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哲学の塔〜改〜コミュの第5章〜森の中の真実〜

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 刹那の出来事だった。
 森の中に消えたシルエットが現れ、マシュー・ハワースに拳銃を向ける。
 そこに居たのは、首が切断されて死んだはずのロズウェル・アンダーソンだった。
 青い髪をたなびかせ、青い済んだ瞳がこちらを無表情で見ている。マシューはその人
物を目撃し、言葉を失った。
 では、あの死体は誰のモノなのか?
 その瞬間、マーク・サイモンの言っていた奇術建築家ルルーのふたりの子供の事を思
い出した。ロッドとローズ。
「君はローズか!それともロッドなのか!」
 そのマシューの言葉に一瞬、ロズウェル・アンダーソンの動きは鈍った。明らかに動揺
していた。核心をついている証拠だ。それでもなお、拳銃の矛先は変わらない。マシュー
はなおも続ける。
「君たちは、奇術建築家ルルーの子供で、ロッド・シルバーフィールドとロズウェル・アン
 ダーソン。ふたりは共犯者。ロズウェルは偽名…本名はローズ!」
 そこに居るロズウェル・アンダーソンは、マシューを睨みつける。
「でもおかしいよね。ロッドも、ロズウェルもあの塔で死んだはずなんだ。君は誰?」
 森の中に静寂が訪れる。ふたりはなおも睨み合う。そう、目の前に居る人物は、一体誰
なのか。可能性は、消えたロッド・シルバーフィールドの死体。生きている可能性は十分
ある。
「そうか、あのロッド・シルバーフィールドの死体はフェイクか」
「いかにも」
 すると、ずっと黙っていた目の前の相手は、答えた。
「君が屋上で見た死体も、そして屋上から落ちてきた首を切断された死体も、同一人物」
 やけに硬直していた先程の屋上から落ちてきた死体は、死後数日が経っていたからだ
ったのか。そう考えると背筋がゾクッとした。
「君を最前列で鑑賞させてあげたのは、正解だったようだね。マシュー・ハワース君」
 真実は語られた。マシューの感情は、驚きから怒りに変わっていった。
「ロッド・シルバーフィールド!あなたが犯人だったのか!」
「犯人、それについては言及しない。我々双子は、母の残したこの舞台で証明してやりた
 かっただけさ。我々の力を」
「そんな理由で、エリさんや、エメット教授まで殺したのか?」
「彼らは知ってしまったからね。“哲学の塔”の真実を。死ぬ運命だったのだよ、君」
 マシューは怒りに震えていた。許せなかった。人の命の重さを考えることができない
この奇術師を。
「そして、君もどうやら知り過ぎたようだ。あの世で続きを楽しみたまえよ」
 銃声が深い森に鳴り響く。

 銃声が鳴り響いた刹那、第3者のシルエットが目の前に現れ、血しぶきが舞う。血しぶ
きが舞う刹那、そのシルエットは馬と共に、地面に崩れ落ちる。崩れ落ちる刹那、拳銃を
発砲した奇術師ロッドは、また深い森の闇に姿を消した。マシューと、彼の乗っていた馬
の背中は、おびただしい血を浴びる。それは全て一瞬の出来事だった。
 彼の代わりに弾丸の生贄となったその人物は、左腕を押さえながら、マシューを見上
げる。そして一言、呟いた。
「よう、目立ちたがり屋の留学生、マシュー・ハワース。よくやった」
 それは昨日の登校時、マシューに卵を投げつけ喧嘩を吹っかけてきた貴人組の問題児
ドム・ウィンブルドンだった。
「な!なんで君がここに!」
「お前の後をつけてきた。正確に言うと、奴の後をつけてきたんだ。まさか、奴が死んだは
 ずのロッド・シルバーフィールドで、しかもロズウェル・アンダーソンと双子だったと
 はね。俺の疑問が一致したぜ」
「そ…そう。いや、それより大丈夫かい?腕を撃たれたのか?」
 ドムはたいした怪我じゃない、と首を振り、マシューの差し伸べた手を弾き返した。
「仲良し子良しはご免だ」
 そんな怪訝な表情をするドムに対して、マシューは以前の彼に対する怒りはなくなっ
ていた。そして、以前クリス叔父さんが言っていた言葉を思い出した。
 “彼は天才だ。そして、君と同じ留学生。彼の存在はきっと君の助けになるはず。”
 確かに、助けになった。もし、ドムが居なかったら、間違いなくマシューは死んでいた。
 彼は、突然現れた“救世主”に他ならなかった。
「恩にきるよ。ありがとう、ドム。以前の暴言は許すよ」
 ドムは怪訝な顔をしていた。
「暴言?覚えが無いし、許すだと?思い上がるな、留学生!」
「な!覚えが無い?君は卵を僕にぶつけたんだぞ?」
「記憶に無いし、興味も無い」
 ドムは鋭い目つきで吐き捨てるように言った。
「それに、俺はお前に今死なれたら困る」
「どうして?」
「“哲学の塔”の謎を解きたいからな。この灰色の頭脳がうずくのさ。お前、全ての謎が解
 けたんだろ?さすがは“探求者”」
「いや…それは。“探求者”?僕が?」
 それは、本に住む言葉の妖精クロエ・W・ウィスパーの仕事だった。
「俺はそう思う。そして俺は正義のヒーロー、“救世主”だ!はっはっは!」
 ドムは愉快に笑っていた。そして付け加えた。
「それに兄貴に先を越されたら、ムカツクからな」
「兄貴?」
 マシューはますます訳が分からなくなると、聞き返した。
「おいおい、お前、あのクリスって教授の隠し子だろ?何も聞いてねぇのかよ」
「か…隠し子じゃない!親戚だ!クリス叔父さんに何の関係があるんだ?」
 ドムは興味なさそうに首をかしげると、また謎を吹っかけてきた。
「“ミネルヴァの梟”の事もひょっとして知らないのか?お前、とんでもない家庭に養子
 に入ったんだな。はははははは!」
「よ…養子でもないよ!居候させてもらってるだけだ。ミネル…バー?」
「は?お前馬鹿?お前馬鹿なのか?」
 ドムのその人を見下す態度にマシューも怒りがこみ上げてきた。
「なんなんだよさっきから!君の言葉が理解できない」
 ドムは溜め息をつくと、煙草を取り出し、吸い始めた。マシューは静かに注意した。
「森で煙草はまずいんじゃない?」
 ドムはめんどくさそうに、マシューの顔を見る。
「誰も俺の存在には気付かないさ、森の生物すらな」
 どこかで聞いたような口癖を放ち、そしてゆっくりと語りだした。
「ミネルヴァの梟は、クリスティーヌっていう“仏のクリス”の娘の異名。あの女、子供の
 頃から父親と一緒に事件を裏で捜査していたらしいぜ。そして解決してきた。
 兄貴が言ってた。…誰って?“ロンドンの切り札”ウィザード・ドイルだ。馬鹿」
「はぁーーーーーーーー!!」
 森にマシューの叫び声が響いた。
「あの一味で馬鹿なのは、お前とあのアイルランド娘だけだ。ははは」
 その言葉にマシューは心の中でほくそ笑んだ。僕には“切り札の妖精”が居る。しかし、
その瞬間思い出したように慌てだした。今、彼女とは交信ができないでいるのだ!
「お前さっきから、何一人で叫んだり、にやけたり、慌ててるんだ?頭も可笑しいのか?」
 そして、携帯電話もどこかで落としてきてしまった事にも気づく。
 マシューは、“禁断の書”の1ページをちぎると、汚い字で何かメッセージを走り書き、
乗ってきた黒い馬の背中と馬具の間にその紙切れを挟んだ。
 すると、黒い馬は歩き出し、こちらを一度振り返ると、そのまま走って行った。蹄の音
が深い森から消え、再び静寂が戻ってきた。
「兄貴は幽霊だ、人の意識から消えることのできる、男だ。死にはしない。くくく」
「あの兄に、この弟か。はぁ…」
 その瞬間、ドムのボンバーチョップがマシューの後頭部に炸裂した。
「痛い!何するのさ!」
「さぁな。何やらかすか分からないのが俺だ。さ、“哲学の塔”に戻ろうぜ」
 ふたりはゆっくりと、悲劇の舞台、“哲学の塔”に歩き出した。


