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Phantasy Star Storiesコミュの第十三章 終局

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終局

 

 レイバードの本来の体の衰弱はますます進み、もはや一日に三時間程度しか本来の姿でいられなくなっていた。「帝王」ラ・シークは生命維持のため、他の人間から生命エネルギーを補給する必要があると、「神官」に告げた。

 

「(他の人間の命を奪わなければならないのか・・・。)」

「心配するな。死にはしない。それに奪い取るのではない。借りるだけだ。生命エネルギーを人工的に作り出す技術を、いま「混沌の魔導士」達が研究している。それが完成すれば、生命エネルギーを採取された者達は元に戻り、お前も他の者から生命エネルギーを奪わなくとも済むようになるのだ。」

 

 戒厳令を敷き、都市間の交通を制限するのにも、「神官」は最後まで反対した。これらが経済の停滞を招くのは明らかであったからだ。

 

「封印の無力化のための結界極子のある場所に近づかれるのはまずい。それに結界極子の周囲には「混沌」の力が充満している。何の力も持たぬ者が近づけば命はない。規制は封印の無力化が完了するまでの一時的なものだ。無駄な犠牲を出さぬためにも、こうするのが結果としてアルゴルの民のためなのだ。」

「それに、叛徒どものテロによって、社会不安が高まっている。テロとは無関係の犯罪も増え始めた。これは、お前の望むところではないはずだ。」

 

・・・

 

 バヤマーレの塔へ向かい、丘を進む一団があった。戦闘用の杖を持った僧侶、司祭、そして騎士。その先頭をゆく奇妙な服装をした数人。その白い法衣の額にはクリスタルがはまっている。

 一団の行く手に、数十騎のキングセイバーと「混沌の魔導士」が現れた。

「教会勢力と聖堂騎士団の残党か。」

 キングセイバーの声に、先頭の一人が口を開いた。

「愚かにも創造主に刃向かい、創造主の封じた者達を解放せんとするあの神官を滅ぼしに来た。」

 

「「光の従者」・・・生き残りがいたとはな。」

「混沌の魔導士」が、そう言い放った。

「不意打ちでなければ、「混沌の者」ごときに敗れはしない。」

 

「封印を維持するために創られた身でありながら、その使命を捨て異形の姿となりはてた愚か者どもよ。もはやお前達の存在する価値はない。」

「大いなる神の名において、奴もろとも成敗してくれる!」

「光の従者」の言葉に、司教は声高に同調した。

 

「この世界に崇めるべき神など存在しない!」

 先頭のキングセイバーが抜刀し、「光の従者」めがけて身を踊らせた。

「もしいるのならば、なぜあの方は、あのような目に遭われたのだ!」

 高い音を立てて風を切った亜音速の剣は光の障壁に阻まれた。

「そしてなぜレイバード様は、今でもあんなにも苦しんでおられるのだ!」

 

「あの娘のことか。」

「光の従者」の言葉に、キングセイバーの動きが止まった。

「お前達が最初に考えたように、貞操を守るために自ら決意して命を絶ったのであれば、このようなことにはならなかったであろうにな。」

(知っている・・・奴等は、全て知っている・・・!)

「実に脆弱で、愚かな娘だったな。」

「そんな脆弱な者は、この世界には不要だ。」

「光の従者」達は笑い出した。

 この笑いは・・・! 奴だ!奴と同じだ!

 か弱き者への慈しみのかけらもない、冷たい笑い。この笑いの前に、かつて彼ら騎士達は倒れたのだ。

 そして・・・そして・・・!

 

 雄叫びとも、泣き叫ぶともつかぬ絶叫が、バヤマーレの丘に響きわたった。

 キングセイバー達は、全身にあらん限りの力をみなぎらせ、激しく身を震わせた。

 あまりの予想外の状況に、「光の従者」たちはただ傍観するばかりだった。

 

 結論から言うならば、「光の従者」達はこの時にキングセイバー達を倒すべきであった。

 

 次の瞬間、数十騎のキングセイバー達は一斉に地を蹴った。

 

「光の従者」達のクリスタルが閃光を放ち、キングセイバー達の装甲がクレーター状にへこむ。だが彼らはひるむことなく、統率のとれた動きで突進してくる。

 閃光の炸裂を前脚に受け、数騎のキングセイバーが倒れた。その瞬間、後続のキングセイバー達はしなやかに、力強く、宙に舞い上がった。

 不覚にも、「光の従者」達は躍動する金色の人馬の姿を美しいと思った。

 

