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三十分作成小説(ベジタブル編)コミュの花畑(その9)

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「ねぇー。ちょっと来てー。これ見てこれ見て」

日曜日の昼。

遅い朝食を済ませ

洗面所で顔を洗っていると、

女の子が騒がしく俺を呼んだ。

何でもそうだが、

作業中に邪魔をされるのは

すごく気分が悪い。

しばらくは無視したが、

ほっといてもいつまでも騒ぐので

しぶしぶ部屋に戻った。

「何だよ、うるせーな。近所迷惑だぞ」

俺の文句に対し、

女の子は真顔で答えた。

「私の声は他の人には聞こえない」

言ってから気づいた。

どうもコイツは人間っぽいところがあるので

ついそのことを忘れてしまう。

「それより、これ見て」

女の子はテレビに向かって指さした。

見てみると、お昼の報道番組だった。

人気の女性コメンテータが何かを言っている。

「…ファンの方々にしてみれば心配ですよねぇ。早く良くなってもらいたいものです」

棒読みで

感情がこもってないのがすぐにわかった。

何のことだろうと思い聞いていたが、

隅にテロップがあるのに気がついた。

書いてある内容はこうだ。

(人気アイドル、ハナウエスズさんが体調不良でサイン会のイベントを欠席。ファンの心配する声相次ぐ)

「…あ?」

どういうことなのか?

三回ほどテロップを読み返したが、

まるで理解ができなかった。

体調を崩したって…じゃあ今日会うのも中止?

てか今日の夕方に会う予定だったのに、サイン会??


「おい。どういうことだ?」

「私に聞かないでよ。本人に聞けばいいでしょ」

全くの正論を言われたので、

何も言い返せなかった。

黙って携帯電話を開き、

とりあえずメールを送ることにした。

本文は迷ったが、

(今日は大丈夫?)と、

シンプルな文章にまとめた。

「しかし…」

女の子はテレビを見たままだった。

番組内の話題は変わり、

お笑い芸人の不倫疑惑について流れていた。

「サイン会なんて、立派なアイドルね。まして体調崩しただけでこの騒ぎ。…本当に、この人に会ったの?」

送信完了画面を確認してから

携帯電話を閉じた。

改めて聞かれると自信のなくなる質問だった。

アイドルグループのメンバーと合コン?

しかもその中の人気者が俺と同じ異常体質?

…ちょっと、ありえない話だな。

酔っておかしな妄想力でも働いたのだろうか?

そんなに飲んだつもりはなかったのだが。


不倫の話題が終わったところで、

スズからメールが返ってきた。

かなり早い返信だ。

あれこれ考えている最中だったので、

メール受信時のバイブ音には相当驚かされた。

開いたメールにはこう書かれていた。

(問題ないですよ。約束の時間に、お会いしましょう)

「…どういうことだ?」

俺の独り言を耳にした女の子は横に来て、

ひょいと携帯電話を覗き込み

メールの内容を確認した。

フムフムとわざとらしい言葉を口にした後、

頼んでもないのに勝手に分析を始めた。

「これは、仮病をつかってサイン会を休んだみたいですね。ファンよりも、私達の方を優先させたんじゃないかな」

…本当かよ?

まだ親しいわけでもないし、

何のメリットがあってそんなことを?


色々と訳がわからず、

すっかり混乱しているところに、

女の子は追い撃ちをかけるように言った。

「さっきテレビで言ってたけど、サイン会に来る予定だった人って、約千人くらいだったらしいよ。私達、ファン千人より大事なんだね」

それって、休んで大丈夫なのか?

考えると、頭が痛くなってきたので

考えるのはやめることにした。

とりあえず、

約束の時間までの余裕もなくなってきたので、

出かける準備でもすることにした。


ヒゲを剃り、

歯を磨き、

シャワーを浴びて部屋に戻ると

何故か女の子も着替えていた。

全く、どこで盗ってきたのか

今日はフリルのついた

フランス人形が着るような黒色ベースの服だった。

自分は市松人形くせにおかしな話だ。

「…ずいぶん、今日は張り切ったんだな」

褒め言葉ではなく、

思いきり皮肉だったのだが、

女の子はいい方で受け止めたらしい。

表情こそ変わらないが、

明らかに喜んでいた。

「そうかな?こういうのは初めてだからわからなくて」

おかっぱ頭にはリボンまでしていた。

アイドルに会うためなのか、

気合いの入り方が尋常ではなかった。

変わった生き物とはいえ

女の子は女の子なのだろう。

オシャレが好きで、負けず嫌い。


指定された店が

何だかキチンとしてそうなところだったので、

俺は一応ジャケットにネクタイをした。

財布にお金を補充し、

一通りの準備が出来たので出かけることにした。

時間は二時半。

時間は早いが遅いよりはいい。

「そろそろ行くぞー」

俺は部屋にいる女の子に声をかけた。

しかし、返事がない。

部屋のドアを開けてみると、

どこから拾ってきたのか

手鏡で自分の顔を見ながら

化粧をしていた。

「わぁ。見るな」

女の子が叫ぶと

体が強制的に後ろに下がり、

部屋から追い出された後、

ドアが自動的に閉められた。

再び部屋に入ろうとしたが、

ノブが固まってしまい

とても開きそうにはなかった。

結局、女の子の化粧が終わるまで

部屋の外で待たされた。

ドアノブが動くようになったのは

一時間後のことだった。


出てきた女の子は厚化粧というわけではなく、

薄く化粧をしたナチュラルメイクだった。

時間をかけただけあって

そんなにひどくはなかった。

ただ、子供が化粧をすることに対し、

個人的に良くは思ってない。

「待たせたね」

「待ったよ」

女の子はもう一度手鏡で自分の顔を確認し、

最終チェックが終わると

手鏡は煙のように音もなく消えた。

「見よう見真似でやったんだけど、似合うかな?」

俺は女の子をチラリと見た。

「似合わないね。子供は化粧なんかより、笑っている方が可愛い」

辺りの空気が変わった。

どうやら、俺の発言にムッとしたようだ。

「私は子供じゃない。人間なんかより、ずっとずっと長生きしている。それと表情は変えたくても、変えることができないの」

どちらも知っていたが、あえて言った。

単なる意地悪だ。

子供っぽい話だが、

待たされたことに対する仕返しだ。


女の子のおかげで時間はちょうど良くなった。

早め早めに行動する俺にとってみれば、

少し落ち着かない残り時間だった。


(つづく)

コメント(2)

> LILLYさん
コメントどうもですわーい(嬉しい顔)

ストーリーの見通しは出来てるけど、間違いなく長くなるねがく〜(落胆した顔)

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