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2024年10月08日13:06

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「シビル・ウォー アメリカ最後の日」感想

 これは、現在に近いアメリカで、社会の分断が進行し、内戦が起きたら……と言う事をジャーナリスト視点で描いた社会派サスペンス。
 製作はA24で、A24として最大の製作費を投入、興行成績もダントツで、本国公開時には2週連続して1位を獲得した話題作。
 出演は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のキルステン・ダンスト、「プリシラ」のケイリー・スピーニー。監督は「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランド。
 フォト

 近未来のアメリカ。強権的な政策を布く大統領に、19もの州が離反して独立を宣言。更に、テキサスとカリフォルニアの同盟からなる「WF(西部勢力)」と政府軍の間で内戦が勃発、各地で勝利を重ねたWFは首都ワシントンへ進攻、その陥落は目前に迫っていた。
 ニューヨークに取材に入った戦場カメラマンのリーは、記者のジョエルと共に、内戦勃発以降14か月に渡り、一度も取材を受けていない大統領への直撃インタビューを行うため、密かにホワイトハウスへ向かう――だが、その道程は、無政府状態に陥った危険なものとなっていた……

 この映画、ちょっと掴みどころのない印象を受けるのではないだろうか――内戦を描きながらも、戦場のスペクタクルを描く事を目的としておらず、ポリティカル・サスペンスとしては、内戦に至った経緯や、現在の政治状況が語られる事はない――物語は、まるで戦場のように荒廃したニューヨークに始まり、状況を説明する事無く、無政府状態の混沌とした旅路に踏み出して行く……強いて似たような映画を挙げるならば、「地獄の黙示録」だろうか……これはつまり、情報が遮断され、誰もが目の前の現実しか判らない状況における社会の混乱を描くものなのだ。
 情報が遮断される、と言う事はジャーナリズムが機能していない(情報統制を行う大統領が、ジャーナリストを処刑している、と説明される)訳で、この映画は、そんな状況下で、それでも真実を伝えるべく、混乱の中心へと突き進むジャーナリストを描くものなのだ。
 旅路の中で、彼らが目にするのは“情報”を奪われた市民の姿……ある者は、疑心暗鬼に陥って過剰な攻撃性を発揮し、ある者は状況変化に目を瞑ってこれまでの暮らしを続けようとする。そんな中で、敵味方も曖昧なままで戦う兵士と民兵、混沌の中で自己の主張を暴走させて行く者……これは決して絵空事ではなく、世界の何処か、混乱の最中で起きている事であり、状況が変われば、それがアメリカでも起きるのだ、と言う事を見せつけるのだ。

 映画は更に、現役ジャーナリストであるリーとジョエルに加え、数多の現実を見て来た老齢のジャーナリストのサミーと、ジャーナリストに憧れ、戦場カメラマンを目指す少女ジェシーを加えて物語に厚みを持たせて行く。
 「仲間が殺されても、死に行くその姿を撮る」と言うリーに頷けず、最初の修羅場ではカメラを手にする事さえ忘れたジェシーが、旅路の末に、すっかり人が変わったようになり、顔立ちさえ精悍になって銃弾飛び交う中に飛び出して行くようになって、ある局面でシャッターを切った彼女の写真は非難もされるだろう。だが、それもジャーナリズムが持つ残酷な一面であるのだ。

 映画主演は、リーを演じたキルスティン・ダンスト。映画「プライベート・ウォー」で描かれた伝説の女性カメラマン、メリー・コルヴィンをイメージした見事な役作りだが、実質的には、リーに戦場カメラマンのなんたるかを学ぶ、ジェシーを演じたケイリー・スピーニーが主役だろう。26歳だと言うが、相変わらず高校生のようなルックスで、若いと言うよりも幼い、と言う感じの彼女だが、冒頭の所在無げな様子から、最後には目の座った、覚悟を決めた表情を見せるまでになるのをしっかりと演じている。

 映画としては、これまでのA24には珍しい、大仕掛けの屋外ロケや大規模のセットなどで、現在起き得るアメリカの戦いを再現。撮影用の軽装弾ではなく、実用弾頭と同様の火薬を詰め込んだ空砲を使った銃撃シーンは発射音の迫力が違い、現場で俳優らを恐怖させる程のものだった、と言う。これを実感するなら音響のいい劇場鑑賞が必須だろう。
 あと、戦場の、悲惨であったり凄惨な場面に、能天気とも思える音楽を被せて来るのも印象的だ……とにかく観客の不快感を煽り、精神を揺さぶる仕掛けを続けるのがこの映画なのだ。
 
 気になったのは、戦闘シーンでのリアリズムの欠如で、これは前述した不快感を煽る演出と合わせて、本作にバトル・アクションの面白さを期待していた観客の期待には応えられないものだろう。また、物語展開上の都合とは言え、ジャーナリストが最前線に突出し、時に兵士の前に飛び出して行くのもあり得ないものと思った。

 本作は様々な受け止め方が出来る映画で、その真価には賛否あるものと思うが、世界の各地で分断が深刻化する現在において、観る価値のある1本であろうと思う。
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