これは。京都で米農家をしながらビデオ撮影業を営む安田淳一が、「拳銃と目玉焼」「ごはん」と言う自主制作映画に続き、東映京都撮影所の特別協力のもと、これまた自主制作した時代劇。
主演は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」などの時代劇に多く出演する山口馬木也。ヒロインは、「ごはん」に主演、本作でも作中時代劇の助監督役を演じた沙倉ゆうので、彼女は本作の助監督も兼任している。
本作は、自主映画として8月からシネマ・ロサにて公開され、口コミで人気となって川崎チネチッタでも公開……更に、9月以降全国拡大公開される、と言うまるで「カメラを止めるな!」のような、広がりを見せている。
幕末の京都。会津藩士・高坂新左衛門が長州藩士と刃を交えたその時、雷に打たれ、気を失った新左衛門が目を覚ますと、そこは、現代の京都の時代劇撮影所だった。
江戸幕府が140年前に終わったことを知り愕然とする新左衛門は、TVで時代劇を観た事をきっかけに、磨き上げた己の剣の腕を活かすには、時代劇の斬られ役として生きていくしかない、と決意をして……
この映画、安田淳一監督の自主映画ではあるものの、京都撮影所の特別協力、そして、“五万回斬られた男”の福本清三との縁(安田監督の稼業は米農家、福本清三氏の実家は米問屋)もあって、東映剣会のバックアップも得られた本作の出来は、自主映画のレベルをはるかに超えるものとなっている。
物語としては、現代にタイムスリップして来た幕末の侍が引き起こすシチュエイションコメディであるのだが、コメディ要素は強いのは前半までで、中盤以降は、本来のテーマが顔を出す――それは、失われつつある時代劇への愛惜であり、それを、維新により消えて行く運命だっ幕末の侍に重ね合わせて描くのが、本作なのだ。
かつて盛況を誇った撮影所も、閑古鳥が鳴いて観光客の撮影スポットとして生きながらえている有様で、TVで人気だった時代劇も今や風前の灯だ。
そんな中で、
「時代は変わったんだ。侍も、時代劇も、もうお終いだ」
「んだが、それは今日でねぇ」
と言う、「トップガン マーベリック」のようなシーンまであるのだ――尚、この台詞、もう1回重要なシーンで使われて、こちらは笑わせてくれる。
エピローグでもきっちりオチをつけ、これは面白い映画だった。
あらためて思うのは、やはりモノづくりには熱意が欠かせないものだな、と……熱意とやる気で、自主制作でも、こんな面白い映画が作れるじゃないか。
時代劇もまだまだ捨てたもんじゃない、とも思うし、惰性でプログラムピクチャーを送り出している大手は猛省すべきではないだろうか。
PS
本日チネチッタは、本作のせいで券売機の所から、日頃見ないような大混雑。劇場もほぼ満席で、劇場に来ていたのは、やはり口コミで本作を知り、ネットでは十分に情報が得られない中、劇場に足を運んだ人たちで、
「これは映画館で観られてよかった!」
とみんな笑顔になっていたし、映画終了後には、珍しく劇場内に拍手が沸き上がった。うん、これはいい映画だった。
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