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暁闇の鎮花祭コミュの暁闇の鎮花祭16

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そして一切は、マヨヒガとともに・・。

第十四章;懺想のマヨヒガ(後編)

大昔に女神あり、三人の娘を伴ひてこの高原に来たり
今の来内村の伊豆権現の社ある処に宿りし夜、
今夜よき夢を見たらん娘によき山を与うべしと母の神の語りて寝たりしに、
夜深く天より霊華降りて姉の姫の胸の上に止まりしを、末の姫目覚めてひそかにこれを取り、我が胸の上に載せたりしかば、つひに最も美しき早池峰の山を得、
姉たちは六角牛と石神とを得たり。若き三人の女神各三つの山に住し、今もこれを領したまふゆゑに、遠野の女どもはその妬みを恐れて今もこの山には遊ばずといへり。

サクサクと、砂を踏みしめる足音が、この屋敷に遭遇した昨日よりは些か薄らいだと思われるものの、依然濃く辺りに立ち込めている霧に吸い込まれてゆく。
「行かれますか。」
唐突に掛けられた声に、巌永は足を止めた。
「館の主か?」
疑問の形をとってはいるものの、巌永の言葉には、明らかな確信が込められていた。
「ええ。お初にお目にかかります。」
巌永の見つめる先――霧の中から、丈成す黒髪も見事な端正な女が一人、歩み出てきた。
咲久夜を連想させる面差しの、しかし咲久夜には無い、深い影を傍らに寄添わせている女だった。
「人は、私を早池峰の女神、とだけ言う。私は、自らの名を持たぬもの。私は、マヨヒガの守人。」
「スセリ姫様の、――女官の一人か・・。」
一瞬、なんと言うべきか言い惑った巌永に、守人はうっすらと微笑み、しかしはっきりと否定した。
「いいえ。」
巌永が困惑を深くした。
「確かに私は、スセリ姫に言われて、あなた達をここに招きました。しかし、スセリ姫の下女ではありません。」
巌永は無言のまま、視線で先を促した。
「昔、大きな戦いがありました。古代日本神魔と日本神魔が戦った戦です。
その戦いで古代日本神魔は敗れ、負けた古代日本神魔達は住みなれた土地を追われ、遠く、まだ日本神魔の力が及んでいなかったこの東北の地に落ち延び、ここに新しい国を作りました。ここに、スセリ姫も来たのです。」
守人は寂笑した。しかし、その笑みもすぐさま消えてしまう。
「スセリ姫は、身はこの別天地にあっても、心はいつも戦場を求めていました。その心が、この地に戦を呼んだ。いえ――、そもそも戦は、最初から避けられなかったのでしょうね。例えスセリ姫が、ここに来られなかったとしても。」
そこで、一度言葉を切ると守人は、目を辺りに垂れ込める霧へと向けた。
巌永もつられて、視線を辺りの霧へと向けた。


「今となっては、全て終わった物語。しかし、私のようにいつまでも、この終わった物語に縋り、生き続けなければならない者がいることを、忘れないで――。
貴方達は、新しい物語をまた始める道を選ぶことが出来た。しかし私には、それさえも赦されない。誰も居ない、誰も来ないここでただ一人、終わった物語を読み返すだけ。」
その言葉は、目の前の、巌永と同じ歳ばかりの麗人である守人が発したとは思えぬほどに、重く響いた。

「咲久夜は、あなたとは別の処へ向かいましたね。あなたも、ここを発つときです。御武運をお祈りしています。」
祈り、というにはあまりにも冷淡に過ぎる口調で、守人は告げた。

