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2025年09月23日23:52

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「千夜一夜物語」感想

 これは、アラビアの説話集「千夜一夜物語」を、手塚治虫の虫プロダクションが、大胆に脚色して作り上げた長編アニメ映画で、1969年に公開された。
 現在放送中のNHKドラマ「あんぱん」にも本作が登場した事もあって、現在、無料鑑賞出来る状態となっており、それを利用して鑑賞した。

 バクダッドを訪れた水売り商人アルディンは、奴隷市で女奴隷のミリアムに魅せられ、砂嵐が市場を襲った混乱に乗じて彼女を盗み出す。
 ふたりは束の間の愛を育むが、悪徳官吏のバドリーに捕らえられ、ミリアムは買い手である長官の息子に引き渡され、アルディンは投獄されてしまう……

 本作は、日本初の成人向けアニメ映画であり、スタッフ・キャストを見ると、とんでもない豪華なもので、虫プロ、と言うよりも手塚治虫の力の入れようが判る。
 製作総指揮と原案・脚本を手塚治虫が務め、監督は「ジャングル大帝」の山本暎一、キャラクター設定と美術は、「アンパンマン」のやなせたかし。音楽が冨田勲。
 声の出演は、アルディンに青島幸雄、ミリアムに岸田今日子なのだが、カメオ出演が凄まじい。立川談志、野末陳平、大橋巨泉、遠藤周作に吉行淳之介、小松左京に筒井康隆と多くの文化人が出演しており、本作への期待の高さをうかがわせる。

 物語の方は、脚色と言うよりも、ほぼオリジナルに近いものだろう――何せ、語り手であるシャハラザードが登場せず、元々の説話にないシンドバッドの冒険や、アリババと40人の盗賊のエピソードが盛り込まれているのだから、「千夜一夜物語」でさえない――これは、手塚版「アラビアンナイト」と考えた方がよいのではないか、と思う。
 成人向けイコール裸とセックスとは安易ではないか、と言う評もあるが、正にそれがアニメーションでは出来なかった事でもあるし、医師免許を持つ手塚治虫ならでの「生と死」と言う作品を越えて貫かれるテーマの「生」とは、生殖であり、セックスでもあるのだから、これを主題とするのは当然の事のようにも思える。
 また、主人公アルディンは、ジャン・ポール・ベルモントをイメージして描かれ、好色で飄々とした性格なども、当時、TVアニメ版が製作進行していた「ルパン三世」の影響もうかがえるのが面白い。
 
 アニメとしては、現在のアニメと比べると全然動いていない、と言う評価にはなるのだろうが、なにしろ50年以上前のアニメなのだ。今とは比較出来るものではないだろう。
 実写との合成、と言うのは、いささか外しているように思えたが、性交シーンの絡み合う肉体を抽象的なうねる線で表現する辺りや、女護ガ島における女体のメタモルフォーゼなど、手塚治虫らしい表現も垣間見る事が出来、確かに表現として意欲的であったのは感じられる。

 未だにアニメ映画が「子供向け」とされているのに、50年以上前に、敢えて成人向けアニメ映画に挑んだ本作は、現在至っても、見るべきものを持っているように感じた。
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