Nouakchottでの2日目、僕らはまずタクシーに乗って中心地へ向かい、銀行を探した。僕は金を引き出す必要は無かったが、Swee Kongの所持金がほとんど無くなっていたからだ。しかし2つ目に入った銀行で詳しく事情を聞くと(実は1件目でも同じことを言われたのだが)、モーリタニアにはATMが存在しないことがわかった。Swee Kongは愕然としていたが、僕は万が一と思い、有り金を全部モロッコで引き落としておいたので、問題は無かった。この頃から、Swee Kongの軽率さや不注意な点が気になりだした。そして僕らは有り金を両替することにして道を歩いていると、何人かから両替の声がかかり、レートを聞くと、結構良かったのでその男についていった。グランマルシェの中をくねくねと 進み、いざ両替の時になって255UMと言い出した(1$US=270UMと言っていたと思う。今考えるとありえない数字)ので、Swee Kongが怒って両替しないと言い出すと、また違う場所へ連れて行かれた。そこで事件が起こった。Swee Kongの金をひゅっと取ると、「両替するから待ってろ」と言って、その男はその場を離れてしまったのだ。でも何故かSwee Kongはその男をすぐには追わなかったので、「大丈夫か、行かなくて?」と言うと、Swee Kong は急に我に帰ったように、僕に「ここで待っててくれ、男を追ってくるから」といってその場を離れた。20分ほどしてSwee Kongが戻ってきて「あの男は来た?」と僕に聞いてきたが、そんなものは来るはずもない。彼にもそれはわかっていた。Swee Kongはものすごく興奮して英語で僕にまくしたてたが、僕には彼の軽率さのほうが信じられなかった。男が金をひゅっと取ったと言ったが、実際には彼は手にした金を、男のほうに差し出していたのだ。僕はしばらくの間、彼の発言には返答せずに、また歩き出した。マルシェの出口へ向かう途中、1軒のForex Bureauに立ち寄ると、そこには北京語が堪能な男が一人いて、その男に事情を話すと、「道端で両替をしてはいけない」とのこと。あたりまえだ。その後、また別のForexで僕らは両替をし、マルシェを出た。セネガル大使館へ向かう途中、僕は少しだけSwee Kongを諭した。彼は「Today is not my day」と言っていたが、これはついてなかったという意味だろうか。だとしたら、また同じことを繰り返すに違いないと感じた。そしてこのすぐ後、彼は同じような失敗を繰り返した。セネガル大使館の手前にベトナム人が経営するチャイニーズレストランがあり、そこで昼食をとることにした。料理が出てくる前に、Swee Kongは「ちょっとセネガル大使館に行って、場所を確認してくる」と言って出ていってしまった。ほどなくして料理が揃い、彼はまだ帰ってこなかったけれど、料理が冷めてしまってはもったいないと思い、先に食べ始めていると、10分位してから、一人の見知らぬ男と一緒に彼は帰ってきた。彼はとてもフレンドリーにその男と話し(いつものことだ)、飲み物やご飯を勧めていた。僕は呆れて口がきけなかった。そしてその男と店のマダムがフランス語で何事かを話し、しばらくすると、春巻きみたいなものが出てきてその男の前に置かれた。Swee Kongはびっくりした顔で僕を見たが、僕は共感なんてしなかった。ただ単に彼は同じ過ちを繰り返したのだ。食後そのモーリタニア人の男は、一度家に戻って妻を乗せて20分後に帰ってくるからと言って店を出て行った。僕は戻ってこないと思ったが、その男は戻ってきた。しかし、タクシー代よりずっと高価な食事をおごったことに変わりはない。
Nouakchottでの3日目については、Fufuの店での話しから始める。Philippe、Swee Kong、僕の3人は宿を後にすると、前日にSwee Kongが申請しておいたセネガルビザ収得のために大使館へと向かった。荷物を抱えて大使館で小一時間ほど待っていたところで僕らが呼ばれたので、やっとGetかと思いきや、大使館の中で待たないで、向かいのカフェで待っていろと言われただけだった。なんでも大使はそーとーに忙しいらしく、なかなかサインをする暇が無いらしい。信じられないルーズさだと思ったが、でもここはアフリカ。Time is not moneyの土地だと再確認して、向かいのカフェで待つことにした。向かいの店のマダムFufuはとても親切な人でレバノン人。旦那もこれまた親切でモーリタニア人。僕らは、サンドウィッチは買ったものの、それだけなのに何時間も待たせてもらい、コーヒーをご馳走になった。待っている途中で、近くのcyber caféに行ってみると日本語が読めた。cyber caféから戻ると、僕らに大使館から出て行けと言った秘書らしき女性が、Fufuの店に昼ごはんを食べに来た。彼女は愛想は良くなかったが、僕らの事情を一応聞いてくれて、そして「いつもこんな感じなのよ。だから私にもいつパスポートを返してあげられるかわからないのよ」と教えてくれた。僕らはこの日にセネガルに向かうことをあきらめて、その夜泊まるホテルを探しに出た。そして、結局近所で見つからずに、またFufuの店に戻ると、FufuがSwee Kongのパスポートを持って店の前に立っており、僕らの帰りを待っていた。僕らは諦めてしまっていた中での突然のラッキーに、完全に有頂天になってしまった。パスポートは、秘書の女性がわざわざ持ってきてくれていた。僕らは彼女たちに礼を言い、促されるように、Fufuがつかまえてくれたタクシーに飛び乗り、その場を後にした。・・・そもそもこれが、その夜の悪夢のような出来事の始まりだった。僕らはビザの収得に時間がかかり過ぎ、セネガルへの出発の準備ができていないためもあって、出発を翌日にしようと話していたにもかかわらず、何の算段も無いまま、タクシーでガールルティエールに向かってしまったのだった。ガールルティエールに着くと、すぐに人が群がってきて、「Rossoか?1700UM+バッグ代だ」と口を揃えて僕らに喚き散らしてきた。事前の話では、タクシー満席(6人・運転手除く)で1人1000UMと聞いていたので、冗談じゃないと思っていたが、皆が皆、口を揃えて、運賃+バッグで2000UMだと言うのだ。それでも20分くらい粘って車を決めずにいたら、1人の男が2人で3500UMでいいと言い出した。これには周りの運転手たちがすごく文句を言っていたが、僕は荷物代込みかを確認すると、すぐにそのタクシーに乗った。後で思ったのだが、時間がもっと早くてもっと粘る時間があれば、たぶんもっと安く乗れるのではないかと思った。