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三十分作成小説(ベジタブル編)コミュのわらしべ(前編)

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何千、何万という野望が

飛び交い、そして儚く消えていく戦乱の世。

私は前当主の意志を引き継いだものの、

実力者達のぶつかり合う高い志を前に、

どうせ田舎の侍で一生終えるのだろうな、と

半ば諦めながら当主生活を送っていた。


しかし、

世の中とは

何が好機と繋がっているかわからない。

昔から信心深いのが良かったのかもしれないが、

ある日、

おそらく神様が

夢枕に立った。


眠っていても伝わってくるその神々しさに、

失礼があってはいけないと

体を起こそうとしたが、

指の一つも動かせなかった。

私は起きようと

しばらくもがいていたが、

神はそんな私に構うことなく、

私に言葉を贈り始めた。

「一番大事なものを捧げることで、さらに素晴らしいものが手に入れることが出来ます。それを繰り返すことで、最も欲するものにたどり着くことでしょう」

耳ではなく、

脳に直接伝わる不思議な声。

まぶたを開けることが出来ないため、

姿を確認することはできないが、

五感で知ることの出来る情報は全て伝わってきた。

なるほど。

これが天啓というものか。

奇妙な感覚ではあるが、

心地悪くはない。

他力によって天下が手に入るなんて

有り難い話だ。

今まで真面目に信仰してきた

ご褒美と解釈して間違いはなさそうだ。


ようやく動けるようになったと思ったら、

すでに朝を迎えていた。

静かな朝で、

全てが夢の出来事かのように思えた。

…いや、

本当に夢だったのかもしれない。

寝ている間に、

神のお告げを頂戴したと言っても、

誰が信用するだろうか。

しかも欲しいものに手が届く内容となれば、

尚更信じることは出来ないだろう。


しかし、

私には確かな感覚があった。

あれはあの夢を見た者にしかわからない、

奇妙な確信。

夢の言葉を

信じても間違いはない。


私は着替えると、

まず真っ先に

自室の隣にある物置部屋に入った。

久しぶりに入ったので

中はだいぶかび臭かった。

私は物を掻き分けながら奥に進み、

隠すように置かれていた、

一本の刀を取り出した。


先代の当主からいただいた、

大友家に代々伝わる宝刀。

実戦では使うことはできないが、

全体が金や銀で装飾され

見ただけでその高級感が伝わってくる。

おそらく、

これを売りに出せば、

小さな国の資金くらいの

財産が手に入るはずだ。


「一番大事なものを捧げることで…」

頭の中に

神の言葉が蘇った。

今、この手にあるこの刀こそが、

現時点での私の一番大切なものだ。

確かに高価なものだが、

これを手放すことで天下が近づくならば、

実に安い買い物だ。


おそらく交換物になると思われる刀を手に、

自室に戻った。

畳の上に無造作に置き、

その時が来るのを静かに待った。

さて、

この刀は何に化けてくれるのだろうか。

年甲斐もなく、

これから起こる未来を想像すると、

期待は膨らむ一方だった。


動き出した運命の反応は早かった。

部屋で休んでいると、

部下が訪ねてきた。

「大友様。隣国から書状が届いております」

私は部下から書状を受け取り、

部下が部屋を出ていった後、

早速書状の内容を確認した。


親愛なる大友家当主へ


この度

我が国では

10年に1度の

祭が開催される。

規模の大きな祭であるため、

同盟国当主である貴殿にも、

是非

参加していただきたい。

美味い食べ物と、

たくさんの酒を用意して

お待ちしています。


書状の内容を読み終えて、

これだな、と確信した。

私は筆と紙を用意すると、

すぐに隣国の当主宛に返事を書いた。

内容はもちろん、

参加の意志を伝えるものだ。

美味い食べ物にも酒にも興味はなかったが、

神の意志に従うことで

運命がどう動くかには興味があった。


祭の開催日になり、

私は必要最低限の護衛だけを連れて

隣国に向かった。

もちろん、

現時点で我が国の最高の宝である、

宝刀も持参しての外出だった。

もはや飾りの刀に大した想いはなかった。

祭に華をそえるため、

隣国の大名にくれてやろうと思っていた。


賑やかな城下街を通り抜け、

城に辿り着いた私は、

早速、

隣国の当主に会いに行った。

同盟国同士でありながら、

顔を合わせるのはかなり久しぶりのことだった。

正直なところ、

仲は良くない。

上辺だけの挨拶は面倒だったので、

私はすぐに本題を切り出した。

「本日はお招きいただきありがとうございます。手ぶらで参上するのも無礼かと思い、今日は自国より土産をお持ち致しました。祭の成功のため、神仏に奉納していただけたらと思います」

隣国当主は、

私の言葉を聞くなり

上辺だけの愛想笑いを浮かべた。

自国よりの土産と聞いて、

郷土料理くらいに思ったのだろう。

私は護衛から

丁寧に布で包まれた宝刀を受けとった。


大袈裟な動作で布をとり、

その姿をこの場にさらすと、

隣国当主はわかりやすいほど顔色を変えた。

私は宝刀を自分の前に置き、

深々と頭を下げた。

「こちらは大友家に代々伝わる、由緒正しき宝刀でございます。祝いの場の捧げ物としてはちょうどいいと思い、お持ち致しました。我が国との親交の証として、お受け取りください」

