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Phantasy Star Storiesコミュの第四章 勇者タイロン

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 メデューサの洞窟の最も奥の通路の端に、石になったタイロンはたたずんでいた。
 あらためて見ると、大変な巨躯だ。身長は2メートルはあるだろうか。
 精緻な石の彫刻のようにも見えるその姿は、以前は生きていたとはにわかに信じがたい。

 アリサはミャウの首からアルシュリンの瓶を外した。
 「これを、どうすればいいの?」
 「雫を一滴たらせば、元にもどるんだって。」
 アリサは瓶のふたをあけ、背伸びをしてタイロンの頭の上から、静かに雫をたらした。

 灰色一色だったタイロンの体が、みるみる色彩を取り戻していく。
 数秒後、タイロンは大きく息をついた。

 「タイロン!」
 ミャウはタイロンに駆け寄っていって飛びついた。
 「ミャウ!そうか、俺のことを知らせてくれたんだな。」
 タイロンがミャウを抱き上げると、ミャウはタイロンに甘えるようにほおずりした。
 「君が助けてくれたんだな。」
 タイロンはアリサのほうに向き直った。
 「ありがとう。助かったよ。しかし、メデューサにしてやられるようでは、ラ・シークは倒せそうにないな。」
 「私の兄さんも、ラ・シークを倒そうとして死んでしまったわ。死ぬ前に、あなたの名前を言い残して。」
 アリサは少し寂しそうに言った。
 「そうだったのか。よし、君の兄さんのためにも、力をあわせてラ・シークを倒そう。」
 タイロンが仲間に加わった。

 「それより、なぜメデューサを倒そうとしたの?」
 「メデューサが持っている、伝説の斧が欲しかったんだけど、逃げられちまった。悔しいなあ。」
 タイロンは本当に悔しそうに頭をかいた。
 「そういえば、俺、この洞窟の行き止まりに、コンパスを隠しておいたんだっけ。取りに行こうぜ。」(注釈12)

 洞窟を進んでいくと、グリーンスライムの群れが現れた。
 タイロンは斧でスライムに斬りつけた。かなりのダメージを与えたが、一撃では仕留められなかった。(注釈13)
 戦闘が終わってから、タイロンが渋い顔をして肩を回していた。
 「うーん、石化のせいか、いまいち体が硬いなあ」
 「武器がアイアンアクスだからだよ。タイロンったら、アルシュリンを手に入れるためにそれまで持っていた装備を全部売っちゃって、なんとか残ったお金でアイアンアーマーとアイアンアクスをやっと買ったんだから。だからメデューサと戦うのも、もうしばらく稼いで、もっといい装備を手に入れてからのほうがいいって言ったのに!」
 ミャウが、そら見たことか、と言わんばかりの調子でタイロンに抗議している。
 確かに、タイロンの持っている斧はやや小さく、その巨大な体躯に不釣合いであった。
 ミャウの抗議に困り顔のタイロンを見て、アリサは思わずくすくすと笑ってしまった

 洞窟の奥に隠しておいたコンパスを手に入れ、アリサ達は洞窟の外に出た。
 「ふー。久しぶりの太陽だなあ。さあ、これからばんばん稼いで、装備をそろえ直すぞ。」
 「その前に、一度カミニートに戻りましょう?ミャウとの約束もあるし。」
 意気込むタイロンに、アリサは言った。

 カミニートに着いたアリサ達は、スエロのところに立ち寄った。
 「アリサちゃん、ついにタイロンに会えたのね。噂どおり、とても背の大きい方ね。」
 「スエロさん、タイロンもお世話になっていい?」
 「ええ、アリサちゃんの仲間ですもの、歓迎するわ。」
 「お世話になります。」

 タイロンは久々に風呂に入り、石化の間に積もったほこりを洗い流した。
 「さあ、さっぱりしたところで、出かけましょう。」
 「どこへ?」
 「ゼリーよね。ミャウ。」
 アリサの言葉に、ミャウは目を輝かせたが、タイロンはまるで事情が飲み込めないでいた。

