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Phantasy Star Storiesコミュの第十一章 止められない願い

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  止められない願い

 

 絶望という名の風が、全てを吹きさらった後には、強い願いだけが残った。

 

 約束通り、「使者」は再び訪れた。

「参りましょう・・・貴方の願いを・・・我らの願いを叶えるために・・・。」

 

 レイバードは、「禁断の書庫」の蔵書の解析から、絶望し自ら命を絶った者の復活の鍵が、封じられた精神体との接触にあることを知っていた。そして、その精神体が、創造主の策略によって、「護り人」を憎悪する存在に変貌してしまったことも。

 

 

「・・・もし、これが人の目にふれたとすれば、僕は既に生きてはいないだろう。・・・僕は愛する人を取り戻すため、自らの全てをかけて「時空の門」を開く。それが創造主への反逆であるとしても・・・。

 

・・・「時空の門」は開かれず、彼は「神獣」によって滅ぼされた。我は彼の願いを後に伝えるべく、彼の手紙をここに残す。哀れな我が愛弟子よ、せめて安らかに・・・

」

 

「・・・私は作家として、創作にその半生を捧げてきた。だが、私は自らペンを折った。私は知ってしまったのだ。「天使の翼」の伝説が、「真実の御子」と我らを苦しめるために作られたものであることを・・・。

」

 

それは、決して許されない願い。

だが、彼女の願いが、決して叶えられぬのなら

私は今、それを願う。

 

「取り戻す・・・あの笑顔を・・・彼女の未来を・・・。」

 それは同時に、自らの過去と未来を取り戻すことでもあった。

 それがたとえアルゴル滅亡の危険を伴うものであるとしても、もうレイバードは自分の願いを止められなかった。

 

 ・・・デゾリス山中、地下3000m・・・

 

 氷に閉ざされた岩山の地下深く、直径数十mの半球状の空間。

 結界に護られたその空間に、レイバードは侵入した。

 

「我は「神獣の眼」・・・創造主の定めし使命を伝えるもの・・・」

 結界の中心に、明滅する光を放つそれはあった。

「さあ、我と契約を交わし、「大いなる光」への忠誠を誓え。そうすれば、お前はアルゴル全てを手にすることもできるのだ・・・」

「・・・そんなもの・・・欲しくはない・・・」

 

 レイバードの手から、一条の電撃が放たれた。電撃は「神獣の眼」を直撃する。

「愚かな・・・我を滅ぼそうというのか・・・」

 空間が歪み、一瞬電撃が押さえ込まれた。だがすぐに、電撃は再び「神獣の眼」を捉えた。

 電光に包まれた「神獣の眼」が耳をつんざくような高音を発し、激しく振動し始めた。

「神獣の眼」が閃光を放つ。しかし閃光は、全てレイバードの直前で阻まれた。

「神獣の眼」が光を帯び、振動はさらに激しくなっていく。

「神官の法衣」も電光を帯び、高音を発し始めている。

「・・・馬鹿な・・・「神の力」が・・・人間ごときに・・・」

 

「神獣の眼」が、幾条もの激しい光を発した。

 閉ざされた空間の全てが、光に変わった。

 

 光が消えた後には、無傷のレイバードと、閃光にローブを焼かれた「混沌の魔導士」達がいた。

「我々が結界を張らなければ、直径1kmのきれいな球形の空間が出現するところでしたな。」

「混沌の魔導師」の言葉に対し、レイバードは無反応であった。

 

「禁断の書庫」の蔵書の記述から、「創造主の呪いによる厄災を避ける術」を用いようとした者のほとんどが「神獣」によって滅ぼされたことが分かっていた。レイバードはこれらの伝承や記録から、アルゴルのあちこちに封印されている「神獣の眼」を探しだし、そのことごとくを破壊した。

 

・・・

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 バヤマーレ王宮、儀式のための清めの沐浴の場「水晶の間」。

