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「駄文倶楽部。胡蝶庵。」コミュのセラニン

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 セラニンは目を覚ました。時計を見ると、まだ午前の1時だった。外は新緑のような真っ青なミドリ色で、セラニンはしばらく窓からそとを眺めていた。ビル群季節風でゆらゆらと揺れている。同じリズムで揺れるビル。全く違うリズムで揺れるビル。あのビルとあのビルはきっと兄妹で、あのビルとあのビルは従姉同士だな、と考えているうちに、セラニンの目に入る全てのビルの家系図が完成した。
「ユーレカ!!」
 セラニンは叫んだ。同じマンションに住む人全員に知らせてあげたくて、ベッドの上で跳ね回ろうと思ったけれど、そう言えばセラニンはベッドに横たわったままだったので、とりあえずあのビル達の末っ子の真似をしたしばらくゆらゆらくねくねと揺れてみた。この部屋に風はふいていないけれど、きっと今ならあのビル達の家族になれる、なぜなら謎を解いたのだから、セラニンはひどく興奮してきて、そのうち腰の動きがねっとりとしてきて、妙に興奮していたセラニンはそのまま二三回オナニーをした。手が臭くなった。それだけだった。性感はなかった。

 夜中の1時。ミドリの空。こんな夜に家の中にいるのは勿体ない、とセラニンは思ったので、何とか上体を起こそうとセラニンは奮起したけれど、さっきのオナニーでひどく消耗してしまったセラニンは体を起こすことができず、仕方が無いから汚れて異臭を放つ手で携帯電話を掴んだ。そして、アドレス帳を一通り眺めた。
 そこには誰一人登録されていなかったから、電話をかけることはできなかった。セラニンは他人の番号を記憶することができなかったから、とりあえず三桁の番号にかけることにした。しかし110番と119番はやめておいた。昔酷い目にあったのだ。かけつけた警察官と救急隊員にまとめて三時間ほどレイプされたのだ。いや、レイプしたのは自分だったか。どちらにしろ、それは遠い遠い過去の記憶だった。
 セラニンは177番にかけてみた。天気予報を聞こうとしたのだけれど、セラニンは177の前に市外局番をつけないと何も聞こえないということを知らなかった。
「おかけになった番号は、現在使われておりません」
 セラニンは少しパニックになったけれど、けれどその言葉を機械的に繰り返す女の声に発情して、受話器に接吻した。汚れた手で触れた携帯電話は、凄まじい悲鳴をあげた。あまりにも大きな悲鳴だったので、セラニンは腹がたって携帯電話を壁に投げつけた。
 ぐしゃっとかべしゃっとかおとを立てて携帯電話は壁に潰れて、たたきつぶされた虫の後みたいになって死んだ。携帯電話は最期に何かしらのことをぶつくさと呟いたけれど、セラニンはその遺言を無視した。