 降下しながら前脚を振り下ろし、「光の従者」の両肩をとらえる。総重量1トン近い全体重をかけて地面にたたきつけ、その勢いで顔面に剣を突き立てる。剣を引き抜き、前脚で両肩を地面に押さえつけたまま、「光の従者」の頭部を両手でつかみ引き上げる。「光の従者」の首は数倍に伸びて、ついにちぎれた。

 

 別の「光の従者」が両腕を上に向け、巨大な光球を出現させた。キングセイバーの背後からまさに放たんとしたその時、衝撃波と共に飛来した剣が「光の従者」の胸部を貫いた。光球は聖堂騎士団の騎士数人を巻き込んで爆発した。

 剣の飛来した方向で、一体のキングセイバーが右肩から煙と電気火花を上げていた。閃光を受け、地面に倒れ伏していたはずのキングセイバーが上体を起こして剣を投げたのだ。超音速で飛来した剣を、「光の従者」は避けられなかった。

 

 逃げ出そうとする司教の前に、四騎のキングセイバーが立ちふさがった。

「お前は我々を知らぬだろうが、我々はお前を知っているぞ。」

 やけになって杖を振り回す司教の横っ面を、キングセイバーは剣の側面ではたいた。頬骨が砕ける音と共に、司教の体は浮き上がった。

司教の体が再び地面に着く前に、キングセイバーの前脚が司教をとらえた。

(お前達教会の強いた価値観の中では、あの方はもはや決して祝福のうちにレイバード様と結ばれることはない。)

一撃!

(そしてお前達は、いかなる場合においても中絶を禁じた!自分とレイバード様の子以外の命を宿すこと、そのおぞましい可能性に、あの方の心は耐えられなかったのだ!)

二撃!

(身を汚されることを恥とするような価値観を強いておきながら、お前達はそのような不幸に救いの手をさしのべようとはしなかった。あの方は、自分の存在がレイバード様の苦しみとなること、そして何より、自分の存在がレイバード様の将来に影を落とすことになるのを恐れたのだ!)

三撃!

(貴様ら「光」を崇める者・・・人々に「光」を崇めることを強いる者・・・「光」に従う者・・・そして「光」そのもの!それらが、あの方を絶望の死に追いやったのだ!)

(お前達が、そして「光」にあらがえぬこの世界が、レイバード様からあの方を奪ったのだ!)

四撃!

 最後の一騎が、司教の体を空高く舞い上げた。

 手足をぶらつかせながら、司教の体はバヤマーレの丘の遥か向こうまで飛んでいった。

 

 ちぎれた「光の従者」の頭部を地面に押さえつけ、キングセイバーは拳を振り上げた。そして咆吼と共に、亜音速の拳をクリスタルにたたき込んだ。激しい衝撃音と共に、火花が飛び散る。キングセイバーは続けざまに、そのチタニウムの拳をたたき込んだ。幾度と無く浴びせられる衝撃に、ついにクリスタルにひびが生じ、やがて粉々に砕け散った。

 

 地面に転がった「光の従者」の法衣の頭部を、金色の脚が踏み砕いた。

 キングセイバー達の咆吼が、いつまでもバヤマーレの丘に響きわたっていた。

 

・・・

コメント(6)

「帝王」は破壊活動や警察機構への妨害を行うレジスタンス達に対し、特別警察の組織によって対抗した。「帝王」の「殺すな」との命令により、特別警察がレジスタンスを殺すことは無かったが、頑強に抵抗する彼らに、瀕死の重傷を負わせることも時にはあった。最新装備を誇る優秀な警察官達に、レジスタンス勢力は苦戦を強いられていた。

 

 ネロは危険を顧みず、ラ・シークの本当の目的を探り続けた。そして、ラ・シークが異界への門を開き、「混沌」の力を手に入れたこと、さらにこのアルゴルに封じられている「恐るべき何か」を解放しようとしていることを突き止めた。

 ラ・シークが何を望んでいるのかは分からない。だが、アルゴルの破滅を阻止するには、ラ・シークを倒すしかない。ネロはそう決心した。

 

 ネロはレーザーライフルを手に、バヤマーレの塔へと侵入した。

 塔の内部は怪物の巣窟だった。塔内で作業にあたる褐色の巨人や、炎を吐く大蛇、不気味な仮面の魔導士、大きな斧を手にした鎧の怪人など、それまで見たこともない怪物達の猛襲をくぐり抜け、ネロは塔の最上階を目指した。

 

 機械衛兵、マシーンガーダーをレーザーライフルで仕留め、ネロは長い廊下を進んでいった。

 前方から、金属質なひづめの音が響いてきた。

(セントールか!)

