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哲学の塔〜改〜コミュの第5章〜闇の中の真実〜

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 一瞬の闇に覆われたかと思うと、急に地面が落下したように落ちる感覚に陥り、どこ
かに到着したように、新しい出入り口が現れた。
 その先には、蝋燭で灯しただけの不気味な通路が続いていた。
 クローバー警部は、その廊下の先を歩くクリスの姿を観察していた。まるで今の出来
事が、何ともないように、ひょうひょうとしている姿に、ある意味、疑念を感じた。
「おい、ここはどこだ?」
 そのクローバーの問いに、クリスは静かに答えた。
「これが、“哲学の塔”のトリックだったんですよ。そして…」
 おもむろに、クリスは真相を告げ始めた。
「ここは、どうやら地下のようです。ほら、ここに、サイロン教授の研究室がある。
 恐らく彼は、今の仕組みを利用し、地上に上がっていたのではないでしょうか?」
 クローバー警部は怪訝な表情で尋ねた。
「つまり、奴が犯人か?」
「いえ。彼はこの仕組みを知っていた。もちろん今まで起きた不可思議な屋上の落下死体
 の謎も真相を知っていたのかもしれませんが、この事件の犯人ではない、少なくとも」
 妙なクッションを置き、クリスは続けた。
「この“哲学の塔”不思議なんです。
 窓がひとつもない上に、壁の厚さが3メートルはあり、おまけに螺旋階段には手すりも
 ないのに、それ以上に天地逆さまの構造と、不気味な土地伝説のせいで、その違和感を
 カモフラージュされていた。
 “哲学の塔”殺人事件にはうってつけの舞台だった。」
クリスは微笑んでいた。
「貴様…何を企んでいる?」
 クローバー警部は、少しずつ警戒を始めていた。何かがおかしいと。
 すると、そんな警戒する彼をよそに、クリスは胸ポケットから紙切れを取り出した。
それは担架で運ばれる途中で、マーク・サイモンがクリスに渡した紙切れの1枚だった。
「この“哲学の塔”は、奇術建築家ルルーの創った前代未聞のトリックタワー、
 巨大な塔のエレベーターだったんです。」
 その紙切れを広げると、そこには“哲学の塔”と書かれた大きな文字と、そして緻密に
描写された塔のスケッチ、計算され尽くした数字、言葉が埋め尽くされていた。
「冒険家が喉から手が出るくらい欲しくなる、それだけの価値のある、奇術建築家ルルー
 の建築物の設計図さ。レプリカだと思うけどね。僕はあまり興味はない」
「貴様…それをどこで?」
 クローバー警部は不信に思いながらも、その先の真実を知りたかった。
「僕自身、ロンドン・アイに乗った時に、この塔の仕掛けに気づいたんだ。パンツは見れな
 かったけど、代わりに、空が落ちてきてくれた」
 空が落ちてくる。
 エリ・マーリンが口走った奇妙な言葉の中に答えはあったのだ。
「この“哲学の塔”は、外観はそのまま固定された状態で、何の変哲もない塔として存在し
 ている。しかし暑さ3メートル以上もある外壁の内側は、巨大な筒状の通り道になって
 いたんだ。巨大なエレベーターの乗り物のね。とんでもない仕掛けさ」
 その図面を見ながらクリスは、複雑な機械構造が描かれたスケッチを眺めていた。エ
レベーターの仕掛けそのものはシンプルだが、それを動かす動力は難解な機械工学の知
識が応用されていた。
「僕たちが乗ってきた地上1階の部屋の床と周りの壁、その上に続く螺旋階段、そして螺
 旋階段の先にある屋上、それらはこの図面を見る限り、ひとつの乗り物として一体と
 なっている。円柱形をしたひとつの箱とでも言えば分かりやすいですかね。だから普
 段どおり1階にエレベーターがある状態では、屋上は、普通の塔の屋上としてあるべき
 場所にあった。しかし、エレベーターが、僕たちが乗ってきたように地下に下がった状
 態では、屋上は地上よりも遥か地下に移動している状態になる。
 今、塔の地上の入り口から入れば、この巨大エレベーターの天井の裏側に落下して死
 んでしまう。だから、早く1階に移動しておかないと危険だ」
 クローバー警部はクリスの説明と、その難解なルルーの設計図を見比べて何とか理解
しようと努めていた。
「つまり、その巨大エレベーターだという、塔の筒の中にある乗り物が地下に下りた状態
 の時に、塔の扉から何も知らずに入ったら、遥か地下に落下してちまうという事か?」
「素晴らしい理解力!補足をすれば、地下に移動した塔の屋上に落下するという事です」
 クリスは嬉しそうに答えた。その態度にもクローバー警部は警戒の手を緩めない。
「この設計図によると、エレベーターを作動させるスイッチは4箇所あるみたいです。
 まず固定された3箇所のスイッチは、ここと…」
 クリスは、塔の巨大エレベーターの入り口近くにある赤と緑のスイッチを示す。
 そして緑のスイッチを押し、乗ってきた巨大エレベーターを元のあった場所に移動さ
せる。緑のボタンは1階を示していた。
「この僕たちの乗ってきた塔の1階の部屋の中と、屋上の入り口付近にもあるみたいです
 ね。そしてこれは僕自身も確認してきたのですが、遠隔操作用に、“哲学の塔”の外のヒ
 ースの丘の公共トイレに1箇所あります。」
「外のトイレに?なぜそんな場所に?」
 そのクローバー警部の問いに、良い質問だ、というようにクリスは答えた。
「もともと奇術建築家ルルーの建築物は、ある奇術師のために創られているという事な
 ので、奇術で使う前提であるなら、遠隔操作としてのスイッチがあってもおかしくな
 い。今回の事件で使われた事が、その事実を物語っている。
 彼は知っていたんです、この“哲学の塔”のトリックを」
クローバー警部は困惑驚きの表情で呟いた。
「まさか…あいつが、エレベーターを操作して…」
「なぜなら、彼こそが奇術建築家ルルーの子供であり、そしてその、ある奇術師の正体だ
 ったからですよ」
 クローバー警部は更に驚いていた。まるで“その事実だけ”は知らなかったように。し
かし、クリスはその違和感を気にすることもなく、淡々と探求していく。奇術建築家ルル
ーの負の遺産、“哲学の塔”のカラクリを。
「この図面によると、この地下に巨大エレベーターを動かしている動力室があるはずで
 す。この近くに、この扉か!」
 ガチャ!
