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高木神話コミュの高木ファミリー 第五部 カールおじさん

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その日以来、高木は母ちゃんにやさしくなった。


母ちゃんがもう、ここまで弱っている。

母ちゃんの未来を想像すると不安に押し出されそうで、それにくっついて高木自身の未来も一緒に押し出されてしまいそうだった。


高木の不安な感情は、
まだ眠いよ。

いや、もう歯を磨いて着替えなきゃ。
というところまで来ていた。

目を開けても閉じても、覆いかぶさり迫りくる。
この圧力感は60秒を短く感じさせた。




胸毛がもうここまで伸びたのかと気づいたのも、ちょうどこの頃のことだった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

母ちゃんの病気は脳梗塞の一種で心臓にある4本の血管のうち3本が詰まってしまったらしい。
元々、体調が悪そうだったのはすでに2本詰まっていたとのことだ。


2本詰まっても普通に生活できているということに驚愕した。
いや2本でもきっと痛かったんだろう。

もはや、母ちゃんの身体能力の高さだけで片付く話ではなくなっていた。

何も言わずずっと我慢していたことを考えると
胸が痛くなり、せつなくなり、スッと昭和の香りがした。


母ちゃんの体調はすっかり良くなってきた。ということを姉ちゃんから聞いた。

高木が病室にお見舞いに来ると母ちゃんは、腹筋をしていた。

入院すると甘い物とクリスタルケイが恋しくなると聞いていた高木は色んなフルーツ入りゼリーをお土産で買ってきた。

「ありがとう。」

早速、母ちゃんはゼリーをほうばる。
すると母ちゃんは喉に詰まらせた。

母ちゃんが咳込む。



咳込み時間が長い。


まあ大丈夫だろう。


ん?


一応、ナースコールのボタンを押す。


ランプが赤く光るが、ナースに聞こえているかすらわからない。







待っていても来ない。


なかなか注文を取りに来ない店員にイライラした。

同部屋のサヨさんは眼鏡を下げ、口をポカーンと開けて、こっちを見ている。


口を開けて待ってても、食べ物は運ばれて来ないよ。おばあちゃん。




気付いたら扉を開けて走っていた。




コーナーでは観客を煽るように右腕を振り回した。


「廊下は走らないで下さい!」

ナースが声をかけてくる。



ナースの制止を振り切ると両手で中指を立てて、FUCK YOUのポーズをとった。

今考えれば彼女に頼んでも良かったのだが、その時の彼女は社会人ボディービルの選手にしか見えなかった。



先生のところまでたどりついた。
急いで先生に部屋まで来てもらい見てもらう。


「なんてことはない。ジェリーを喉につまらせただけですね。」

じじい、ジェリーじゃねえぞ、それ。

ジェリーという言葉と、ゼリー自体が喉に突っ掛かったが何も言わないことにした。

「ジェリーなどは詰まりやすいのでまだ早いかもしれないですね。まあ、気をつけて下さい。」

手を後ろに組み去ろうとするとナースからも一言、言われた。


「高木さん、ナースコールは何回も押さないでも鳴っていますからね。あと先ほども言ったんですが、他の患者さんもいらっしゃるんで廊下は走らないようにして下さいね。」


「まあ一所懸命、必死だったんだからいいじゃないですか。」

じじいとナースはそう言うと部屋を後にしていった。

苛立ちを覚えたが、他の事を考えていて反論する機会を失った。
まあ、いい。母ちゃんが無事で良かった。





しかしこんなに一所懸命に走ったのは久しぶりだった。

小学生の頃、一所懸命に校庭を走っていたことを思い出した。

あの時、戦争を生き抜いた祖父にこう言われた。

「何をやるんでも一所懸命やりなさい。
それは誰かが見てて、みんなはおまえにやさしくしてくれるようになる。
そこで本当のやさしさを知ることができんねや。
ほんで、本当のやさしさを知った人間は心地良いもんやから、人にやさしくすることができる。
そこまでいったら勝ちや。
ええか、カールルイスは歩くこともできんねんぞ。」



カールルイス。



当時の高木を含めた小学生の8割は世界最速のカールルイスになる為になんらかの努力をしていたことを思い出した。




カールと呼ばれたい。



あの時はただひたすらそう願っていた。




カールおじさんになりたいと。

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