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お 嬢 in オイモーコミュの四十一日目

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「これまで数多の勇者が魔王を倒さんと旅に出た。
 しかし帰って来た者は誰もおらぬ。そう、あのオルテガでさえも……」

「私がオルテガ様のお世話をしたんです。
 ひどい火傷をしてお城の外に倒れていて……」

再び訪れた闇の世界アレフガルド
呪いによりこの地に日が昇ることはなく
彼方に小さく見える魔王の居城とを隔てる酸の海は人の身ではどうすることもできない

「オルテガ…?どっかで聞いたことありますね姐さま」
「ここは本当に真っ暗なんですね!目が見えなくてもわかりますよ!」

成り行きの道連れ達が好き勝手に喋っているけれど
正直なところ、私はそれどころではなかった

全身の産毛が逆立つ
私は懸命に、感情を表に出さないよう努めていた

何年も昔に
魔王との対峙すら叶わずギアガの火口で死んだと
世界の唯一の希望が失われたと
闇を払う術を永遠に失ったと
それこそ嫌になるほど聞かされた英雄の物語が再び
唐突に紐解かれた


父が、生きている


私の記憶は曖昧で、そして人々の適当な話でばらばらに肉付けされ
父の面影はどこにもない
噂話や伝説好きな民のもはや玩具とも言うべき父オルテガ
その勇者が、未だ無様に、おめおめと、生き長らえている?

何年も費やして、
ただ王の命を果たすために?
ただ世界を平和にするために?

私が感じた眩暈は、肉親の情からではないと思う
人の節度はきっと、自分に何が出来て何が出来ないかを知ることで…
けれど、そんなこと思って憤る私こそが、どこまでも混乱している
私は、私の身の程などを計ったことなど一度もなかった

でも、
私はどうしても分からないのだ
何故全てを放り出さないのか
何故あの壊れた母のもとへ帰らないのか
そしてどうして、私は父の顔を覚えていないのか

「魔王は絶望をすすり憎しみを喰らい、哀しみの涙で喉を潤すと言います」
「…誰が言ったのよ」

常闇のラダトームの街を行く
眼前の脅威に晒されて、人々の言葉は余りにも現実離れしすぎていて

「この国は精霊ルビス様が創ったと聞きます。
 しかしそのルビス様さえ魔王の呪いによって封じ込められたそうです」

どうしよう、創造神まで出てきた
私は置いてきた僧侶二人のことを思う
神様の話だったら、ここに来ればいくらでも聞けるわよ

ゾーマはそれすらも封印できると言うし
これはどんな御伽噺だろう?
それこそ、人が抗える範疇にはないように思えた

この状況は何だろう?
まるで、出来の悪い物語だ
勇者オルテガは、その語り手にでもなりたいのか
それは、何を投げ打っても価値のあるものなのだろうか

私なら…、考えようとして首を振った
そもそも前提が成り立たない
「投げ打たねばならない」何ものも、恐らく私にはないのだから



「姐さま…?」

賢者の少女が振り返ってこちらを見ていた
私は雑踏の中、いつの間にか足を止めていた
「どうしました?魂抜けてますよ」

私はまだ考えていた
もし歩む道がただ父の背を見ているだけだとしたら

どこまでも父は先を歩き続け、
この私が脅威に感じた大魔王の存在すらもいつしか消すのだろうか

…有り得なかった
バラモスすらも倒せなかった父だ
彼が目指す結末は余りにも遠すぎて、それこそ夢物語の次元
生き延びたことは、ただ悪運としか言いようがなくて

どうして敵わないことを悟れないのか
帰るところは今でもあって、
きっと温かく、包んでくれるだろうというのに
もどかしかった

私は
父を捕まえなければならない
「どうしてこんなところで無駄なことをしているの?」
言ってやらねばならない

そう思った



「勇者、様…?」

盲目の彼が上目遣いで私を見ていた
何も見えないはずなのに
彼に侮られる筋合いはどこにもない

「名前で呼びなさいと言ったでしょう!」
「ひゃ、ご、ごめんなさっ」

思わず大声を出してしまった
どうにも、私らしくない
それくらいこの世界はおかしいのだ
きっとそうだ

「姐さま、もしかして、お疲れですか…?」
賢者の少女が私の額に手を当てる
逆らえなかった
「少し休みましょう。魔王もどうやらのんびり屋さんみたいですし」

どうして彼女は、彼は、私に連いて来るのだろう?
盲目の忠誠心というものを、私はどうしても信じられない
いくら邪険にしたところで彼女たちはきっと
「またまたー」とか言って取り合わないに決まってる
それを私が心地良いと感じてしまうことは勝ち負けで言うのなら
敗北なのだろうか?
私は何に負けているのだろう

賢者の少女、盲目の青年、二人を抱き寄せて交互に目を見た
突然のこの行動にも二人は嫌がらない

結局私はラダトームで無駄に一日を過ごし
と言っても、時間の感覚はここではとても曖昧だけれど
ただ私につき従う二人の温もりを味わうことで終わらない夜を越えることにした



「昨夜はお楽しみでしたね」
にやにや笑いで言う宿屋の主人を私は一突きで失神させた
私は珍しく怒っていたから、これはそんなに咎められる行為ではないと思った

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