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三十分作成小説(ベジタブル編)コミュの最声1

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可哀想。

可哀想。

可哀想。


みんなが僕をそう言う。

あの子は可哀想な子だと。

周りの大人達が

僕を見ては眉と声をひそめる。

声を小さくすれば

噂が聞こえないと思っているのだろうか?


どんなに隠そうとしても

笑われていることくらいわかる。

そんな大人達の感情を受けとるのが嫌で

僕はうつむいて歩くようになった。



僕は可哀想だから

友達に嫌われた。

僕は可哀想だから

学校で苛められるようになった。

僕は可哀想だから

学校に行かなくなった。

僕は可哀想だから

何もしなくなった。


…だって

僕は可哀想だから。


仕方がない。

…仕方がないんだ。



可哀想な僕のために

父親は会社を辞めて

僕を連れて田舎に引っ越すことを決めた。

嬉しくも

有り難くもない

父親からの配慮。

環境が変わろうと僕は僕。

田舎暮らしを始めたところで

きっと何も変わらない。



引っ越し先は

驚くほど何もない場所だった。

見渡した景色の中に

建物がほとんどない。

あるのは畑と

川や山の自然だけ。

本当にこういう場所ってあるんだな、と

妙な感心をしながら広がる景色を眺めた。



父親は荷物を整理しながら

僕に「暇だったら遊びに行っておいで」と言った。

こんな何もない場所では

どこに行っても退屈そうだったが

それでもこのまま家にいるよりはいくらかマシかなと思い

僕は見知らぬ土地を散歩することにした。


少し歩けば何かあるかなと思い足を進めたが

その期待は見事に裏切られた。

右を見ても左を見ても

見事なほど何もない。

結構歩いたはずなのに

振り向けば未だに僕の家が見えた。


ここには人が住んでないのだろうか。

そんな風にさえ思っていると

視界の先に何か動くものが見えた。

少ししてから

それは自転車に乗った人であることがわかった。

その人はこちらの方に向かってきていた。

よく見ると

その人は僕と同じくらいの女の子だった。


女の子はその体格に合ってない大きな自転車を

器用な立ち漕ぎで乗りこなしていた。

ここに来てから

父親以外で会う初めての人。

ここは一本道なので

女の子とすれ違うのは確実だった。

僕は近づいてきた彼女から逃げるように

視線を下に向けた。

「こんにちわ!」

すれ違う瞬間

女の子は元気よく僕に挨拶をした後

漕いでいた自転車も止めた。

僕はまさか声をかけられると思わなかったので

女の子の方を見て驚き戸惑った。

「挨拶、知らないの?」

固まっている僕に対し

女の子は不思議なものでも見るような視線をこちらに向けてきた。

挨拶しろよ。

女の子は暗にそう言っていた。

「こ、こんにちわ」

僕は慌てて挨拶した。

女の子はそれを聞いて満足そうに頷いた。

「君、見ない子だね。親戚の家に遊びに来た人?」

僕は顔を横に振った。

「今日、ここ、引っ越してきた」

「何でカタコトなの?」

女の子は声に出して笑った。

初対面の人とそんなに気軽に話せるわけないだろ、と

僕は心の中で弁明した。


女の子は笑顔のまま話を続けた。

「学校にはいつから来るの?」

「明後日。月曜日から…です」

「何で敬語なの?」

女の子が再び声に出して笑ってきたので、

僕は少しだけ嫌な気分になった。


女の子は片足をペダルの上に乗せた。

ようやく開放されるのかとホッと胸を撫で下ろしていると

女の子は一度クイッと後ろ側にアゴの先を差した。

「この辺りを案内してあげる。乗りなよ」

「え…?でも…」

チラリと女の子の後ろを見たが

もちろん自転車には僕が乗れる席なんてない。

僕が戸惑っていると

女の子はじれったそうに言った。

「タイヤの横のフレームに足乗せて、私に掴まれば大丈夫だよ」

正直なところ

言われなくてもそれはわかっていた。

というか

それしかない。

しかしそれをやっていいものか

照れからくる迷いがあって困っていたわけだ。


でもまぁ

本人がそう言うならばと思い

僕は女の子の言う通りに

フレームに足をかけ

女の子のその細い肩に手を乗せた。

「じゃあ行こうか。何もないとこだけど、案内してあげる」

そう言うと女の子はペダルを漕ぎだした。

僕がいるせいなのか

はじめの一歩目で自転車は大きくよろめき

それに伴い僕もバランスを崩した。

瞬間的に

女の子を掴む手にかなり力が入ったと思うが

彼女は何も言わなかった。


「あのさー」

自転車が安定して走り始めた頃

女の子は前を見たまま声をかけてきた。

僕が「何?」と返そうとする前に

女の子は続けて話しかけてきた。

「そういえばお互い名前も聞いてなかったね。私は三穂。君は?」

「僕は…祐一」

「何年生?」

「五年生」

「あ。やっぱり同級生なんだ。同い年の子は一人もいなかったし大歓迎だよ」

一人もいない?

田舎だと思ってはいたが

そこまで凄いのかと、

僕は変な感心をした。

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