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暁闇の鎮花祭コミュの暁闇の鎮花祭22

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第十九章;逢坂山の夢追い人 (前編)
『むつまじと君はしらなみ瑞垣(みづがき)の 
久しき世より斎(いは)ひ初(そ)めてき』
――私に、会いに来てください。 



見渡す限り、辺りには背の高い木が鬱蒼と茂っている。延々と連なる、木立の合間に伸びる石畳の参道は、道の奥、大きな鳥居へと繋がっていた。

その参道を、華祥は一人、歩いていた。
人界の、鄙びた寒村の神社である。
しかし華祥は知らなかった。この社こそが、全ての始まりの地であったことを――。
巌永がガミンサマと、そしてその衝突が契機となって、監視者、美夕と出会うこととなったあの社であることを。

仮に華祥がこの話を知っていたら、或いはどんな表情でこの神社を見つめていたであろうか・・。
自らの出自も、母も、父も忘れ果てた今の華祥は――。


しかし、寒村の小社は何も言わずにただぽつねんと華祥の前に立っている。
小鳥の囀り、木々を渡る微かな風の囁き、遠い潮騒の音にも似たそれだけが、足下の石畳に反響でもしているかのように、妙に喧しく辺りに響き渡っている。
華祥は目の前の社から眼を離した。
渡る風の見えない軌跡を追うかのように。
微かに頬を掠めていく風に、桜のあるかなしの香りを感じ取り、目を閉じ、感覚を研ぎ澄まし、その香りを拾う。

その風の香りが、実は桜の香りを意識して練られた香であることに気がついた瞬間、歌が聞こえた。
『むつまじと君はしらなみ瑞垣(みづがき)の 
久しき世より斎(いは)ひ初(そ)めてき』
訳文は、すぐに出来た。
『私が親しく思っているとは、あなたはお知りにならないでしょうが、久しい昔の世から、あなたをお守り申し上げはじめてしまったのです。』
歌の訳文を脳裏に巡らせながら、華祥はその言わんとしている意味を掴みかねた。
誰が、誰を親しく思い、それを知らないのか・・。咄嗟に脳裏に思い描いたのは、今や影となって寄添っていてくれる玄紅の姿であった。
しかし歌を紡いだ声音は、確かに女のもの。それに華祥が今日ここ、人界に来ていることを玄紅は知らないはずである。
「母、様―?」
となれば――。祈るように、しかし確かな予感を込めて、華祥はその言葉を紡いだ。
顔さえも覚えていない母。
まるで、その欠片も残されていない面影を思い描くように、華祥は桜の香りが混じる風の中、目を閉じた。



風に攫われる砂の城の様に、サラサラと薄れ、消えて行く華祥の姿を、じっと見つめている少女がいた。
いつのまに、その場所に現れたのであろうか。否、その少女は最初からその場所にいた。気配に聡い、華祥に気取られることもなく。
勿論、人間ではない。
少女の名は、須香。古代日本神魔の主宰、大国主の正妻スセリ姫が、数限りない転生を重ねた末の姿である。

封印を脱し、同時に神である身をも捨て、輪廻転生の輪に身を投じ、須香は否、スセリは数え切れないほどの転生を今日までずっと繰り返してきた。
『人間』として転生を繰り返し今日に至るまでの日々は、苦しみが多く、神として長命を生きた身としては、『瞬く間』ともいえる程度の時間を終わりなく繰り返す日々。
何度も復讐を諦め、この苦しみからだけ、逃れることを考えたこともあった。
しかしそれをするにはあまりにも、昔の思い出が優しすぎた。
新しいことなど望んでいない。
ただ、一つの夢を終わらせたいだけである。
新しい命を得るたびに、この国を、大地を見るたびに、スセリはそれを強く思った。

夢を見るべき人は、既に亡い。
しかし、夢だけが残っている。
だから、その夢を終わらせよう。
そのたった一つの、目的のために。
その目的を達するための『時』、その時を待つために。
『憂きながらあればある世に故郷(ふるさと)の
                  夢をうつつに覚ましかねても』 

辛いながらも、住むと住んでいられる世に時を過ごしていることだ。故郷の昔の夢として持ち続けている思い出を、今の現実に覚ますことができなくて、
まあ。 

消え行く華祥の姿を見送った後、踵を返しながらスセリは自嘲の笑みと共にその歌を口ずさんだ。



風が、誰もいなくなったその場を、一息に走り抜けて行く。

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