 透き通った水の中に、レイバードは身を沈めている。

 開け放たれた窓からは、氷の星デゾリスの光がさしこんでいる。

 水からあがったレイバードの姿を、青く冷たい光が照らし出す。

 滴り落ちる水滴が、宝石のように煌めいた。

 既に三十を過ぎているはずのレイバードの姿は、二十代前半のままであった。

「私の時は、止まってしまったようです・・・。」

 レイバードは、氷の星を見上げた。地に着くほどに長くなったその髪が揺れる。

「貴女をおいて、先へ進んでいくことはできないから・・・。」



 素肌に、あの首飾りを着けた。かつて少女がレイバードの身代わりとして肌身離さず身に付けていたものであり、そして今、それは彼女の形見であった。

 首飾りに手を当て、彼は眼を閉じた。まるで、強すぎる決意をたたえたその瞳を隠すかのように・・・。

 

・・・

「総督閣下。王宮より勅書が・・・」

 総督府に緊張が走った。勅書の内容は直接の会談のための王宮への召喚であった。しかし、総督とその側近はそれを信じなかった。

 

・・・

 

「それは本当なのか。」

 総督は驚きの声を上げた。

 王女アリサを連れて密かにモタビア総督のもとへ逃れてきた女官は、ラ・シークがアウレス王を暗殺したとの報をもたらした。そして、総督に王女アリサの保護を求めたのだった。

 レイバード・ラ・シーク筆頭宰相はアウレス王の信頼もきわめて厚く、公人としては非の打ち所がない。最近、アウレス王との関係が悪化したとの報告もなく、これまでの経緯が王位簒奪のための周到な演技であるという可能性もなくはないが、アウレス王の衰弱が伝えられる今、筆頭宰相兼総祭祀長という現在の彼の政治的地位から考えて、暗殺のメリットは低い。そもそも、「神官」ラ・シークというのはきわめて特異な存在である。シークの全勢力をもってすれば、半月でアルゴル全土を制圧することが可能であるとの分析がある。シークはランディール軍や警察機構に対する全面的バックアップを行っており、それらを含めたシークの潜在能力はランディールを遥かに上回る。その気になれば、アルゴルを支配することはすぐにでも可能なのだ。

 暗殺の真偽については今後の展開を待たなくてはならない。だが確かなのは、正統王位継承者である王女アリサが現在自分の手中にあるということだ。それによって政治的選択肢は確実に増える。正統王位継承者を擁していることは政治的に有利に働くだろう・・・。

 女官が事情を説明している途中で、総督は直属のエージェント達を集めた。「総督の懐刀」の異名をとる彼らはパルマの警察機構より一時間も早くパルマのエアポートへと到着し、工作活動を開始した。彼らの暗躍により、女官と王女の消息は完全に隠蔽された。

 二週間後、アウレス王の病死が公表され、ラ・シークを頂点とする新体制が確立した。内紛なども確認されず、権力掌握を強行したとは考えられない。仮に暗殺であるとすれば、周囲は既に了解済みであったということになる・・・。

 

 それから14年間、ラ・シークは動きを見せなかった。望むならば正統な王として即位することも可能だったにも関わらず、彼はランディール王朝の代王という地位にとどまった。ラ・シークの治世の間、アルゴルは驚異的な発展を遂げた。仮にアウレス王の治世が続いていたとしたら、これほどの発展は望めなかったのではないだろうか。ラ・シークの政治的失点は全くなく、行政機構もアウレス王時代のまま引き継がれたため、総督は行動を起こす機会を逸したが、総督府に対する過度の干渉もなく、現状は満足すべきものであった。しかしラ・シークは依然として王女の捜索を続けている。王女の隠匿が知られれば、決定的対立は避けられない。無論、今までも緊張がなかったわけではない。ラ・シーク政権がモタビア植民地に対する税率を大幅に引き下げた際、総督府が実際の徴収税率を下げず、差益をそっくり懐に入れたとして問題になったが、その時でさえ、文書のやりとりによって解決し、直接の会談は行われなかった。

 にもかかわらず、この時期に王宮への召喚である。ラ・シークは、総督の真意を試そうとしているのだ。総督府の誰もが、そう考えた。

 