 ネロはレーザーライフルの銃身を握りしめ、身構えた。

 現れたのは、ネロの想像していた相手ではなかった。長い細身の剣を携えた、甲冑で身を包んだ人馬兵。姿形はセントールによく似ていたが、違うのはその全身が金色であることだった。

(これが・・・ラ・シークの親衛隊、キングセイバーか!)

 噂には聞いていたが、実際に見るのは初めてであった。

「たった一人でよくここまでたどり着いたものだ。その勇気と行動力に敬意を表する。」

「だが、ここから先へ進ませるわけにはいかない。」

 ネロは走り出した。キングセイバーも床を蹴った。みるみる距離が縮まっていく。

(速い!)

 ネロはライフルの引き金を引いた。だが銃口の先にもうキングセイバーはいなかった。

 ネロは走りながら背を丸め、地面を転がった。わずか数ミリの所を剣の切っ先がかすめていった。

 ネロはすばやく体勢を立て直し、銃を構えた。キングセイバーも身を翻し、再び向き合った。

「見事だ。生身でこれほどの動きを見せるとは。」

「なぜだ。なぜお前達は、私利私欲のためにアルゴルを破滅させようとしているラ・シークに従っているんだ。」

 

 キングセイバーの仮面がネロを見据えた。

「私利私欲とは何か。私利私欲とは、他を犠牲にし己の利益のみを貪らんとすることであろう。」

「レイバード様は世界の平和のために尽くしてきた。だが、世界はレイバード様に何をした?」

 キングセイバーの言葉には、押し殺すような怒りが含まれていた。

 キングセイバーは再び地を蹴った。その姿がネロの視界から消えた次の瞬間、手元に衝撃を感じた。

「レーザーライフルが!」

 セラミックスと耐熱合金製の銃身は鋭利な断面で真っ二つになっていた。

「お前は知るまい!アルゴルの、そして「護り人」の真実を!」

 

・・・  

 

「そんな・・・アルゴルは・・・我々アルゴルの人間は・・・」

 呆然とするネロは全身に激しい衝撃を感じた。暗くなっていく視界に、キングセイバー達が集まってくるのが映った。

 

・・・
 

「気をつけろ。弱っているとはいえ、親衛隊と互角に渡り合った奴だ。」

 警官はネロの頭に奇妙な装置をセットした。

「これより、君の記憶の探査と改竄、人格の改質を行う。」

「本来の人格を尊重し、人格の改質は最小限にとどめる。」

「君はレジスタンスとしての記憶を失い、一般市民として平穏な生活を送ることになる。他の仲間のようにな。」

「(記憶探査の機械化が実現していたとは・・・仲間が次々と脱落していったのはこのためか。)」

 

「情報連鎖 探索開始」

 

「(このままでは、アリサのことが知られてしまう・・・。ようやく開拓した偽造通行証(ロードパス)の流通ルートも、何としても守らなければ・・・)」

 ネロは意識を集中した。

「(記憶破壊(メモリー・ブラスト)!)」

 

 装置から火花が発し、一瞬、画面表示が乱れた。

「情報連鎖80%消失 探査不能」

 

「心拍、血圧、急激に低下。このままでは危険です。」

「無理もない。なにせ寿命を燃やし尽くしてしまったようなものだ。我々にはもはやどうすることもできん・・・。」

 

「本当に釈放するのですか。」

「この男はレジスタンスのリーダー格です。あの爆弾テロ事件では30名以上の死傷者が出たんですよ。」

「もはや彼からは何の情報も得られん。それに拘留中に死亡したとなれば面倒なことになる。」

「ショートソードぐらいは返してやれ。丸腰では格好がつかんだろう。」

 

