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BOOKERSコミュの夢を叶えた男のお話

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 御年四十歳になるフリーターの大泉海斗は、ある日、通りを歩いていると「夢を叶えます」という半分消えかけた文字に目が留まった。そこには占い師が台を前にひっそりと座っていた。
「おじさん、これ本当か?」
 占い師の身体がブルッた。視線を逸らすようにうずくまっていたからだ。
「ああ」
 力ない返事がした。
「そんなことあるはずないよな」
「じゃあ、占ってしんぜようか」
 占い師は辺りを見回しながら、どことなく怯えるように口を開いた。海斗は、半信半疑で話し始めた。
「実は、俺、身寄りもなくてさ。こないだも女に振られてさ・・・」
 愚痴をこぼす程度の話しかしない海斗に痺れをきらせた占い師が口を挟んだ。
「で、何がしたいのじゃ」
「そりゃ、就職したいしよ、結婚もしたい、出来れば社長にもなりてえよ」
「それでいいのか」
「子供も欲しい、そして、ゆくゆくは孫も・・・言えば切りがないけどな。でもこれだけ夢が実現すれば、いつ死んでもいいよ」
「まあ、何事も一歩踏み出さないと始まらないぞ」
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「君はまず学校に行きなさい」
「学校ったって、どんな学校に行きゃいいんだよ」
「占い師養成学校だ。君の顔には占い師になる相が出ておる」
 突拍子もないことを言われて海斗は呆れて、そそくさと立ち去った。
 
 相変わらずぶらぶらしていた。何か面白いことはないかと考えたが何も浮かばなかった。それならと、占い師養成学校を遊び半分に受けてようと思った。ダメだったら、占い師をとっちめてやるつもりだった。
 早速、ある雑誌に載っていた学校をダメもとで受けに行った。
 久しぶりのスーツ姿は我ながらまんざらでもなかった。試験会場に足を踏み入れるた時のことだった。
「もう、試験が始まるんですか」
 受験生らしき人が時計と海斗の顔を交互に見ながら聞いてきた。どう反応してよいのか、海斗は自分が場違いな人物だと咄嗟に思った。そっと廊下に出ると職員らしき人が声をかけてきた。
「そろそろ打ち合わせが始まりますから」
「え?」
 戸惑う海斗の背中を押すように職員らしき人が歩みだした。促されるように海斗は歩調を合わせていた。
 案内された部屋に入るとキツネ顔の初老の女性が何やら説明していた。集まっていた人たちに順にB4サイズの封筒を手渡した。どうやら試験問題であることは海斗にも察しがついた。
「じゃ、行きましょうか」
 海斗の斜め前にいた男が声を掛けてきた。
「問題を配り終えたら、僕は前にいますから、あなたは机間巡視をして下さい」
「え?」
「いや、途中で交代しますから心配しないで」
 この男は沢登という小太りの男だった。どうやら海斗はアルバイトの試験監督と間違われていた。でも勉強もしてないので試験を受けるよりはこのまま間違えられていた方が気が楽だと思った。バレたらバレた時のことだと開き直っていた。無事試験が終わるとアルバイト料が手渡された。嬉しかった。久しぶりの充実感があった。帰りがけに沢登が「飯でも食べに行きましょうか」と誘ってきた。 食事をしながら意気投合してしまった。
「よかったら、うちの社員になりませんか」
 沢登からリクルートされた。てっきり、学校の職員と思ったが、試験監督だけでなく、着物のB反市、人形劇など何でも引き受ける小さなイベント会社だった。
 社長は沢登のお母さんだった。水を得た魚のように働く海斗は気に入られた。どんな仕事でも有り難いことだった。そしてお母さんが体調を崩すと次期社長に指名された。他に社員は息子の沢登だけだったからだ。二十歳そこそこの沢登に継がせるのは無理があると思われたからだ。形だけ社長と入籍した。その後、沢登とも養子縁組をした。
 ほどなくして沢登が結婚し子供ができた。海斗にとっては初孫だ。占いの日から僅か1年余りのことだった。海斗は嬉しい反面、不安が脳裏を過ぎった。こんなにトントン拍子に事が進むと日増しに不安が募ってきた。

 思い切って、例の占い師を訪ねた。
「言った夢が全部叶ってしまった。お願いだらもう夢をやめてくれ」
「いや、一度占ったことは撤回できないのじゃ」
「じゃあ、もう後は死ぬしかないじゃないか」
「仕方ないな」
「そんなこと言わないで、何とかしてくれよ」
「撤回はできないが現状で止めることは可能じゃ」
「それでいい、それで十分だ。で、どうすればいいんだよ」
「本当に後悔しないか」
「当たり前じゃないか、この後は死ぬしかないんだから」
「よし、じゃあ、ワシと交代しろ」
「え?何をするんだよ」
「占い師じゃ」
「そんなのやったことないよ」
「大丈夫だ。ここに座っているだけでいいんだ」
「本当か」
「どうせ客は、めったに来ないんだから」
 占い師がぼそっと呟くのを海斗は聞き逃さなかった。
「何だ、おじさんの占いは、たいしたことないんだな」
「いや、当たり過ぎてみんな引いてしまうんじゃ」
 海斗は「強がり言ってるんじゃねえよ」と鼻で笑った。そしてホッとしたように占い師とそっくり衣装を交換した。軽やかな足取りの占い師を見送ると、一人きりになった海斗は、ゼイチクや摩訶不思議な占いグッズをいじりながら座っていた。
 すると、妙な視線を感じ始めていた。どうやら、鋭い目つきが四方八方から突き刺さってきた。堪らず、寝たふりを決め込んでいると、いつの間にか周りをヤクザに囲まれていた。
「おう、テメエーか、ここのショバ代を払わない奴は!」
「え?」
「こんどからここのシマは、うちの組の縄張りになったんだよ」
「お前、何年分も溜まってるそうじゃねえか、この野郎!いつ払うんだよ」
「え?いや、あのう・・・」
「つべこべ言わずに払え!」
 海斗はコワモテの迫力に押されてしまった。
「お前、払うまでこのまま帰さねえからな」

 ヤクザに監視されながら、このまま現状維持を続ける海斗であった。



 

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