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三十分作成小説(ベジタブル編)コミュのにゃん検

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就職活動をするにあたり、

履歴書の作成をしていたのだが

資格を記入する欄のところでペンを動かす手が止まった。


僕の持つ資格は何かと

ペンをクルクル回しながら改めて考えてみる。

とりあえず…

普通自動車運転免許…



…。…

…だけ。


その事実に

正直なところかなり気持ちが沈んだ。

20年以上生きてきて

一体何をしてきたんだろうと、

心の深い部分からため息が漏れた。

履歴書とは何と残酷なものだろうか。

紙にまとめてしまうと

自分のしてきたことを

ほとんど表現することが出来ない。

まぁもっとも

それくらい内容のない人生だったと言われれば

そうなのかもしれないが。


住み慣れた部屋の真ん中で

頭をおさえながら天井を眺めていると、

飼い猫であるルルが寝床のソファーを離れ

トコトコとこちらにやってきた。

おそらく

現実の厳しさにやられた僕をからかいに来たのだろう。


ルルは僕のすぐ横にチョコンと座ると、

その大きな瞳で僕のことをじっと見つめてきた。

「冴えない顔してるわね。元が酷いのに、つまんない表情してるからいつもに増して酷いわよ」

ルルは直球の嫌味を口にした後、

意味もなく一度ニャーと鳴いた。


かまってほしいのか、

ルルが僕の背中に顔をこすりつけてきたので

僕はルルのアゴの下をくすぐってやった。

言葉は発してないが、

目を細めてアゴをつきだし、

気持ちいいことが見ただけでわかった。

「うるさいな。飼い猫なら、ご主人のことはもっと敬えよ」

僕は無防備なルルに

先程の暴言に対しての抗議を口にした。

ルルはアゴの下をいじられるのが余程気持ちいいのか、

反論を何一つしてこない。

目を閉じてされるがままの姿は

普段の毒舌を加えてもお釣りが来るほど可愛らしかった。


されるがままのルルも可愛くていいのだが

僕は話をしたくなったのでアゴいじりをやめて頭を撫でた。

ルルは一度ニャーと鳴いてから

閉じていた目を開けた。

「勉強が出来なくて困ってるの?」

ルルの質問に対して僕は首を横に振った。

「違う。履歴書に書くことがない自分に呆れてる最中」

僕の言葉に対して

ルルはその小さな顔をクルリと回して視線を僕から外した。

これは言葉の意味がよくわからないときにする彼女の癖だ。

「履歴書?」

「仕事をしたい会社に、自分はこういう人ですよ〜って紹介するもの」

「あら。ハルは仕事してるじゃないの」

僕は一度ルルの頭を撫でた。

彼女の頭は僕が撫でるためにあるといえるくらい、

サイズも撫で心地もちょうどいい。

「あれは小遣い稼ぎだよ。ちゃんとした仕事とは言えないの」

「ちゃんとした仕事って?」

僕のルルを撫でる手が止まった。

…ちゃんとした仕事?

僕は短い時間の中で考えてみたが、

ルルの質問に対する答えは出て来なかった。

「…毎月、安定してお金を貰える仕事さ」

とりあえず思いついたことを口にしてみたが、

なんとなくシックリこない。

ここではっきりと言えないとこで

僕の就職活動に対する意識の低さが感じられる。


そんな僕の心を読みとったのか、

ルルは細めていた目を少しだけ開け、

バカにしたようなトーンで一度ニャーと鳴いた。


飼い猫であるルルは

世にも珍しい人語を喋る猫、

…というわけではなく、

肩書きに女ボスがある以外は至って普通の白猫だ。

特別なのは僕の方で、

猫語学『にゃん検』を持つ人間だ。

輝かしい資格ではあるものの、

これは僕オリジナルの非公式な資格のため、

当然のことながら履歴書に書くことは出来ない。

唯一の才能を

アピール出来ないというのは何とも歯痒いことだ。


僕は鬱の原因になりそうな履歴書作成を一旦休憩し

気分転換に散歩へ出かけた。

ルルにも声をかけたが、

「気分じゃない」の一言で断られた。

外は春らしいポカポカ陽気で、

絶好の散歩日和だった。

家でゴロゴロするだけなんて勿体ないと思ったが、

この暖かな日光に包まれながら昼寝をするのも幸せかな、とも思った。

猫は自分の幸せをよく知っている。

そしてその幸せに対して素直で忠実だ。

その辺が人と猫の違いかなと、

僕は自分なりに考察していた。


アパートは大学のすぐ側にあり、

そのおかげで周辺はお店に恵まれていた。

ただ今日のような休校の日になると、

普段の賑わいが嘘のように辺りは静かになる。

僕は人通りの少ない今日のような日の方を好んでいた。


学校のフェンス沿いをノンビリとした足取りで進んでいくと、

町のささやかな情報を伝える掲示板が見えてきた。

時代遅れの木製看板は多くの人が見落としがちだが、

通り過ぎずに足を止めて見てみると、

貴重な情報が記されていたりもする。

僕の小遣い稼ぎは

ここから始まった。

「…お!」

思わず小さく声が漏れた。

更新されている貼り紙から、

僕の望んでいる情報を発見した。

こんな原始的な連絡手段だからこそ見つけることの出来る、

ここに住む者の個人的な願いごと。

“猫を探しています。アメリカンショートヘアーの二才です。見かけましたら連絡ください”

短い文章の下に

写真と連絡先が書かれていた。

僕はポケットから携帯電話を取りだし、

連絡先をメモした後にカメラ機能を使い猫の写真を撮った。

コメント(2)

やるじゃん!じっくり読みました!
次回作に期待!
> きたじまさん
いつも本当にありがとう(*´∇`*)

早く結果を出せるように頑張ります(´・ω・`)

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