・・・
 

 装甲服に身を固めた二人の警官が、ネロを担いで歩いている。

「チッ、レジスタンスどもめ。我々が首都の安全を守るためにどれだけ苦労してると思ってるんだ!」

「あの事件で現場に居合わせた先輩は片腕と片足を失った。まだ復元は完了していないらしい。職場に復帰できるかどうか分からないそうだ。」

「子供の頃、俺の家は貧しくて、俺は学校に行けなかった。だが宰相だったラ・シーク様が戦争を減らして、無料で学校に行けるようにして下さったおかげで、途中から学校に通うことができた。俺はラ・シーク様に感謝している。だから警官になった。ラ・シーク様の築いた平和を、俺は守りたい。みんな勝手だ。今のような平和で豊かな暮らしができるようになったのはラ・シーク様のおかげなのに、その恩も忘れてラ・シーク様を悪く言っている。厳しい政策を敷かなければならなくなったのは貴族どもが反乱を企てているせいじゃないか!」

 

「この辺でいいだろう。」

 警官はネロを放り出した。

「ラ・シーク様のことを、こそこそとかぎまわりやがって!これからは、せいぜいおとなしくしていることだな。」

「兄さん、何があったの。しっかりして。」

 かすんでゆくネロの視界に、駆け寄るアリサの姿が映った。

「(アリ・・サ・・・)」

「(僕の・・・大事な・・妹・・・。)」

 伝えなければならない。アルゴルに危機が迫っていることを。

 アリサが王女であることも、アルゴルの、そして「護り人」の真実も、もうネロの記憶にはなかった。

「アリサ。聞いてくれ・・・。ラ・シークはアルゴルに巨大な災いを招いてしまった。世界は破滅に向かっている・・・。」

 

・・・

 

 ネロはアリサの見守る中、静かに息を引き取った。

 

「アリサ・・・ちゃん?」

 アリサの背後から、女性の声がした。

「あなたは・・・?」

「あなたのお兄さんの知り合いなの。彼が、警察に捕まったって聞いて・・・。」

女性の背後には、二、三人の男達がいた。

「俺達はネロの仕事仲間なんだ。知らせを聞いて仕事を抜け出して急いで飛んできたんだよ。」

「あいつが警察に捕まえられるなんて何かの間違いだ。これから警察に行くところだったんだ。」

その女性は倒れているネロの姿を見て顔色を変えた。

「ネロ・・・!」

「兄は・・・たった今、息を引き取りました・・・。」

 

「急いで教会へ連れていこう!」

 男達はネロの体を抱えると、教会へと走った。

「なあに、きっと大丈夫さ。おじょうちゃん。」

一人がそう言って、アリサを元気づけようとした。

 

「教会へようこそ。」

「この人を生き返らせて下さい。」

 女性は懇願するような声でそう言った。

「まず教会に100メセタの寄付を。」

 二人の僧侶が献金袋を差し出した。

 女性が小さな銀貨を、男達はポケットの小銭をかき集めて一握りの硬貨を出した。

 

 司祭は呪文を唱えた。だが、ネロの目は開かなかった。

「どうして生き返らないんだ。」

 男達は二人の僧侶の方を見た。

「きっ、寄付はお返しできません。」

 青白い顔をした僧侶は震えながらそう言った。

「なんだと!ふざけるな!」

 日焼けした太い腕がうなった。僧侶が倒れ、わずかの銀貨と、十数枚ばかりの銅貨が床に散らばった。

「やめて!そんなことをしても、ネロは帰ってこないわ。」

 女性の言葉に、はいつくばって硬貨を拾い集める僧侶を蹴りつけようとしていた男はその足を止めた。

 

「人間には寿命がある。復活の術をもってしても、寿命を超えては生きられん。この青年は、まるでわずかの間に命を燃やし尽くしてしまったかのようじゃ。力になれなくて申し訳ない。」

 司祭はすまなそうに詫びた。

 

 

「すまないなあ、なんにもできなくて。」

 男達はアリサに詫びた。

「いいえ・・・。皆さん、ありがとうございました・・・。」

 

 

「アリサちゃん、うちに来ない? あなたのこと、お兄さんから頼まれてたの。」

「ありがとうございます。でも、私にはやらなくちゃならないことがあるんです。」

 アリサは決意に満ちた表情で、そう言った。

「そう・・・でも気をつけてね。困ったことがあったらなんでも相談してね。」

 アリサの決意が固いことを知った彼女は、そう言って見送った。

 

「アリサは、兄さんの死を無駄にしないために、戦いに行きます。きっと見守っていてね。兄さん・・・。」

 

・・・
 ラ・シークのもとに、「影武者」が倒されたとの報が入った。

「ついに来たか。」

「帝王」ラ・シークは玉座から立ち上がった。

 我らを倒しに来た初めての者達。せめて全力で迎え撃ち、その勇気への称賛としようと、「神官」ラ・シークは考えていた。

 

