三十分作成小説(ベジタブル編)コミュのペンギンアワー

小さい頃は、

漫画やテレビに出てくる

「特殊能力」に憧れていた。

ヒーローごっこや、

スプーン曲げの練習を熱心に行ったのは、

もしかしたら自分にもできるかもしれないという

わずかな可能性を真剣に信じていたからだ。

もちろんそんな能力俺にはなかった。

成長と共に、

自分が普通であることを自覚し、

超人に対する憧れは次第に薄れていった。

しかし、

この世に生を受けてから２８年目に、

俺はようやく

自分の生まれもった能力を知ることになった。

きっかけは仕事で出かけた南極旅行だった。

カメラマンである俺は、

南極の風景と生物をフィルムにおさめていった。

極寒の自然は、

その厳しさのぶんだけ、

気高い美しさを持っていた。

俺はカメラマンとして、

そんな自然の表情をフィルムに残すことに

やりがいと喜びを感じていた。

探索を続けていると、

コウテイペンギンの群に出会った。

どんな世界でも

野生動物に出会えるのは運要素が強いため、

思いがけぬ出会いに

俺は少し興奮した。

夢中になってシャッターをきっていると、

ふと、俺の耳に声が聞こえた。

俺はカメラから距離をとり、

辺りを見渡した。

はじめはガイドの男が話しかけてきたのだと思ったが、

おそらく違う。

聞こえてきた言葉は、

間違いなく日本語だった。

空耳と思いたかったが、

カメラから離れたことで、

余計にはっきりと声が聞こえた。

声の主は、何となくわかっていた。

しかし認めようにも、

現実離れしすぎて

受け入れるのは非常に困難だった。

「見ろよ。人間だよ」

「別に…珍しくもない」

「人間は襲って来ないしな。ヒョウアザラシだったら最高にヤベーけど」

認めたくないが、

ペンギンが日本語を喋っている。

俺はガイドの人に

コウテイペンギンは日本語を喋るのか？と尋ねた。

すると、

君はジョークが好きだねと、

大笑いされた。

確かにペンギンが言葉を喋るなんて

聞いたことがない。

どうやら言葉がわかるのは俺だけのようだ。

仕事を終えて日本に帰ってから、

動物園などに足を運び色々実験してみた。

その結果、この能力についてわかったことが三点あった。

一、テレビなどの映像からでは言葉がわからない。

二、こちらの言葉は伝わらない。

三、言葉がわかるのはペンギンだけ。逆にペンギンならどの種類でもわかる。

「あ、あの人間また来てる」

「本当だ。キモい」

動物園に暮らす

ペンギン達の声を聞いた。

…もう一つわかったことを加えると、

日本のペンギンはなかなか毒舌だ。

「あいつ、いつも一人だよな～。彼女いないのかよ」

「彼女どころか、友達もいないんじゃねーの」

「あの顔じゃしょうがねーよ」

…ひどいな。

カワイイ顔して、いつもこんなことを言っていたのか。

ペンギンの言葉に

俺は少なからず傷ついた。

動物園の帰り道、

悩み相談所と呼ばれるとこに足を運び、

自分の能力の相談をした。

すると立派な精神科を紹介された。

そうだよな…。

他人からこんな相談されたら、

俺だって同じ対応をする。

ペンギンの悪口が聞こえる能力。

俺は神様からいただいたこの力を

どうやって活かすか考えた。

世界を救えなければ、

滅ぼすこともできない。

家に帰るまでの一時間くらいでは

利用法など何一つ思い浮かばなかった。

せっかくいただいた、

神様からのプレゼントだから、

使わないのは勿体ない。

とりあえず明日も動物園に足を運び

ペンギンから馬鹿にされよう。