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哲学の塔〜改〜コミュの第6章〜真実〜

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 本に住む言葉の妖精、クロエ・W・ウィスパーは真実を告げた。

『・解を示す
 “ハイドパークの亡霊”の正体を記す。
 シルエット・ルッキンフォー・ワルツ。
 ワルツを探し続ける影。
 “worLdz”。それは彼女が残した“禁断の言葉”が記述された真実の遺書。
 5人目の子供シドなど、初めから存在しなかった』

 ―1975年。今から25年前…
 “幻術師”エヴァン・ウェンブリーは、21歳の若さで、奇術業界でその名を轟かせてい
た。彼女の魅惑的な容姿と、醸し出すエキゾチックな雰囲気、そして常識を覆すイリュー
ジョンに、観客は虜になっていった。そして彼女は恐ろしき奇術犯罪組織“銀の原野”の
一員であった。彼女は公演が終わり、いつものように楽屋に戻ると、そこに数人の同士た
ちが居た。
「来る2001年、世界はテロとの戦いに突入する」
 若き天才占い師、魔女ユーリ・マーリンは、静かにそう告げた。
「我々“銀の原野”は、変わりゆく混沌の世界と共存していかねばならない」
 若き奇術師、エデン・シルバーフィールドは意味深な笑みを浮かべ、語った。そして振
り返ると、エヴァンに微笑んでみせた。
「我が妹エヴァンよ。見事な演出であった。人間の意識を操る事など、君には造作も無い
 こと。その手腕をいかんなく発揮してほしい。と団長が言っていた」
 エヴァンは、怪訝な表情を崩さなかった。
「犯罪に、でしょ?それよりエスパーお兄様、エデンお兄様の様子は?」
 エヴァンは、エデン・シルバーフィールドの本名を口にしていた。
「私の本名は禁句だと、何度言えば分かる?兄エデンは、計画通り、“秘密の塔”に幽閉し
 ている。そして計画通り、彼の妻ルルー・アンダーソンと、生まれてくるであろう子供
 を手に入れる。全てを、だ」
「恐ろしい男…」
 そのエヴァンの軽蔑した表情を見ながら、ユーリは冷静に言う。
「姉ルルーの心を引き裂く事で、今後10数年の間、世界中に偉大な建築が創造されてい
 く。必要悪なのだ、エヴァン殿。そしてそれが我ら“銀の原野”の抵抗勢力に打ち勝つ唯
 一の切り札となる」
 しかし、ユーリ・マーリンの占いを裏切るかのように、エヴァン・ウェンブリーは、宿敵
“幻影騎士団”の名探偵シャーロット・ロンドンと、禁断の恋に落ちていった。それはふた
りにとって、最も残酷で過酷な運命の始まりだった。