 深い森の奥に進むと、そこに大きな口を開いた洞窟があった。ここが、もうひとつの塔
の入り口で、彼の隠れ家でもあった。馬から静かに降りると、辺りを見渡し、誰も居ない
事を確認すると、ロッド・シルバーフィールドは、洞窟の中に入っていった。
 彼は近くにあったランプを灯すと、それを右手に持ち、奥へ奥へと進んで行く。しばら
く進むと、少しひらけた場所があった。そこには生活品が雑多に放置されていた。生前の
ロズウェル・アンダーソンと、ロッド・シルバーフィールドが密かに会っていた場所だっ
た。大切な妹ロズウェル、いや、ローズとの思い出の場所。
 中央に置かれた、怪しい西洋風のテーブルに、燃えて灰になった残骸が残っていた。
 ロッドは、胸ポケットからそこで燃えて灰にされたであろう物と同じ、写真を取り出
した。そこには子供の頃の自分と、妹のローズ、そして母親のルルー、そして…その箇所
だけちぎられていた。ある、忌まわしい人物の映っていたはずの箇所。母親を騙し、家族
を滅茶苦茶にした、偽の父親が映っている箇所。
「忌まわしき奇術師、エデン・シルバーフィールド…貴様を葬る時が来たのだ。」
 そう告げた瞬間、近くで何かを叩く音がした。持っていたランプを掲げる。その音のし
た方角にはひとつの扉があった。扉には硬い錠がしてあり、鎖が幾重にも重なり巻きつ
いていた。今まで気にもとめなかったが、一度も触れたことのない開かずの間だった。
「…エ……デ…ン…」
 わずかに搾り出すような、不気味な声が扉の向こうから漏れてきた。
「誰だ?」
 ロッドは警戒するように近づき、その声に耳を澄ませる。
「エ…デ…ン」
 その声はひたすら、“エデン”の名前を繰り返す。不思議に思ったロッドは、その扉を開
ける決心をする。ランプを扉の近くに置き、まずはその幾重にも巻かれた鎖を器用に外
していく。それから彼は、壁に掛かっていた斧を握り締める。錠を壊すために。
「…坊や…泣いて…いるのかい?」
 その言葉に、思わず彼の動きは止まった。それは、遠い昔、哀しみの淵にいた少年だっ
たロッドに、優しく語りかけてきてくれた言葉だった。突然ロッドの目から大粒の涙が
流れてきた。私は、どうして泣いているんだ?
「どうして…泣いて…いるんだい?」
 扉の中からその声は語りかけてきた。そして声は続ける。
「君、ロッドだね…ロッド・アンダーソン。…ルルーの…息子」
 ロッドの涙は止まらない。その“奇跡の間”から語りかけてくる優しく温かい声。あの
頃と同じ声がそこにはあった。彼は、振り上げた斧で必死に錠を壊そうと、何度も、何度
も、振り下ろす。そして…
「おいで…おいでよ。…ほら…私は塔の上にいるよ…」
 そして、“奇跡の間”の扉は開かれた。そこには、“彼”がいた……

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