 アリサ達は、カミニートの中心街にあるオープンカフェにやってきた。
 「ミャウはカフェの店内には入れないけど、ここなら大丈夫。」
 アリサ達は、日傘のついた丸いテーブルに着いた。
 「タイロンは甘いもの嫌いじゃない?」
 「ああ、大丈夫だよ。」

 アリサはメロンゼリーを3つ注文した。
 まもなく、ガラスの器にのったメロンゼリーが3つ運ばれていた。
 「うわー、きれーい。」
 「それじゃ、いただきましょう。」
 ミャウは喜んで前足を伸ばしたが、突然はたと動きが止まり、表情を曇らせた。
 
 「あ、そっか、ごめんね。気がつかなくて。」
 ミャウの前足では、スプーンがつかめなかったのだ。
 アリサはミャウのスプーンを手にとって、ゼリーをすくった。
 「はい、ミャウ。食べさせてあげるね。あーんして。」
 アリサはミャウの口にゼリーを運んだ。
 「おいしい!とっても甘くって、冷たくて、プルプルしてる!」
 「良かった。もっと食べさせてあげるね。」
 ミャウはすっかりにこにこ顔で、ゼリーを食べさせてもらっている。

 「ネコなんだから、口で直接食べればいいじゃないか。」
 ゼリーをスプーンですくって食べながら、タイロンはミャウに言った。
 「こういうのは食べ方が大事なのよ。ね。ミャウ」
 「うん。おいしかった。ありがと、アリサ!」
 ミャウはとても嬉しそうだった。

 「でも、今までこんなところに連れてきてやったことなかったからなあ。良かったな、ミャウ。」
 タイロンも、ミャウの喜ぶ様子に満足そうだった。

 「さて、ひとしきりリフレッシュしたところで、エピの村へ向かうとするか。」
 「エピの村って?」
 「カミニートの南にある、迷いの森の中にある村さ。アリサはコンパスを持っていなかったから、多分行ったことはないと思う。あの森は、コンパスがなくては抜けられない。」
 「どうして、その村に行くの?」
 「あの村で、銃が売られているらしいんだ。それに、こんな迷いの森の中の村だから、思わぬ情報があるかも知れないしな。」
 
 カミニートを出発したアリサ達は、迷いの森に向かった。
 その森は、これまでの森とは比べものにならないほど木々が密集していて薄暗く、ほとんどまっすぐ進むことができない。
 「コンパスの方向だけを頼りに進むんだ。まっすぐ歩いているつもりでも方向が変わってきてしまうから、光の見えるほうを目指すと森の外に出てしまうぞ。」
 森の中心に向かってしばらく進んでは迂回するということを繰り返しながら、アリサ達は森の中を進んでいった。
 やがて突然目の前が開け、小さな村の入り口に着いた。
 
 エピの村には石造りの家が並び、町とは違うのどかな風景が広がっていた。
 タイロンは早速、アーマーショップに向かった。

<エピの村のアーマーショップ>(注釈14)
 アイアンアクス 160メセタ
  戦闘用の鉄製の斧。片手用でやや小ぶりだが、全体が鉄で作られていて頑丈で重い。

 ニードルガン 2530メセタ
  短い針を高速で連続発射できる銃。

 アイアンシールド 1730メセタ
  鉄製の盾。強固で防御力があるが、非常に重い。

 タイロンはニードルガンを手に取った。
「ニードルガンか・・・もっと強力なのがあると良かったんだが、これでもあると無いとでは大違いだ。」
 タイロンは代金を払い、ニードルガンを腰のホルスターに収めた。今のアリサ達にとっては、かなり大きな出費だ。
 