 ―1980年。それから5年の歳月が流れ…
 エヴァン・ウェンブリーとシャーロット・ロンドンの間には4人の子供が居た。敵対す
る組織の間で出会い、恋に落ち、そして残酷な運命に抵抗するかのようにふたりは愛を
育んでいった。レジスタントとして、愛によって、巨大な世界の壁に抵抗していた。
 奇しくも同じ頃、奇術建築家ルルーも、愛を抵抗する手段として、世界各国に奇術めい
た建築物を密かに創造していった。愛する子供たちのために。そして、ロッド・アンダー
ソンが“秘密の塔”に幽閉された“哲学者”と出会い、同時に引き裂かれた時期でもあった。
 様々な運命の糸が交錯する中、エヴァン・ウェンブリーは、世界を騙す最大のイリュー
ジョンを実行に移す決断をした。そして、4人目の愛しい子供たちと別れを告げた。
「君は、そこまでしてその子を…世界を欺く“5人目の子供”を…」
 シャーロット・ロンドンは、“5人目の子供”を抱きかかえ、泣き崩れるエヴァンの肩に
優しく手を置いた。
「あなたと出逢った時、私は心に決めた。世界の悪と戦う事を。どんな手段を使っても」
 振り返ったエヴァンの腕に、生まれたばかりの子供の姿はなかった。そこには何もな
かった。しかし彼女はまるで子供をあやすような仕草をする。そしてシャーロットの目
には、“まだ”子供の姿は見えなかった。
「この子はシド。私がイリュージョンで創り上げた“幻影の子供”。この真実が記された、
 魔女ユーリ・マーリンの占いの全てと、そして“銀の原野”のこれからの未来に起こす
 であろう犯罪の全てが記された“禁断の言葉”を集めたノート“worLdz”。私のチャイ
 ルドのひとり、“探求者”をこのノートに導くのがこの“幻影の子供”シドの役目。
 シルエット・ルッキンフォー・ワルツ。“worLdz”を探す影よ」
 そして彼女は立ち上がり、シャーロットを見つめた。彼女の蒼く知性に富んだ不思議
な瞳が輝いた。そして、彼にイリュージョンをかけた。彼の教え子たち、そして4人のチャ
イルドたちに施した時と同じように。“幻術”が現実を凌駕した。
「想像せよ、そして創造せよ」
 エヴァンは、シャーロットのふたつの瞳の前に人差し指をかざす。
「私は“ミッシンガーの森”に消えたかくれんぼをする小さな子供。
 貴方の前から姿を消すわ。でも貴方との愛は確かなもの。たとえ“目の前”から消えて
 も、心は共にある。今までありがとう、シャーロット」
 彼女は、彼にキスをした。彼女の頬を涙がつたう。そしてそっと離れた。温もりが消え
た瞬間、シャーロットは我に返った。“目の前”には、もうエヴァンは居なかった。しかし
そこには生まれたばかりの子供が居た。“幻影の子供”が見えたのだ。傍に手紙が置いて
あった。彼はそっとその内容に視線をおとす。
『この子をハイドパークのベンチに置いておいて。保護者が必ず引き取りにくるから』
 シャーロットは、エヴァンの残した子供を抱き締めた。
 “幻影の子供”シドはこの世に生まれた――


 ―それから20年の歳月が過ぎ、2000年9月のある夜のとばり。
 ロンドンの街を柔らかく照らす月の下、テムズ川沿いに建築されたロンドン塔の橋の
上に4人の人影が、深くたちこめる霧の中で静かに揺れていた。
 誰にも冒せない程の、静謐な空気がそこには満ちていた。
 時代が遡り、現代のロンドンに現れた中世の騎士団のような雰囲気が流れていた。
 哀しみのロンドンに舞い降りた、古き良き魂の旋律。
 不気味なシルエットのひとりが囁いた。それはスー・ブラックウェルの声だった。
「我々“落ちたリンゴ同盟”は、…全滅する」
「運命の序曲は…始まったということですね」
 別のシルエットが冷静に応える。それはクリス・グリーンウィッチの声だった。
 また別のシルエットが、橋を背にもたれ、空を仰ぐように語った。それは、ウィザード・
ドイルの声。
「黄泉とは、時代の終わり…築かれた礎は崩れ落ちる。真実をも、か。
 “ふたつの塔”が崩壊する。終わりなき、カオスの時代が訪れる…予言どおりならばな」
「現代の魔女、ユーリ・マーリンの占いに、狂いはない」
 スーが答える。そして付け加える。
「至上最悪の魔物が舞い降りる…」
 辺りは静まり返った。
 数分の沈黙の後、ずっと黙っていた“幻影の子供”シドが語りだす。
 いや、その声は他のものよりもまだ若者の響きがあった。
「想像せよ。そして創造せよ。世界は変化する」
 その言葉に、誰もが反応する。
 そこに存在しない“幻影の子供”の方を振り向く。そしてそのシルエットに問う。
「その言葉は彼の…」
 スーの声が、低く囁く。“幻影の子供”シドは丁寧に答える。
「元“幻影騎士団”の皆さん。失礼、今は“落ちたリンゴ同盟”でしたね。
 彼の後継者たちが、長年の時を超え、このロンドンの街に集まりつつあります」
「我々が全滅する前に導かなければならない“ふたつの塔”に。どんな手段を使ってでも」
 橋に背をもたれていたドイルが姿勢をただすと、雄弁に語りだす。
「“ミネルヴァの梟”、“影法師”、“戦乙女”、“救世主”、そして…」
 霧が深まり、月が雲に隠れ、闇が訪れようとしていた。
「もうすぐこのロンドンにやってくるだろう最後のチャイルド、“探求者”」
 3人は黙っていた。そしてクリスは沈黙を破った。
「“探求者”マシュー君の後を追って、エドもすぐにロンドンにやってくる」
「運命の日は近い。真実が語られる日はもう、すぐ目の前です…」
 “幻影の子供”は告げる。すると、街灯の光がそのシルエットの正体を晒す――


