mixiユーザー(id:124952)

2025年11月17日22:44

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「ブルーボーイ事件」感想

 これは、1960年代に「性別適合手術」を執刀した医師が告訴され、その裁判でトランスジェンダー女性たちが弁護の為に証言をした事実に基づき、日本の知られざる性的マイノリティの歴史を紐解く人間ドラマ。
 監督は、トランスジェンダー男性でもあり、「フタリノセカイ」などを送り出した飯塚花笑。

 1965年、東京オリンピックに向け、東京の街の浄化を目指す警察は、繁華街で娼婦らを厳しく取締まっていた。だが、ブルーボーイと呼ばれる、性別適合手術(当時の呼称は性転換手術)を受けた男性の存在が警察の頭を悩ませていた。売春防止法で摘発出来るのは“女性”だけであり、彼らは“男性”である以上、摘発対象にはならないのだ。
 そこで、警察は性別適合手術に着目、生殖を不能にする手術は「優生保護法」(現在の「母体保護法」)に違反するとして、手術を行っていた医師の赤城を逮捕したのだ。
 同じ頃、東京の喫茶店でウェイトレスとして働くサチは、恋人の若村からプロポーズを受け、幸せを噛み締めていた。そこへ、弁護士の狩野がサチのもとを訪れ、サチに性別適合手術を行った赤城医師の弁護側証人として出廷してほしいと依頼したのだが……

 この映画、まず目を引くのは映画内で再現された1960年代の精緻さ――冒頭の「にっかつ」のタイトルロゴが、’60年代の「日活」であるのに始まり、町の様子から、衣服、日常の些細なディティールまで再現し、徹底している。
 (赤い屋根の電話ボックスとか伊勢丹の包装紙とか、ほんと、よくもまぁここまで、と)
 そのこだわりは、この映画で描く内容を、正に「現実だ」と知らしめる為なのだろう、と思う――飯塚花笑監督の「フタリノセカイ」では、、トランスジェンダー男性を男性が演じており、そこに違和感を感じたりもしたのだが、本作ではトランスジェンダー女性は当事者が演じるようにもしているのだ。
 主演の中川未悠は、そうして、演技未経験だと言うのに主演に抜擢されたのだが、その全く馴染がない世界に戸惑う感じがむしろリアルであり、この映画が語る事は正しく現実なのだ、と示しているように思う。

 本作に関しては、そんな中川未悠のぎこちなさもあって、ドラマを作れていないと言う評もあるが、全く何処を見ているのだろうと思う――本作は、日本映画には珍しい法廷劇として一級の部類であろうし、トランスジェンダーに対し、勉強をしつつ裁判を進める狩野の弁護は(性同一障碍者を精神障碍者を見做すなど含め)日本のトランスジェンダーを巡る社会の許容度の進展を表現している、とも言えるだろう。
 それに加え、検察と警察の語るトランスジェンダーへの偏見は、これまた今現在でも同じ事を国会で主張する議員がいる、正に現在に繋がる問題でもある――本作は、そうして1965年、60年前の日本と現在日本を繋ぎ、この「事件」が今日尚解決しない、我々が立ち向かうべき問題である、と明らかに指し示す、力強いものとなっている。
 そして、それは「性」の問題に留まらず、日本国憲法第13条が定める「幸福追求権」を問うものでもあるのだ。

 裁判は日本らしい決着を迎え、性別適合手術が日本で可能となるには、これから30年の歳月が必要だった、と語られる。
 映画はその名の通り“幸せ”を掴んだサチの笑顔で終わるが、“彼女”のように。誰もが自身の幸福を追求する事が出来る社会に、この国はなっているのかを疑問に思わずにはいられなかった。
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