実”が現れた事で瓦解してしまう――後の騒動は、結局、アノーラが、彼女のクソみたいな現実に戻るだけの後処理に過ぎないのだ。

 ラストシーン、別れの前のクルマの中でのイゴールとのセックスは、アノーラの、彼の好意と親切に対しての、せめてもの感謝の気持ち――彼女には、もうそれしかなく、そんな空虚な生活が変わる、と思っていたのに、それがすり抜けて行き、元に戻ってしまった――その無念さと無力さが、彼女を号泣させたのだろう。
 外に降る冷たい雪のような悔恨と空しさ。ほろ苦い余韻を残して映画は終わる……よい映画だ、とは思う。ただ、カンヌと米アカデミー賞の双方の最高賞に値するか、と言われれば疑問も覚えるが……
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