 扉に鍵はかけておらず、中を覗くと騒々しく機械の動く音が鳴り響いてきた。まるで
巨大な工場の中に居るような感覚に襲われる。
「無用心ですね。あれ?」
 その動力室の中に、赤い何かを見た気がしたが、あまりのうるささに、クリスはとっさ
にその部屋の扉を閉じてしまった。
 クローバー警部はなおも、警戒の眼差しで、クリスを睨みつける。
「さすが、元探偵。“哲学の塔”のカラクリを見破りやがった。しかしだな、屋上に落下死体
 を出現させるトリックは分かったが…密室から消えたロズウェル・アンダーソンの謎、
 そしてロッド・シルバーフィールドは確かに塔の地上の入り口から入って、鍵を中か
 らかけたところまで俺は確認している。彼は、屋上には落ちていなかった。その状態
 で、どうやって、屋上に落下させて殺害したのか、その謎が解けていないな」
「いや、そのトリックの謎も既に解けている」
 突然、クローバー警部の背後から声がし、彼は驚きのあまり飛び上がり、振り返った。
しかしそこにあるのは、巨大エレベーターが地上に戻った後の暗闇だけだ。
 恐怖に駆られたクローバー警部は後ずさる。廊下の先のクリスにも警戒の視線を送り
つつ、もう一度暗闇に視線を落とす。
 すると、その暗闇から私立探偵ウィザード・ドイルが現れた。余裕の表情で煙草の煙を
吐き出す。
 クローバー警部の顔が蒼ざめる。
「馬鹿な…お前、今しがた死んでいたはずじゃ…?」
「死んでいた?悪い夢でも見たのか?それとも、何かに怯えているのか?」
 ドイルは冷たい声で呟いた。そして眼光鋭く彼を見つめる。すると、背後からクリスが
くすくす笑う声が聞こえてきた。
「お前たちグルか!どういう事だ!何を企んでいる?」
 警部は、逃げ場を失った。絶望の淵に立たされた。
 私立探偵ウィザード・ドイルは、不敵な笑みを浮かべた。
「驚いたろう?実際誰だって騙される。この私の、元演劇部1位の素晴らしい演技によっ
 てな。ふはははは!」
 ドイルは悪魔のように、不自然な声で笑っていた。この展開をまるで愉しんでいた。
「愉快でならない。この瞬間がな!」
 同じようにクリスも高々と笑っていた。
「君は、相変わらず変わらないな。僕も、この警部さんを騙すのに、相当精神を削ったんだ
 よ。ははははは!」
 ふたりは何が可笑しいのか、ふざけて笑い続けていた。
「ふざけるな!どういうつもりだ!」
 クローバー警部は怒りと猜疑心の満ち満ちた瞳で彼らを交互に見比べる。彼らはその
言葉を無視して続ける。そしてクリスが尋ねる。
「でもどうして分かったんだい、ドイル?この人が…」
「あの奇術師が、最初に塔を観察すると中に入り、再度塔から出てきた時に、なくんって
 いたモノがあった。大きな鞄さ。その瞬間に違和感を感じた。奇術師らしく、何かを仕
 掛けたんだとは気づいたが…屋上から俺たちに投げるための砂時計や剣やナイフだ
 ったとは、思いもしなかった」
 クリスは頷いている。
「だが、一番不自然だったのは、塔を見学したロッド・シルバーフィールドの監視役のは
 ずだった“ある男”が、それに気づかないでいた事実だ。」
 クローバー警部は水を喰らった鳩のような表情をしていた。
「次は、実際に屋上でロッドの死体に遭遇した時だ。確かに死体には変わりなかった。だ
 が、何か違和感を感じてな。死体に触れることもできなかった上、次の日には死体が消
 えている?“ある男”が居ながら可笑しな事実だ。」
 クローバー警部は、目を泳がせていた。
「私は先程、塔の密室で死んだフリをした。そして、“ある男”は近づくことも、触れること
 もできなかった。さらにクリスがサクラとなり、この演出に磨きをかけた」
 ドイルは静かに続けた。
 クローバー警部は観念したように、うつむいた。
「クローバー警部、私とクリスが共謀してお前を騙した演技。
 これが、お前とロッド・シルバーフィールドが共謀したトリックだ!」
 その瞬間、クローバー警部は笑い出した。
「貴様らは何も分かっちゃいない、もっと恐ろしい真実を!
 事件のトリックが解けた?おおいに結構。しかし貴様ら、全てを知る覚悟はあるか?」
 クローバー警部の目は、見開いていた。今まで見せたこともないような形相で、クリス
とドイルを睨む。
 いよいよ核心に近づいてきた、とふたりは密かに心の中で笑った。

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