 ―それから数日が過ぎたある雨上がりの夕方。
 ハイドパークのベンチに腰掛けていたマシューは気配に気づき、彼が顔をあげると、
馬に乗った、若い紳士がこちらを見下すように眺めていた。青い髪がハットから覗いて
いる。そして蒼い不気味な瞳が鈍く輝いていた。そう彼の目には映った。
 数秒間、目が合った後、マシューは口を開いた。
「あの…何か?」
 全身青いスーツに身を纏ったその居様な雰囲気の紳士は、何も言わない。
 もしかしてこの蒼い瞳に、青い髪の男、ロズウェル・アンダーソンかな?
 マシューは更に怪訝な表情になった。
 すると、急に男の目に生気が戻ってきたように、パッと顔を明るくして言った。
「あれ?私は何をしていたんだ?君、誰だ?」
「え?」
 マシューは呆気に取られた。
「君、誰だ?」
「あの…マシュー・ハワースです。貴方は?」
 男は少し考えて、言った。
「シルエット・L・ワルツ。みたいな」
「は?」
 すると、男は右手に持っていた何かを地面に落とした。それが合図であるかのように。
「君、マシュー・ハワース。そのペンを取りたまえ」
 その横暴な態度にマシューはムッとしたが、これも文化の違いだと納得させ、ベンチ
の下に転がっていったペンを、しゃがみこんで手に取った。
 そのペンには、“金の梟”が彫刻されていた。
 その言葉が起爆剤になったのか、妙な走馬灯が瞬時にマシューの頭の中で広がり、め
まいがした。やっとの思いで立ち上がり、後ろを振り向き、さっきの男にそのペンを差し
出したが、そこには誰もいなかった。虚空を流れる風が、静かに流れていった。
 まるで、“幻影”を見ているような錯覚を覚えた。
 近くを歩いていた老婆が、挙動不審に動くマシューを怪訝な目で見ていた。
 マシューはもう一度ベンチに座りなおし、その“金の梟”の彫刻を施した年代もののペ
ンを不思議に眺めていた。それをそっと上着のポケットに入れる。
 そして、ハイドパークを後にする。
 その姿を遠くでみつめている影があった。“幻影の子供”だった。
 そのシルエットは、黙って“探求者”の姿をいつまでも見つめていた。それから暗くな
ってきた夕闇の空を見上げた。月が出ていた。その月の光と、公園の街灯の光が、その姿
を晒していく――
 “幻影の子供”は、存在しないのではなく、その正体を隠す霧だった――


 ―それからさらに数日が過ぎたある昼下がりのハイドパークの一角。
 初老の紳士がひとりベンチに腰掛けていた。彼の足元には4匹のリスが集まっていた。
全身黒いスーツに身を包み、焦げ茶色の年代モノの革靴のつま先を一点にみつめる蒼い
瞳。しわのある表情をわずかにゆるませた口元が見えた。黒いハットに、茶色い腰まであ
る長髪が風になびく。彼はまるで、魔法をかけたように4匹のリスに何かを話しかけると
リスは散り散りにどこかに去っていった。
「新たなる時代の風を感じる」
 そこに誰かが近づいてきた。黒いハットをかぶった青い髪をなびかせ、その奥に光る
蒼い瞳を覗かせながら、初老の紳士に話しかける。
「父さん?久しいね。いつ冒険から戻られたので?」
 初老の紳士は、彼のほうを振り返り、笑顔を作った。その“幻影の子供”に。
「大きくなったな、シド。いや、シルエット…何だっけ?」
「シルエット・L・ワルツと名乗ってますが、シドでかまいません」
「シド。5人目のチャイルド“影法師”。会いたかったぞ」
「僕こそ」
 ふたりは懐かしそうな雰囲気で、お互いに見つめあっていた。
「他のチャイルドたちは元気かな?もっとも君はこのハイドパークをずっと監視してい
 たようだから、分からないだろうけど」
「2人目と3人目は目撃し、その安否は確認しました。4人目も以前に確認しました。そし
 てこれから最後のチャイルド、1人目に会いに行こうかと思っていますよ」
 初老の紳士は頷いた。
「チャイルドたちは彼ら、私の教え子たちに任せている。シド、君にだけ保護者をつけず
 に寂しい思いをさせてしまい、申し訳ない」
 初老の紳士は、丁寧に頭を下げた。
「僕の保護者は8年前の事故で亡くなりました。それからはひとりですが、大丈夫です」
 “幻影の子供”は穏やかに笑っていた。初老の紳士は少し安堵した。そして、ベンチから
立ち上がると、彼に告げた。
「“ミネルヴァの梟”、“影法師”、“戦乙女”、“救世主”、そして…“探求者”。これからの新し
 い時代を生きる後継者たち。
 想像せよ、この先に待ち受ける混沌の時代を。
 そして、創造せよ、謎を解き、生きる術を知るのだ」
 “幻影の子供”は、そんな偉大な父、伝説の名探偵シャーロット・ロンドンを誇らしげに
見つめていた。そしてそっと彼の前から離れた。久しぶりの彼の蒼く知的な瞳には、1点
の曇りもなかった。エヴァン・ウェンブリーの想いを果たす時が来ているのだと、運命は
告げていた。
 “幻影の子供”は、1人目の子供クリスティーヌに会いに行く――