 この村でも、モタビアの総督が味方になってくれるかもしれないという話を聞いた。ラ・シークとモタビア総督の対立は有名なようだ。

「ねえ、タイロン。さっきのおじいさんが言っていた、ラコニアってどんなものなの?」
「俺も見たことは無いんだが、非常に硬くて強い、金属と石の中間のような鉱物らしい。熱にも非常に強く、どんな薬品でも溶かすことができないそうだ。少しならアルゴルのいくつかの鉱山で、他の鉱石と一緒に採れるそうだが、何しろあまりに硬くて加工するのがものすごく大変な上に、普通の鉱石に含まれている程度のラコニアを精錬するのは非常に難しくて、膨大な燃料や薬品が必要になるために、ラコニアの屑を含む砂を研磨剤として使う以外には、物を作る材料としてはほとんど使われないらしい。ラコニアでできた武器なんて、伝説上の代物さ。」
「でも、そういえば、私の兄さんが人に預けていたラコニアンポットっていう壷と交換に、ミャウを助けたんだけど、あの壷もラコニアでできていたのかな?」
「本当かい?本物なら大変な貴重品だよ。商人のやつ、とんでもないぼろ儲けだな。」

 そんな話をしながら、アリサ達は次の家を訪ねた。
 その家には、一人の老人がいた。
「そなたは、ダンジョンキーのありかを探しているのかな?」
 家に入るなり、老人は質問してきた。
「(ねえ、タイロン、どうする?)」
「(何か、教えたくてしょうがない様子だな・・・)」
「(期待を裏切っちゃかわいそうだから、聞いてあげようよ・・・)」
 アリサは「はい」と答えた。

「ダンジョンキーは、カミニートの居住区の外れにある倉庫の中に、わしがこっそり隠しておいたぞよ。」
 老人は待ってましたとばかりに、嬉々として答えた。
 とりあえずお礼を言って、その家を後にした。

「ところで、ダンジョンキーって何?」
「昔の建物とか、古い地下道によくあるような簡単な構造の錠前ならほとんどの鍵が開けられる、万能鍵のことさ。昔から探検家や冒険家の必需品なんだが、もちろんおおっぴらには売られていないし、2、3種類の錠前しかあけられない粗悪品やまったく使い物にならないニセモノも多くて、あやしいアイテムさ。」
「タイロンも、昔ニセモノを売りつけられたことがあったよね。フフフ。」
 ミャウがおかしそうに笑った。
「ま、そんなわけで、あのじいさんの話も、怪しいもんだな。」
「でもせっかくだから、カミニートに戻った時のついでに探してみましょうよ。」

 アリサ達はエピの村を出て、再び迷いの森の中に入っていった。
 しばらく進んでいくと、突然、木の上から何かが飛び出してきた。
 それはこうもりのような羽を持つ、人間のような大きさの不気味なモンスターだった。

