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三十分作成小説(ベジタブル編)コミュの花畑(その24)

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会社に戻ってからは、

なるべく早く帰るために頑張ったが、

やはり定時に帰るのは無理だった。

七時を過ぎたところで

ようやく資料がまとまった。

…予定よりも、一時間もかかってしまった。

俺は時間を気にしながら、

慌てて会社を出た。


アパートに着き、

ドアを開けると

賑やかな声が出迎えてくれた。

入口近くのキッチンで、

スズは野菜を切っており、

その横では、

楽しそうにはしゃぐ市の姿があった。

「あら。アキトさん、お帰りなさい」

「お帰りー、アキトー」

二人は俺に笑顔を向けた。

俺も思わず笑った。

照れ臭いので

「ただいま」は小さな声で言い、

靴を脱いだ。

「もう少しで準備ができるので、テレビでも見て待っててくれますか?」

「悪いな。仕事で疲れているのに、夕食の準備をさせて」

俺の言葉を聞いて、

スズはクスリと笑った。

「いいんですよ。すごく、カレーが食べたかったのでしょう?無視できないほど、強い気持ちでしたよ」

スズの肩に乗った、

ピエロをチラリと見た。

外見が不気味なので

普段はあまり好きではないが、

今日はよくやったと

心から思った。

さすがは神様。

全知全能、

未来から

俺の食べたいものまで、

何でも知っている。

「ありがとな。…何か手伝って欲しいことがあったら遠慮なく言ってくれ」

スズは笑顔のまま首を横に振った。

「平気ですよ。市ちゃんにも手伝ってもらってますし」

「そうだ。男は黙ってテレビでも見てろ」

市は表情こそ乏しかったが、

実に楽しそうな声で言った。

本当にスズが好きなんだなと

改めて思った。


キッチンには俺の居場所がなさそうなので、

大人しく部屋に向かった。

しかし、

俺は割と料理をする方だったので、

何もしないというのは

少々落ち着かなかった。

俺はスーツを脱ぎ、

普段着に着替えた。


テレビのボリュームよりも、

キッチンにいる二人の会話の方が賑やかだった。

まるで仲の良い姉妹のようだ。

テレビを見ていても、

話し声が耳に入ってくるので

どうにも落ち着かなかった。

やはり何か手伝った方がいいのかな?

そんなことを考えていると、

部屋のドアが開き

カレーライスの盛られた皿が

運ばれてきた。

「お待たせしました」

スズがサラダや味噌汁を用意し終えると、

俺達は囲むようにテーブルに座った。

「いただきましょう」

そう言うとスズは手と手を組み、

大きな瞳を閉じて

祈り始めた。

彼女は食事をする前と寝る前に、

必ずお祈りをする。

その祈りは

肩にいる神様に向けられるものだが、

毎度毎度、実に熱心に行う。

俺は祈ることはしないが、

いつもスズのお祈りが終わるまでは

箸を動かさずに待っていた。

待たなくていいよとは言われていたが、

お祈りをしている人の前で

食事をするのには

かなりの抵抗があった。

何よりも、

俺はスズの祈る姿を見るのが好きだった。


スズの祈りは、

罪に対する懺悔のようにも、

神に対する感謝の証のようにも見えた。

純粋に神を敬い尊ぶ姿は、

神聖な雰囲気に包まれ、

とても美しかった。

テレビや雑誌で見せる笑顔よりも、

この瞬間のスズこそが

一番綺麗で魅力的だった。


祈りが終わると、

俺達はほぼ同時に箸を動かした。

スズは自分のものより先に、

市の前に置かれた小皿をとり、

サラダ小分けして、

再び市の前に置いた。


カレーはスパイスがいい具合に効いていており

とても美味しかった。

素直に「美味しい」と言うと、

スズはとても喜んでくれた。

もちろん言わなくても伝わるが、

それでもわざわざ言葉にして伝えたかった。


食事が終わると、

後片付けは三人で行った。

一人で部屋にいるのはごめんだったので、

俺は率先して皿洗いをした。

俺が洗った皿をスズが受け取り

渇いた布で拭き、

元の位置に置いた。

市は…俺達の後ろで

楽しそうな空気を出していた。


「ねぇ」

洗い物も終盤になってきたとき、

ふいにスズが話しかけてきた。

俺は手を止めずにスズの方を見た。

「片付けが終わったら、みんなでどこかへ遊びに行きませんか?私、こんなにのんびりできるのも久しぶりですし…」

「カラオケに行きたい」

俺が考えようとするより先に、

後ろにいた市が言った。

即答だったのにも驚いたが、

その内容にも驚いた。

まさか市が

カラオケに興味を持っているとは

夢にも思っていなかった。

当然、二人で行ったことはない。

「いいですね。アキトさんはどうですか?」

スズは市の提案に賛成のようだった。

俺は少し考えてみた。

…カラオケなら、

あちこち歩かなくていいので、

スズが目立たなくて済む。

また、密室だから、

俺やスズが

市と会話をしているのを

他人から見られることはない。

それに、

スズと出会ってから結構経つが、

今だにスズの生歌声を

聞いたことがなかった。

これはいい機会かもしれない。


俺は自分会議の末、

二人の意見に賛成した。

俺がその意志を伝えると、

スズは微笑み、

市はピョンピョンと跳びはねて喜んだ。


(つづく)

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