「帝王」ラ・シークは仮面を外した。

 赤い両眼が、不気味な光をたたえている。

「我が野望は、お前の願いは、誰にも邪魔させん。」

 

・・・

 

 ラコニアの剣を携えてラ・シークの前に現れたのは、意外にも成人にはほど遠い少女であった。そしてラコニアの鎧に身を固めた巨体の戦士、聖獣、長身の魔導士。少女の目には強い決意がみなぎっていた。

 

「とうとうここまでたどり着いたか。運のいい奴らめ。そんなにわしを倒したいのか。」

「そうよ。あなたを倒して、この世界に平和を取り戻すわ!」

 少女は強い口調で言い切った。

 

「そうか。では、その考えが間違っていたことを思い知るがいい!」

 少女は剣を構えてラ・シークに突進した。

 

「兄さんの、兄さんのかたき!」

 少女の言葉に、「神官」ラ・シークは、少女にとって自分も「神獣」と同じであったことを知った。だが、もう止まれない。そこあるのは、二つの願いの戦いであった。

 

 長身の魔導士が、杖を構えて走り出た。その拍子に、目深にかぶっていたフードから、顔があらわになった。

 今まさにラ・シークは宙に差し上げた杖から電撃を放たんとしていた。その電撃は一瞬で侵入者達全員の心臓を止め、戦いの決着が付くはずであった。

「(何だ、どうしたというのだ!)」

「帝王」ラ・シークは激しい違和感と、意思の不統一に引きずられるような感覚を覚えた。

 

「(私の過ちを・・・ただしに来たのですか・・・)」

 あらわになった魔導士の顔と、水色の髪には、あの少女の面影があった。

 

 かろうじて保ってきた心の均衡の糸が、はりつめた弦のように切れた。

 

 レイバードは戦意を失い、完全に沈黙した。

 

「帝王」ラ・シークは歯を食いしばって電撃を放った。それでもまだ、侵入者達を葬り去るには充分すぎる威力を持っているはずであった。

 激しい衝撃と激痛が少女と仲間達を襲う。だが、よろめきながらも再び少女は剣を構えた。

「(奴等め、クリスタルをもっているのか!)」

 ラコニアの剣が、レーザーが、竜巻がラ・シークを襲う。それぞれは致命的ではないが、ラ・シークに確実にダメージを与えていく。

(まずい・・・このままでは・・・・・)

「(どうした、魔力障壁を張れ!・・・何をしている。「絶滅の雷」でも、ブレードストームでも、こいつらなど一撃のはずだ!)」

「(・・・・・)」

「神官」の協調を失い、「混沌」の力さえ、その半分も発揮できなくなった「帝王」ラ・シークは初めて「死」の恐怖を感じ、「神官」の闘志を呼び起こそうと必死に呼びかけた。だが、「神官」は沈黙したままであった。

「(なぜだ!願いが叶わなくとも良いのか!愚かな!お前の愛した者は「光」によって奪われたのだぞ!それを取り戻すのに、何の遠慮が要ろうか。答えよ!「神官」ラ・シークよ!)」

 

 最強を誇る「帝王の肉体」にも、限界が訪れようとしていた。

「(私ともう一度心を一つにしろ!あの時・・・「神獣」を倒した時と同じように!今のお前の力と「混沌」の力があれば、我が肉体は真の無敵となる!この星どころか、アルゴルさえ一瞬で破壊し、すぐに「時空の門」の封印を解放することもできる!)」

「神官」は、ついに「帝王」の呼びかけに応えなかった。

 

 少女が気合いとともに渾身の一撃を繰り出す。ラコニアの剣が深々と突き刺さり、ラ・シークの動きが止まった。

 

(おのれ、あの魔導士さえ現れなければ、こんなことには・・・)

 

 ゆっくりと倒れながら、「帝王」ラ・シークは水色の髪の魔導士を睨み付けた。

 

「やったよ、ついにやったんだよ。ルツ!」

 目の端に涙を浮かべながら、長身の魔導士に向かって話しかける少女。

 

(ルツか・・・)

 

(おのれ、覚えておくぞ。この「帝王」ラ・シークがな!・・・)

 
・・・

 