「まずい。バットマンだ。迷いの森に出るらしいという噂はあったが、まさか本当にいるなんて。」
「何なのこれ!こんなモンスターまでいるの?」
「説明は後だ。とにかく逃げるぞ!」
 タイロンの合図で、アリサ達は走り出したが、その頭上を飛び越え、バットマンは行く手に立ちふさがった。
「しょうがない。一匹だけならなんとかなるかもしれない。気をつけろ、こいつは手ごわいぞ!」
 タイロンは素早く武器をアイアンアクスからニードルガンに持ち換えた。(注釈15)
 バットマンは羽を広げて高くジャンプしたかと思うと、そのまま空中で体を丸めてすごいスピードで回転しながら体当たりを仕掛けてきた。アリサはその体当たりをまともに食らって倒れこんだ。なんとか立ち上がろうとすると肩口から血がふきこぼれた。激痛に悲鳴を上げそうになるのを必死でこらえた。
 「大丈夫か!アリサ!奴の鉤爪にやられたんだな。俺とミャウがなんとかするから、後ろに下がっているんだ!」
 「ありがとう・・・少し待っててね。」
 ミャウがスピードを活かして飛びかかるが、バットマンも素早くかわすので、かすめる程度しか攻撃が当たらない。
 バットマンの回転体当たりの真の恐ろしさは、回転しながら振り回す腕の鉤爪にあった。単にジャンプして体当たりするのではなく、体を回転させることでその鉤爪には高速の先端速度と遠心力ですさまじい威力が与えられるのだ。
 唯一有効だったのが、タイロンのニードルガンだった。高速で打ち出される針はバットマンが体を回転させてもはじかれることなく、一撃ずつ確実にダメージを与えていく。またタイロンの銃は決して狙いを外さなかった。その腕前は見事なものだった。
 アリサは「ヒール」のマジックを使った。肩口からの出血は止まり、何とか立ち上がった。
 「そうか、アリサはヒールが使えるのか!いいぞ、これなら勝てるかもしれないぞ。」
 受けるダメージをアリサのヒールで持ちこたえながら、三人はバットマンにじりじりとダメージを与えていった。
 空中で回転するバットマンに向かって、ミャウは全速力で突進してジャンプし、真横から体当たりした。バットマンとの体格差はあまりに大きく、ミャウははじき返されたが、バットマンの体当たりの軌跡が横にそれ、タイロンへの攻撃は外れた。
 「(・・・!そうか!)」
 アリサは剣を中段に構え、バットマンの正面に立った。
 バットマンはアリサめがけてジャンプした。回転しながらものすごいスピードで迫ってくる。アリサはじっとバットマンを見据えて、動こうとしない。
 「危ない!アリサ!」
 バットマンが目の前に迫ったその時、アリサは猛然とダッシュしてバットマンの横に回りこみ、レザーシールドを投げ捨ててアイアンソードの柄頭に手をそえた渾身の突きを繰り出した。アイアンソードはバットマンの羽に通っている細い骨を貫き通し、脇腹に深々と突き刺さった。たまらず身体をよじり、回転のバランスを崩して地面にたたきつけられたバットマンに、タイロンのニードルガンがとどめを刺した。
「ふうー、さっそくニードルガンが役に立つことになったな。買っといてよかったぜ。」
 三人ともかなり負傷し、すっかり息が上がっていた。やっとの思いで、アリサ達は迷いの森を抜けた。
「しかし、アリサの最後の一撃はたいしたものだったな。どこかで剣を習っていたのかい?」
「いいえ。兄さんが死んでから、初めて剣を持ったのよ。」
「筋がいいな。きっとこれからどんどん強くなるぞ。」
(・・・アリサの剣さばき、それにミャウの攻撃を見てバットマンへの攻撃方法を思いつく洞察力、そしてとっさに盾を捨てて両手での突きを繰り出したあの決断力には、なにか天性のセンスのようなものを感じるな。これは将来、大化けするかもしれないぞ・・・)

「それにしても、あんな恐ろしい生き物がいるなんて・・・。」
 アリサは思わず、森のほうを振り返った。
「あんなモンスターは、これまでアルゴルに存在しなかったんだ。」
 タイロンは難しい顔をしていた。
「バットマンは、ラ・シークが作り出した改造人間だと言われている。何かもっと大きな計画のための実験らしいんだが、詳しいことは分かっていない。」
「改造人間・・・。」
 アリサの顔が青ざめた。改めて、自分が戦おうとしている敵の恐ろしさの一端を垣間見た気がした。
「ラ・シークは、底が知れない人物だ。王になってから去年までの13年間は、確かに優れた統治者だった。それが1年ほど前から、まるで別人になったように豹変した。もしかしたら、1年前とは本当に別人なのかもしれない。王になる前の過去についても、謎に包まれている。」

「何にせよ、今の俺達のかなう相手ではないことは確かだな。まだまだ、先は長い。悔しいかもしれないが、少しずつ進んでいくしかない。」
 タイロンの言葉に、アリサは黙ってうなずいた。

「ま、これからの戦いに備えて、まずはカミニートに戻って腹ごしらえだ。」
 悠然と笑って振り返ったタイロンの頼もしい様子に、アリサは勇気づけられる思いだった。


<現在の装備>

アリサ:アイアンソード
     レザークロス
     レザーシールド

ミャウ:



タイロン:アイアンアクス/ニードルガン
      アイアンアーマー

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