 セラニンは起きなければ、といよいよ真剣に考え始めた。こういう時はどうすればいい? 簡単だ。
 セラニンはできるだけ狂った調子で叫び声を上げ、寝返りをうって右手で壁を殴り始めた。セラニンの声はチェーンソーで野良猫を切断するときのように耳障りな声で、壁を殴る強さはすさまじく、セラニンは拳の骨が折れるのではないかと思いながら、これくらいやらないと意味がないと認識して鼻血を流してよだれをたらしながら懸命に殴りつづけた。
 五分くらいやって、ようやく反応が起きた。隣の部屋の住人が壁越しに叫んできたのだ。
「うるせーぞ! てめぇ、何回やったら気がすむんだよ! ぶっ殺すぞ!」
 セラニンは狂喜した。そして今度は涙を流しながら、さらに強い力で殴りつづけた。昔貼っていたポスター(何のポスターだったかは覚えていない)のなごりの画鋲で拳が切れ、その血を見てさらに興奮したセラニンはさらにさらにさらに殴り続けた。
 五分後、ついにインターホンが鳴り、鍵をかけたことのないセラニンの部屋のドアが開け放たれた。男は屈強な体躯で、乱れた髪で汗をかいていて、これは隣の部屋できっとセックスの最中だったな、とセラニンは認識した。男はいらだちとか怒りとか勃起したまま行き場を失った性欲と精液とかそういうのを全て込めた瞳でセラニンをにらんだ。
 セラニンは男の来訪に感涙して、さあさあ、起こしてくれ、と迫った。
 男はセラニンを起こしたりせず、よだれと鼻血と血と、臭い液体と潰れた携帯電話を見てため息をつき、すぐに出て行った。セラニンは失望から叫んだ。
「なああぁぁぁぁんでだよおぉぉぉ」
 それは、セラニンが久しぶりに他人に対して口にした言葉だったけれど、誰も意に介さなかった。隣の部屋では男と女の話し声が聞こえ、ややあってドアの開く音がした。きっと近くのホテルに行ったのだろう、とセラニンは理解して、ざまあみろ、と叫んでさらに笑った。
 笑いすぎと、叫びすぎで気管が損傷したのか、ひどく咳き込み、喉からも血が出た。
 これで生理にでもなったら出血人間の見本だ。
 そのうちにセラニンは起きるのを諦めて、携帯電話に手を伸ばす。しかしあるのは潰れた携帯電話の死体だけで、すでに腐敗が進んで蠅がたかり、ウジがわいていた。
 セラニンはそれを見て驚いてびっくりして腰を抜かさずに飛び起きた。起きられた。起きられたのだ! そうだ、起きたかったのだ!
 セラニンは立ち上がった。そしてすぐに冷蔵庫に走った。腹が減っていたのだ。減った分の血液を補充しなければならない。
 冷蔵庫の中には何も入っていなかった。入っていたのはどこかのマネキンのパーツだけだった。その中にハムか何かがあったと思っていたセラニンはがっかりして、ためしに肉付きのいいマネキンの太ももの部分を電子レンジに入れて食べようとしたけれど、十分加熱したマネキンの太ももは見るも無惨に溶けてしまって、さらに異臭がました。
 セラニンはこれ以上臭いのはごめんだと思って、シャワーを浴びた。何十分浴びても血が止まらなかった。右手の臭さだけがとれた。しかしぬるぬるとした粘液は止めどなく溢れてきて、セラニンはためいきをついた。セラニンのため息は大きな白い塊になって、セラニンに語りかけた。
「てめぇ、あの男と一発やりたかったんだろ?」
 セラニンはそのもやもやをよだれを垂らしながらぼんやりと眺めて、答えるのも存在を認めるのも面倒だから放棄して、換気扇のスイッチを入れた。
「辞めろ、駄目だ。お前には俺が必要なんだ。分かるだろ? 今は駄目だ。俺は―」
 セラニンのため息は溜まったバスタブのお湯を一気に流すときの音、ではなく、トイレの排水の音のような音をたてて換気扇に紛れていった。ファンでばらばらのずたずたにされたようで、換気扇からも血が滴った。これ以上部屋を真っ赤にしてどうするんだよ、とセラニンは笑った。
 そして、タオルを持ってくるのを忘れていたことをおもいだして、裸のままベッドルームに戻った。ここで寝ては同じ事だ。
 真っ白なタオルを取り出して、それが真っ赤になるまで体を拭いた。血が止まる気配も、局部から流れる粘液が止まる気配もなかった。
 あまりにも面倒だったので、セラニンはナイフを取り出して、局部を丸ごと切り取って、冷蔵庫で冷やしておいたマネキンのそれとまるごと取り替えた。マネキンはセラニンより少し腰回りが細かったから、これからは買うパンティのサイズを変えなければならない。
 どうせだから全身とりかえようとも思ったけれど、太ももは電子レンジで溶けてしまったからやはり不可能だとさとった。電子レンジから声が聞こえた。それはセラニンを批判する声だったから、セラニンは電子レンジをフードプロセッサーにかけて中に入ったマネキンの太ももと官能的に混ぜ合わせて濃厚なセックスをさせてやった。電子レンジが男だったらセックス。女だったら? レズビアンのセックス。
 粘液は止まった。交換したばかりの局部はひどくしっくり馴染んだけれど、尿道がなかった。子宮と膣は別に要らなかった。生理なんて来て欲しくない。尿道が無いのは困ると思ったセラニンは、アイスピックで局部を突き刺して、とりあえず膀胱とつないだ。これで完璧だ。
 血が止まらない。そんな夜もある。

 セラニンは、笑った。笑いながら窓の外のビルと同じように揺れてみた。
 しかし、窓の外のビルはもう揺れてはいなかった。それを見たセラニンは狂った様に狂った様に目を見開いた。見開きすぎて瞼の両脇が切れ、また血が出た。そのうちに片方の目が落っこちて、驚いて踏んづけて潰してしまった。マネキンの目は使えない。いや、ビルが動いていない。何で? 風が止んだからだと気づくまでに、しばらくかかった。気づいた頃には眼球は腐っていた。
 依然付き合っていた男(解体して頭部のみ冷凍庫にいれておいた)の眼球ととりかえた。冷たい眼球だったから、神経が繋がるまで五分くらいかかった。

 血が止まった。体の嫌な部分もだいぶ減った。

 部屋の中はどんどん赤くなる。大丈夫。そのうち黒くなる。そしたら剥がそう。ぺりぺり剥がれる筈だ。乾いたクレヨンみたいに。乾いたクレヨン?

 セラニンは真っ赤な下着を履いて(新しい局部には少し大きくて、毛がはみ出るかと思ったけれど、マネキンのそれに毛が生えるまでにはまだ時間がかかる)赤い下着をつけた。そして白と赤の混ざったシャツと、ホットパンツを履いて、セラニンは部屋を出た。
 鍵は掛けなかった。ドアを閉めすらしなかった。セラニンの部屋のドアには「猛人注意」とセラニンの血で書いてあるので、だれもこの部屋に近寄りたがらない。

 セラニンは、ミドリ色の空が嬉しくて嬉しくて、財布の中に一万円札が三枚入っていることを確認すると、カタツムリとカモノハシとカイツブリが三匹でセックスして同時にオルガスムスに達した瞬間のような叫び声を上げて、走り出した。

 セラニンの真っ赤なピンヒールは、一歩ごとに歯医者のドリルが虫歯を削るような音をたてて、セラニンはそのリズムに合わせて適当に踊りながら夜の街を歩いた。

 全てがミドリ色の街で、セラニンだけが真っ赤だった。

 50メートル歩いたところで、セラニンはかなりの量の喀血をした。しかしそれがおかしくておかしくて、ごぼごぼと笑いながら、赤い泡を吹きながら、セラニンは踊り続けた。

 そして仏具屋にいって、携帯電話のための位牌を買うのだ。
 道行く人は少なくなかったけれど、セラニンはいつも通りの真ん中を広々歩くことができた。警察は怖くなかった。あいつらはセラニンをレイプした犯罪者だ。

 セラニンに怖い者は何もない。あるとしたら、フードプロセッサーの中の電子レンジとマネキンの太ももの間に子どもができることくらいだった。

 街はミドリ。セラニンは赤。それはポロックの絵みたいな色遣いだった。

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