巌永の視界の中の霧が薄れ、昨夜のあの四足門がくっきりと、その存在を浮かび上がらせた。
巌永は、まるで背中を押されるようにして、門へと向かって歩んだ。


突然、巌永のすぐ傍を、一条の光が掠めた、と思った次の瞬間、轟音。次いで、柱が裂ける音が辺りに響いた。巌永はすぐさま後ろを振り返った。
その巌永の眼差しの中で、マヨヒガの建物の真ん中辺りから、天に向けて猛烈な火焔が一筋吹き上がる。
そして程なく、劫火がマヨヒガを包み込んでゆく。
「あ・・。」
咄嗟に、巌永は燃え盛る劫火に向かって身を翻し、しかし、ついに巌永は、その場から一歩たりとも、前に出ることが出来なかった。
決して劫火が怖かったわけではない。確かに、マヨヒガを包み込む烈しい火炎は、距離をとっているにも拘らず、巌永の元にまで、焼けるような熱と火の粉を送りつけてくる。
しかし巌永の足を止めたものは、そんなものではなかった。ある意味で、もっと恐ろしく、そして―――。
巌永は、その場から退くことも、まして先に進むことも出来ないまま、ただじっとその眼前の人影に視線を注ぎ続けた。


大きな火の塊がバラバラと、文字通り雨となって、その人影に巌永以上に降り注ぐ。いくら障壁を張ってあるとは言え、火事場風までもが吹き荒れ始めたこの場に余り長い間立ち尽くしていたいなどというものは、中々いないだろう。
しかし、どちらも動かない。その人影も、巌永も。


「巌永姫―。」
バリバリと、生木の裂けるような音を立てて、マヨヒガは火炎の渦の中に没していく。
その、耳を聾さんばかりの轟音を契機に、まるで呪縛から解き放たれたように、火炎を背に負って立っていた影が、口を開いた。

「スセリ姫様・・。」
巌永の掠れた声が、しかし轟音の中にも関わらず、妙にはっきりと辺りにこだました。
「久しぶりね。本当に――。」
スセリが笑った。心底から嬉しそうな、無邪気とも取れるスセリの笑い顔に、しかし当の巌永は複雑な思いを抱かざるを得なかった。
知らぬものが見れば、無邪気そうな微笑みも、巌永には、無邪気さを装う偽りの大人の笑みにしか見えなかった。
しかし同時に、どこまでも子供のままの童心;無邪気な残酷さ―を良くも悪くも大人に長じた今も持ち続けているのが、このスセリ姫という存在であることも、巌永はよく知っている。
嘘か本当か・・。
意味の無い詮索とは知りつつも、巌永は思い惑った。
背後で未だ燃え盛るマヨヒガの姿が、巌永にさらに『スセリ姫』という存在についての思慮を促す。未だ、こんなところで死ぬわけには行かなくなった身であるから、尚更だった。


「彼女は、これを望んでいたの。」
唐突なスセリの言葉に、巌永ははっと我に返った。
同時に、一体スセリが何の事を言っているのかが分からず、眉を顰めた。
「マヨヒガの守人は、この結末を望んでいたわ。――、鈴鹿。それが彼女の名前、そして私の名前。」
巌永はその名前を聞いた瞬間、全てを理解すると同時に、新しい疑問を覚えた。
「スセリ姫様の、名――。」
「私たちは、二人で『鈴鹿』になってしまったのよ。」
スセリ姫の寂笑に、巌永はそれ以上何もいえなかった。
「鈴鹿は、本当の鈴鹿は、自分が愛した人を裏切らなかったのに、誰かが私と鈴鹿を間違えたために、本当の鈴鹿もまた、裏切者にされてしまったわ。」

鈴鹿――。
東北一円を支配しつつ、大国主の侵攻も跳ね除け、独立を保った古代日本神魔の国。その国の指導者にして『王』、アテルイの妻。
侵攻してきた敵方の神将、ミカヅチに心変わりをし、良人を捨て、国を売ったとされる裏切者。
しかし、スセリは今、なんと・・。

「アテルイを裏切ったのは私。東北の国を滅ぼしたのは私。そして、敵将に走ったのも私。」
「貴女は――。」
口中が、カラカラに乾いていた。言葉が喉に引っ掛かって上手く出てこない。
「驚くのも無理は無いわね。でも、私には果たしたい望みがあるの。そのためには」
あなたたちも利用させて貰うから。

スセリはそれだけを言い置くと、身を翻した。装束が風を孕み、虚空に刹那、緩やかな弧を描く。
「言わなければよろしい事を。なぜに、言われましたか。」
そう、言わなければよかったのだ。
まるでこれでは、逃げろ、というも同じこと。
張り巡らされた策から逃げろ、と。

しかし、確かに今の言葉が届いているはずのスセリからの返事は、無かった。


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