自国も相手国も関係なく、

私の発言に驚き、

空間がざわついた。

普段は感情をあまり表に出さない隣国当主でさえ、

明らかに動揺していた。


裏返った声で

隣国の当主は「有り難く頂戴する」と言った。

この慌てぶりを見れただけでも、

それなりの価値はあった。

だが、

きっとそれだけではないはずだ。

私はきっとある莫大な見返りを想像し、

心の中で笑った。


しかし、

宝刀と引き換えに手に入れた物は

正直期待外れなものだった。

祭で大層な接待を受け、

城に戻った数日後、

宝刀のお礼として

かなりの量の米が自国に届けられた。

確かに嬉しいのだが、

捧げた宝刀に比べれば、

釣り合いのとれないものだ。

所詮、夢の出来事だったということだろうか?

天下をとるどころか、

貴重な宝を投げ捨て、

逆に夢が遠のいた気がした。


そんな後悔も十日と待たずして消えていった。

米をもらってから五日後のことだった。

天が狂ったかのような嵐が三日三晩と続き、

この地方一帯で、

収穫前の作物が全滅した。

このことにより、

隣国からもらった米の価値が一気に跳ね上がった。

まず単純に値が高騰したため

ほんの少し米を売却するだけでも

かなりの資金を手にすることが出来た。


だがそれ以上に、

この米には有効な使い道があった。

それは戦だった。


ほとんどの国が食糧難で苦しむ中、

我が国だけはゆとりがあった。

国が弱っていれば、

どんなに実力があろうと叩くのは簡単だ。

ゆっくりと時間をかけて兵糧攻めをし、

長年苦しめられてきた敵国を

一気に三つも落城した。

これにより領土が広がっただけでなく、

優秀な人物、技術も手にすることが出来た。

米が一気に化けた。

しかし、

まだまだ私の欲しいものには遠く及ばない。

大切なものを手放して

私はさらなる高みに向かう。


私の国の快進撃を耳にした隣国の当主が、

ある日再び書状を送ってきた。

今度は祭のお知らせとかいう

呑気なものではなかった。

現在行われている戦の厳しさを物語る、

緊迫した内容だった。


(現在、

我が国は厳しい戦の連続により、

緊迫した状況に置かれている。

この状況を打破するために

かなり無理なお願いを聞いていただきたい。

先日、

貴国が手に入れた、

我が国との境にある

川の側に建てられた小城を

我が国にいただけないだろうか?)


ここで私の意識が

書状から現実に戻った。

隣国当主が言っている城は、

確かに小さな城だ。

しかし、城は城。

戦において拠点になるものであり、

同盟国がそれを欲するのは

図々しいのを通り越して無礼だと言える。

気分は悪くなったが、

全文に目を通すため視線を書状に戻した。


(無理な交渉であることは百も承知です。

そのうえ、

我が国は度重なる戦により、

城に見合うものを差し出すことが出来ません。

つきましては、

我が妹を

貴殿の妻として、

受けとってはいただけないでしょうか?)


…ようするに、

妹をやるから城をくれと言うことか。

はっきり言って

まるで割に合わない取引だった。

多くの権力者が断る内容だったが、

それでも私は

迷うことなく迅速に返事を書いた。


了解した。

指定された城は、

貴国に差し上げます。

同盟国として、

ご武運をお祈り致します。


その行動は狂気以外何でもなかった。

素晴らしいものが手に入る度に

片っ端から手放していく。

割に合わない

理不尽な交渉でも迷わず引き受ける。

もはや博打ですらない。

神に守られているという確信があるからこそ

この狂道を走り抜けることが出来る。

この非常識さこそが、

天下への道なのだ。


理不尽な交渉を独断で決めたため、

当然、

部下達からは激しい批判の声が上がった。

神のお告げの話をしても

間違いなく信用はされないので、

私は黙ってその批判を受け止めた。

ここで部下達の信用を失っても

何一つ問題はない。

おそらく近い未来に、

この行動が正しかったことが証明される。

目先の利益だけを考えているのは、

我が部下とはいえ、

小者達だから仕方のないことだ。


城を渡してから数日後のことだった。

隣国の使いの者達が、

列をつくって我が国にやって来た。

何なのかはすぐにわかった。

列の中心に位置していた

カゴが門をくぐったところで、

私は客人を出迎えるために

城の外へ出た。


一国の当主の妹を引き連れてきた団体の割に、

護衛の数は非常に少なかった。

嫁入り道具も

ほとんどなさそうだ。

いかに隣国が戦により

混乱しているかがわかる光景だった。

手に入るものの少なさに

こちらの部下達は

あからさまに不機嫌な表情を浮かべていたが、

唯一、

私だけは笑みを浮かべていた。


しかし、

カゴが開けられた瞬間、

私を含む全員が、

目の前の出来事に目を丸くして驚いた。

出てきたのは

自分の目を疑うほど、

美しい女性だった。

その姿は

花のような儚さではなく、

凛とした、

根の生えた

力強い美を纏っていた。


(続)

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