無題～UN TITLE～コミュの第十五話　綾小路ひよこ

　あれから俺は、人気こそ、そんなに出たわけではないが、今のお笑いブームに乗っかって、そこそこ仕事がもらえるようになっていた。収録後、楽屋に戻る。楽屋といっても、俺みたいなそこそこの芸人に、個別の楽屋なんて用意されてるわけもなく。
「やまだ兄さん、お疲れです」
　着替えが終わり、タバコに火をつけたタイミングで、後ろから声をかけられた。俺も大部屋の中ではすっかり『ベテラン』といわれる芸歴となってしまっている。
「おう、三上か。…最近どうだ？ピンになって」
　振り返ると、声の主は、『元』レッドモンキーの三上ひろすけだった。心なしか、声に元気がない。三上と仕事が一緒になることは、これが久しぶりだった。レッドモンキーはデビュー当初から人気絶頂だったにも関わらず、それから１年足らずで解散してしまったのだ。そして三上の相方だった真田比呂は、お笑いの世界からすっかり足を洗ってしまったのである。あんなに人気があったのに、簡単にその座を捨ててしまえるものなのだろうか？とずっと不思議に思っていた
「…ええ、それなんですけど…」
　そう切り出した三上の顔はますます曇っていった。
「…このあと予定ないなら、飲みにでも行くか？」
　誘ったのは、相方をなくした三上をなぐさめる意味もあったが、俺は興味があったのだ。
　　―――――人気絶頂期コンビに何があったのか―――――

「にいさぁん！全然飲んでないじゃないですかぁ?!」
「…お前こそ、飲みすぎなんじゃないのか？」
　コイツ、こんなに酒癖悪かったのか…。以前真田と三人で飲みに行ったときは、もっと理性を保っていたはずだが。
「飲まなきゃやってらんないですよ！！…俺はぁ…アイツがいたから漫才に転向してもイイって思ったんすよ？それが…うぅっ…」
　やべぇ、今度は泣き出しやがった…。…めんどくせぇ…。
「…でもアイツ…俺がピンになったあとの仕事を、どのようにやってけばいいか全て書かれてるノートをくれて…」
　三上はそういうと、脇に置いていたかばんの中から一冊のノートを差し出した。そして、先ほどまでとは打って変わって真剣な顔で、こう告げた。
「…不思議なことに、そのノートの通りの仕事がきて…どこに行ってもすべり知らずなんです。」
　なんだ、いいことじゃないか。そう思いながら、ノートを眺めていると、おかしなことに気付く。内容が妙に具体的過ぎるのだ。
　―――そう、未来に起こることが全てわかっているかのように―――

つづく

コメント(4)

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[1] mixiユーザー 01月17日 16:47

久々の更新ですが、どうしても書きたいところが収まらなくて、いつもより少し文字数増やしてます！
次、どなたかお願いします！！

[2] mixiユーザー 01月19日 20:43

おぉ、また新キャラが（笑）
さて、この話、どう転がるんですかね？！

[4] mixiユーザー 01月19日 23:41

りばぶさま＞
実は新キャラはいないのですよ☆
語りは第７話に出てきた
レッドモンキーの先輩芸人
『やまだ大爆笑』氏で、
三上は比呂の元相方
『三上弘助』です。
第７話↓
http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=26038469&comm_id=2886616
ちなみに三上は第９・10話にも出ています。

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