 ―それから1時間後のオックスストリート沿いにあるカフェ。
 クリスティーヌは、まだたっぷり入ったカフェラテを右手に持ちながら、不安定な足
取りで席と席の合間を縫うように歩く。若い少年とすれ違いざまにぶつかり、彼女は近
くの席に肘をついた。カフェラテは無事だ。
 すると、その席に座っていた若い紳士が、不思議そうに観察してくると、笑顔で言って
きた。異様なほどの洞察力で。
「お嬢さん、まだカフェラテがたっぷり入ってますね。貴方は、あそこに座っていました
 ね。今はインドの衣装を着たカップルが座っていますが、貴方は慌てて席を立った模
 様。そして、あのカップル、先程レジでだいぶまごついていました。恐らくあの大きな
 鞄から推測されるに、旅行者かと。英語が話せない。貴方はそんな彼らに席を譲って
 あげたのでは?おっと、先程ぶつかった若い少年は、さっきまで赤毛の女性が座って
 いた席に着いたみたい。人の出入りが激しい。この時間。私は、全ての客の動きを把握
 しています。相席良かったら、どうぞお座りゆっくりしていってください、お嬢さん」
 クリスティーヌはお礼を言うと、その不思議な雰囲気と、妙な語り口調の紳士をまじ
 まじと見ていた。その視線にとっくに気づいていた紳士は言った。
 黒いハットから覗く蒼い髪に、自分と同じ蒼い瞳が印象的な紳士。
「失礼、私はシルエット・L・ワルツと申します。実は今、探されているんです、ある人物に
 ね。これも何かの奇縁。もしよろしければ私の話を少々聞いてもらってもよろしいで
 しょうか?」
「あら、かまいませんわよ」
 クリスティーヌは口に掌をあて、上品に笑った。
「美しいお嬢さん、実は、彼について、伝えておかなければならない事があるんです」
 クリスティーヌは驚いた顔で尋ねた。
「今、何とおっしゃいました?」
 “幻影の子供”は不思議そうな顔をして、逆に尋ねた。
「私、何かおかしな事を言いましたか?」
「いえ、奇縁ですこと。わたくしもその彼について知りたかったのですよ」
「エクセレント!話にのってくれて光栄です。実に愉快だ」
 “幻影の子供”は、彼女が自分の話に合わせてくれているのだとばかり、思っていた。
「誰かに話したくて仕方がなかったのです。そして、それは彼の事を知らない、今しがた
 出逢ったばかりの貴方に聞いてもらっても、何の問題もないはずだと」
 クリスティーヌのほうは、この偶然をただの興味本位で聞いていた。
 “幻影の子供”は改めて語りだした。
 彼、シャーロット・ロンドンとの愛のレジスタンスの物語を。
「真実の話をしましょう。それはある少年と本の出会いから始まり…」
 それから“幻影の子供”はクリスティーヌに、自分の正体を明かした――

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