 総督は、自らの所有する専用機で、パルマのエアポートに降り立った。王宮の特別機のチャーターは、丁重に辞退した。

 予想に反し、代王ラ・シークは総督を好意的に迎えた。会談は和やかな雰囲気の内に進み、二日後、総督は無事、モタビアへと戻った。

 
「・・・計画通り、総督はパルマへ向けて出発しました。」

「エージェント達も半数がその直前にパルマ入りし、残りは事務官の名目で総督に随行しています。総督府はがら空きです。」

 レイバードと「混沌の使者」達は、モタビア総督府の地下にある遺跡にいた。ここはかつて、一大科学文明を誇った「砂の民」が築き上げた都市の中心であった。

 渦状の通路の最後に、その玄室はあった。

「ここが、かつて砂の民が「原初の混沌」を呼び出した場所。「次元の狭間」に通じる場所です。」

「混沌の使者」が、レイバードに告げた。

「城の者達も、替え玉には気付いておりません。見破られる心配はないでしょう。」 

「さあ、レイバード様。渦の封印を解き、その御力で「時空の門」を!」 

 長い法衣に身を包んだ「影」が、レイバードを促した。

 

「・・・我々はこの都市の地下に、「次元の狭間」へと通じる場所があることを突き止めた。そこで我々は、地下に巨大な「渦」を建造した。この渦が星々の力を集束し、その力の流れによって「次元の狭間」への道を開く。「原初の混沌」の召喚に成功すれば、その巨大な力は我々砂の民にかつて無い栄華をもたらすだろう・・・

」

「・・・我々が「原初の混沌」を召喚したことに気づいた「光の使者」が「光の巨人」を目覚めさせた。あの「啓示者」を使って「始まりへの回帰」をひきおこすつもりなのだ。我々は制御できるようになったばかりの「原初の混沌」を巨人の形態に仕立て上げ、「光の啓示者」を迎え撃った・・・

」

「・・・「光の啓示者」は倒したものの、この戦いで「原初の混沌」は大きな損傷を受け、ついに暴走を始めた。我々は「渦」の力を反転させ、「原初の混沌」を「次元の狭間」へと送り還し、「次元の狭間」への道を封じる・・・

」

 
 レイバードの両眼に、青い光がともった。

 通路の向こうで、大きな何かがかみ合うような音がした。

「ヴォルテックス・ジェネレーター反転解除、モード正位置へ。」

 玄室の壁面の紋様が、不気味な青い光を帯び始める。

 

 レイバードが「儀式」を司る言葉を唱え始めた。

 

 

門の内なる者

偉大なる三者

偉大なる智、偉大なる心、偉大なる技

智のア・ザート、心のゼ・デース、技のレ・デュース

その偉大なる御名を讃えん

 

我、彼方の時の理をもって、時の門を開かん

門の内なる者よ、我が声に応え給え

我が願いを聞き届け給え

星の巡りは、ア・ザートの刻(とき) 

偉大なる智、汝、智のア・ザート!

 

 

「時空の門」が開かれた。

 濃い暗黒の障気が流れ出し、レイバードを包んだ。だがレイバードは動じない。

「我を呼んだのはお前か。」

 闇の中に、赤く光る二つの眼が現れた。

「神獣」とは比較にならない力の存在が、周囲の空間をも圧倒する。

「たいしたものだな。こちらからもお前の姿が見えるぞ。」

 恐ろしく、しかし知性を伴った声であった。

 その計り知れない知性の存在感に比べれば、「神獣の眼」のそれなど虚勢に過ぎない。

「お前は、何を望むのか。」

 レイバードは、願いを告げた。

 

「ならば、我々を門の内より解放せよ。別に等価交換などということを言うつもりはないが、門の内側からでは、その力は使えないのだ。巨万の富や権力であれば、すぐに叶えてやれるのだがな。」

 勿論、この神官がそんなものなど望まないことは、「智のア・ザート」には分かっていた。

 
 

 封印の無力化のために、「門の内なる者」はレイバードに配下の「混沌の者達」を貸し与えた。

「今、「次元の狭間」に、お前達の世界と同じ時間が流れている。今なら、完全な形の「原初の混沌」を送り出すことができる。その力によって、お前は現世と混沌の王となる。さあ、「原初の混沌」の名を呼べ・・・。」

 

我は、汝の名を呼ばん

生命の始源、原初の混沌

おとしめられしその名

汝の名は、ダーク・ファルス!