 暗い灰色の空間で、「帝王」ラ・シークと「神官」ラ・シークが対峙している。

「なぜだ。なぜここまできて・・・」

「神官」ラ・シークは答えなかった。

 空間が、ばらばらと崩れ落ち始めた。

「だめだ。ここはもう崩壊する・・・」

 空間の崩壊と共に、二人の姿は闇の中にかき消えてゆく・・・

 

 

 蒼く沈んだ色の空間に、一糸纏わぬ二人の青年が対峙している。

 一人は、蒼い瞳の青年。

 もう一人は、同じ顔をした、赤い眼の青年。

「望むならばモタビアとデゾリスを破壊し、すぐに願いを叶えることもできたのだ。だがお前はそれを選ばず、誰も犠牲にしないことを望んだ。お前は、願いを叶えるにふさわしい者だったのだ。」

「私には、そんな資格はない・・・私も結局、「神獣」と同じだったのです・・・」

 青年は悲しげなその瞳を閉じた。

 空間が崩れ落ち始めた。

 二人の姿は、闇の中にかき消えてゆく・・・

 

 

 空間に、二人の少年の姿があった。

 一人の姿は、漆黒の影。

 もう一人の姿は、プラチナの塊でできた法衣に呪縛された、黒味がかった濃い青の髪の少年。

「なんで、なんでなんだよ!」

 漆黒の影が叫んだ。

「自分の苦しみには、眉一つ動かさないお前が、あんなに泣いて、叫んで・・・自分を、壊そうとして・・・」

「あんなに・・・好きなのに・・・こんなにも・・・求めていたのに・・・」

 青い髪の少年は静かな表情をしている。

「「帝王の肉体」を手に入れたとき、嬉しかった・・・。ようやくお前を、助けてやれるって。生まれたときから、傍らで見ているだけで、何もしてやれなかったお前を、助けてやれるって・・・」

 影の少年はプラチナの法衣に拳をたたきつけた。

「これは、お前じゃない!これは、お前の本当の姿じゃないのに・・・。」

「こんなのは、周りの奴等が押しつけた姿じゃないか!生まれてすぐに、こんな姿に押し込められて、お前は・・・」

 プラチナの法衣に、悔し涙の滴が落ちた。

「もう、いいんです・・・」

 青髪の少年の頬を、すっと一筋の涙が伝った。

 彼らの姿が、闇の中に消えていった。

 

・・・

 

 バヤマーレの塔の奥深くで、賢者ダモアは静かに瞑想していた。

 ダモアの部屋の扉が、乱暴に開かれた。

「逃げろ。ここも崩れるぞ。」

 サイボーグメイジの言葉に、ダモアは全く動じる様子を見せなかった。

「・・・わしは、ここにおる。」

 サイボーグメイジはあきらめて、部屋を出ていった。

 

「レイバード様、貴方様お一人を、逝かせはしませんぞ・・・。」

 

・・・

 

 こうして、事態は終局を迎える。ダークファルスが倒され、「混沌」の力を失って動力炉の浮力だけになったエアロキャッスルはバヤマーレの塔の上に落下し、塔は崩壊した。エアロキャッスルの地上部は無事であったため、生命エネルギーを奪われ老人のようになった人々も救助された。行政機能はモタビア総督の派遣した代理政府によってひきつがれた。なお高名なる賢者ダモアは逃げ遅れたためか、バヤマーレの塔と運命を共にしたと思われるが、詳細は不明である。塔は完全に崩壊し、探索は不可能であったためである・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「あの神官が倒された・・・。」

「次元の狭間」で、「智のア・ザート」は落胆した。

 

「許してもよかった・・・彼の願いが叶えられるなら・・・」

「だが、もはや「護り人」に同情の余地はない・・・。」

 

「確かに見えた・・・あの神官を倒した者の姿が・・・。」

「心のゼ・デース」が声を上げた。

「間違いない・・・あれは、ランディールの・・・!」

「心のゼ・デース」は、怒りをみなぎらせている。

「おのれ、ランディール、またしても・・・許さん、許さんぞ!・・・」

 

「ゼ・デース・・・やがて我が「ア・ザートの刻」は終わり、「ゼ・デースの刻」が訪れる・・・そうなれば、どうしようとお前の自由だ・・・好きにするがいい・・・」

 

・・・

 

 二つの願いのうち、一つが勝利し、一つが敗れた。

 

 アリサ達はまだ知らない。この勝利が、後の永き悲しみの始まりになることを。

 二つの千年紀の巡る間、それは続くことになる・・・。

 

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