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「駄文倶楽部。胡蝶庵。」コミュのアヴァンギャルド

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 アヴァンギャルドなノイズを聞いて、キメまくったあの子が飲むのはストレートのズブロッカ。
 最新のマルタン・マルジェラの8番のコレクションで全身覆ってさ、ポリリズムなんて半端なものじゃない、メタリズムで踊り狂ってんの。
 
 腹の底に何発もハードなボディーブロー食らうみたいな大音量で辟易しているヒロシ君。君にはこの素晴らしい世界はあまりに下卑て粗野で洗練されていないものに見えるかしらね。トモはにんまりと笑う。
 今日の服は露出度高め。ズタズタとぼろぼろの中間くらいかな。
 それよりも笑っちゃうのがヒロシの服。珍しくラルフローレン以外だと思ったらラコステですって。アーガイルのシャツとよくプレスされたチノ。
 あたしの仲間達がヒロシを見て笑ってる。あんなやつとあたしが何で一緒にいるのか分からないんでしょうね。あはは。

 ミュージシャンはコードまみれのパソコンでワケのわからない和音を作って、自己陶酔しまくって、ガチガチに勃起させたそれでも小さなペニスを取り出して、絶叫しながらさらにものすごい音を作ってる。
 それはビール缶のふたを開ける音をマイクで拾って、スピーカーから出るその音をまたマイクで拾ってハウリングさせてっていうのを何十万回も何兆回もパソコンでシミュレートさせて、それをマーシャルの馬鹿でっかいスピーカーから出してるの。
 あたしはそれにあわせて踊る。
 あたしの踊りはすごくウマい。だからみんながあたしを見る。

 それは重力の否定。それはリズムの否定。それは回転。

 あたしは自分の両足でクラブの床に立ってることを完璧に忘れて、宇宙空間で自分自身を保つ唯一の手段としての回転を続ける。
 回転に支点なんていらない。あたしはただ、全体の空間に対して回ってる。
 あたしの背骨は生物の資料集で昔見たサナダムシみたいにねじ曲がってる。だから縦とか横とかそんな野暮な概念を全部忘れて回転できる。

 それはノイズそのもののようなダンスよ。あたしの両手は私自身の回転についてこれないから三時間くらいの時差で回っている。髪の毛は一時間。あたしはきっと光の何パーセントっていうものすごい速度で回っているから、きっと相対性理論に基づいてものすごい質量を持っている。だから私は地球に立ってるんじゃない。私は地球を引き寄せて、足下で止めているんだ。
 あたしは回る。回る回る回る回る回る回る回る回る回る回る。

 クラブのサイケな色彩がどんどん溶けていって、ただの直線に見えてきて、あたしを取り囲む光の輪になる。
 あの輪の中にはヒロシがいて、いつもみたいに、ひどく場違いなのに何故か居心地の良さそうな笑顔で私を見ているんだろう。

 ミュージシャンの凄まじい叫び声。そしてあたしの顔にはそいつの熱い精液がかかる。だけど私にはそんなこと関係ない。
 ミュージシャンはぶっ倒れて、その音をマイクが拾ってまた無限にハウリングしている。全てが音楽。ノイズって、変なものね。

 あたしは回り続けている。あんまり早く回りすぎたから、きっと周りはみんなおじいさんになっているかと思ったけど、私が疲れて止まった後もみんなはみんなだった。
 ヒロシが笑いながらあたしの肩に手を置く。
「トモ、さすがだね。僕には君の脳の中が3%くらいしか分からないから、君がどうやってあんな踊りを覚えたのか検討もつかないよ。」
 あたしは曖昧な返事を返す。さっき少しキメすぎたか。ヒロシの輪郭がぼんやりしている。
 ヒロシはおしぼりであたしの顔をぬぐう。ああ、さっきの男の精液か。
「トモ、君は多分僕の知り得ないすごく深い世界を知っているね。」
「知ってるわよ。ラコステとラルフローレンで生きてるあんたには分からない世界をね。」

 さっき倒れたミュージシャンが、両手で必死にペニスをしごいて、無理矢理勃起させている。周りの男達はそれを見て大笑いし、1人の女が歩み寄ってミュージシャンのペニスにサックをはめた。あたしもそれを見て大笑いする。
 これで今夜一晩は音楽に困らない。

「さあ、ヒロシ、踊ろうよ。あんたもあそこに連れてったげる。」
 ヒロシはスイス製時計みたいに不必要なほど正確なリズムで日本人サラリーマンの中間管理職みたいに無難で無個性なステップを踏み始める。
 あたしはそれを見て大笑いして、ヒロシの唇にキスして、そのままかみついた。ヒロシの唇は子供のみたいに小さくて薄くって、あたしが力を込めると暖かい血が噴き出した。
 ヒロシは驚いて顔を離し、口もとを手でぬぐう。自分の唇から血が出ていると確認したヒロシは顔を一瞬青くする。しかし、すぐに戻る。
 笑っている。ヒロシは笑っている。
 ああ、そうさ。それでいいんだよ。
 ヒロシはリズムを捨てた。ヒロシはステップを捨てた。ヒロシは重力を捨てた。
 
 あたし達は一晩中、ナメクジのセックスみたいにくるくると踊り続けた。

 サックをはめられたミュージシャンが射精するまでには三時間もかかって、その精液には血が混ざってたからあたしもヒロシも大笑いした。

 あたしが昔の男と別れたのは二週間前。何故かヒロシと一緒にいる。

 ヒロシ、こいつは一見ただのぼんぼんだけど、違う。

 きっとこいつはあたし以上に狂った人間だ。あたしはそれを感じる。

 ああ。でもどうだっていい。脳みそを1%でも使うような面倒くさいことはこのノイズの中に溺れて、大昔の冒険映画で硫酸に入れられる村人みたいに跡形もなく溶けてしまえばいい。

 回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転回転。

 ほら、ヒロシ、あたしたち今地球と月みたいよ。

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