 

 ブルーメタリックの濃い霧が、レイバードを包み込んだ。

 霧はレイバードにまとわりつき、その体を覆っていく。

 レイバードの姿が、徐々に変化していく。

 それはまるで、別の人間の姿で覆われていくようであった。

 

「時空の門」より、巨大なまがまがしいものが現れた。

 それは先程の霧と同じ色をしていて、作りかけの人間とでも形容すべき姿をしている。

 その咆吼は、邪悪な気配に満ちている。

 生命の根源にある醜さ、残酷さの結集が、そこにあった。

 

 レイバードの姿は、すっかり別人となっていた。

 その眼は、赤い光を放っている。

 鋭い牙の並んだその口元に、不敵な笑いを浮かべている。

 

「我は「帝王」ラ・シーク!現世と混沌を統べる王!」

 その存在を誇示するかのように、「帝王」ラ・シークは叫んだ。

「「帝王」ラ・シークよ。神官の願いが叶えられた暁には、お前に独立した肉体を与え、混沌の王として迎えよう。」

「その言葉、確かに聞いたぞ。」

 派手にマントを翻し、「帝王」ラ・シークは、「混沌の者達」の方に向き直った。

「「混沌の者達」よ!この「帝王」ラ・シークと「神官」に忠誠を誓え!」

 

 

・・・

「瞳の奥に、あの神官の心が見えた・・・蒼き水晶・・・美しく、悲しい・・・・・」

 よどんだ時の中で、「智のア・ザート」はそう思考した。

「次元の狭間」に封じられて以来、幾度か訪れた「流れる時」の中で、レイバードのもたらした「時」は最も貴重なものであった。「深遠なる闇」が生まれてからも、「時空の門」を開き、癒しをもたらす「時」をもたらした者達に、「門の内なる者」は見返りを与えてきた。「門」を開いた者達は、「門の内なる者」が憎悪する無知で愚かな「護り人」とは違っていた。ある者は「智」と「技」への探求心から、またある者は「大いなる光」からの自由を願い、そしてある者は全ての愚かさを無に帰す純粋な破滅を希求し、「門」を開いたのである。

(あの神官・・・世界の全てを慈しむ心と、神をも滅ぼす力・・・ただ一つの思い・・・ただ一人への想いゆえに・・・「光に虐げられし者」・・・その強く、切なる願い・・・)

「・・・叶えたいものだな・・・彼の願いを・・・・・」

 

「似ている・・・かつての私に・・・」

 渦巻く闇の中に、別の思念があった。

「ほう。ゼ・デースよ、お前にも見えたのか・・・。」

(「ア・ザートの刻」であるにも関わらず、私を通さず「門の外」を知覚できるとは・・・あの神官の「力」ゆえか・・・)

 

・・・

 

 六枚の翼を持つ少年が、少女の肩を抱きかかえている。

 少年の周りを、「神獣」達が取り囲んでいる。

 少女の顔は、その少年と全く同じであった。

 

 少年は少女の肩を抱きかかえていた手をそっと離した。

 少女が球形の防壁に包まれる。

 少年の眼が蒼く輝き、翼が開く。

 

「怒りの炎」が、「神獣」達に迫る。

「神獣」の従者達は一瞬のうちに消滅した。

「神獣」達の姿も、炎の中に消えようとしている。

 

 渦巻く炎の中から、ラコニアの鎧をまとった戦士が飛び出した。

 戦士の突き出したラコニアの剣が、少年の胸を貫いた。

 剣からあふれる光が、少年の体を侵食する。

 

「怒りの炎」が一瞬弱まった。

「神獣の眼」が光る。

 

 光なき空間が背後に現れた。

 少女を包む防壁が、その空間へと吸い込まれる。

 少女の姿は、闇の彼方に消えた。

 

 少年の悲痛な叫び。

 少年の最後の命が、炎に変わった。

 

 炎が消えた後には、ただ一人、ラコニアの剣を持つ戦士が立っていた・・・。

 

・・・
 意識を取り戻したレイバードは、不思議な感覚にとらわれていた。

 闇の中に浮かんでいるような感覚。

 自分の目から少し離れたところに、視界が広がっている。

「気が付いたか?」

 自分の周り全てから声がする。

「お前は・・・?」

 我が意を得たり、とばかりに「声」は言った。

「我が名は、「帝王」ラ・シーク! お前の憎悪と絶望より生まれた。「帝王の肉体」を統御し、「原初の混沌」の力を授かる者。我はお前の殻となる。仲良くしようぞ、「神官」ラ・シークよ・・・。」

 

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