これは、「北のカナリアたち」以来13年ぶりに阪本順治監督が吉永小百合主演で描く物語。
女性として世界で初めてエベレストに登頂した田部井淳子のエッセイ「人生、山あり時々谷あり」を基にしていると言う。
共演は佐藤浩市、天海祐希、のん、木村文乃、若葉竜也と言う吉永小百合主演作に相応しい豪華な布陣となっている。
1975年、エベレストの山頂にひとりの女性が立った。多部純子による、その世界初の快挙は、皮肉にも彼女から友人、そして、息子の真太郎をも遠ざける事になってしまう。
そして、その晩年、腹膜がんで余命宣告を受けながらも、純子は登山も、そして自身の人生も決して諦める事無く、高みへ向かって歩み続けるのだった……
この映画、意外だったのは、これ、田部井淳子の伝記映画ではない、と言う事。
主人公は「田部井淳子」ではなく「多部純子」であり、映画最後に「本作は事実を元にしたフィクションです」と念押しが入る。
田部井淳子の著書を元に家族の協力も得つつも、実名で描けなかったのは何故か、と言うなら、それは、この映画が、不屈の魂を持つ田部井淳子の伝記映画ではなく、吉永小百合演じる多部純子の家族映画として出来ているから、と言う事のように思う。
そして、大きな存在となってしまった母を持つ息子の葛藤を描き、その結果、疎遠になった息子の真太郎と震災を機に絆を取り戻す、と言う――壮大なヒマラヤの風景に対して小さく思えるその設定は、本来男臭い作風の坂本順治監督にしては珍しい、とも思えたが、それも吉永小百合主演作ならでは、と言う事なのだろうか……
そんな物語のせいもあって、本作は、七大陸最高峰を制覇した田部井淳子の生涯は追わず、海外登山は、女性として世界初のエベレスト登頂を描くのみ。これも、実際にヒマラヤに行くなどの海外ロケは出来ず、撮影は日本アルプスで行ったそうだが、それでものんは当時の登山装備を身につけて、実際に冬山登山して雪中シーンを撮影して、なかなか見応えのあるシーンとしている。
ここまで描けるのだから、正直、青年期を演じたのんを中心に、田部井淳子の功績を追う伝記映画にしてくれたら、と思ったのだが、本作の主役はやはり吉永小百合であり、物語はエベレスト登頂をプロローグとし、あとは吉永小百合演じる晩年の物語となっていく。
勿論、病魔と闘いながら、登山を諦めず、そして、息子との絆をも取り戻していく不屈の姿は、この晩年にも確かにあり、これを80歳になる吉永小百合が、実際に富士山など、登山して撮影したのは大したものだとは思うし、物語は確かに感動的だ。
ただ、最終盤の病床シーンは正直要らないし、これはさすがに冗長だろう。
高校生登山で、休憩所で「もうここまで」と言ったシーンから、ラストシーンで充分だったように思えた。
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