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お 嬢 in オイモーコミュの三十八日目

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「お頭!突っ込んで来ます!」
海賊達の悲鳴のような叫び声
それに女首領の号令が重なる
「突っ込めえ!」

海賊船は怯むことなく真正面から突き進む
私も少しがんばろうと思った

射程ならエジンベア軍船
疾さなら私達
武装なら圧倒的にあっち
そうしたら、私達のとるべき道はたった一つだった

私の船は遅れて現れた2隻目の軍船に狙いを絞る
「一応、断っておくけど」
何を気を使っているのだろう?

「あれは魔物じゃない」
「はい?」
賢者の少女がぽかんと口を開けている
「もう」
馬鹿な子達だった
私は続ける言葉を失って黙る
「…行きましょう」

「乗りかかった船ですよ!」
「勇者様を信じるのみですよ!」
僧侶二人は勇ましく叫んだ
いつの間にか、二人は私にとって頼もしい存在になっていた
敵船に飛び移る私達

「ひゃああ」
中年の僧侶が海に落ちた
使えない子だと思った



「おしまい」
私は男の剣をばらばらに断ち切る
すんでのところで、首を刎ねるのはやめにした
彼は殺されなければならないことをしていない
「手を挙げなさい」

「早っ!?」
ただただラリホーを連発していた賢者の少女が目を丸くしていた
「勝ち戦なんてそんなものよ」

海賊船と剣を交えた時と同じく
私はただ首領一人を狙って、勝った
これが一番てっとり早い

首に剣を突きつけられた司令官の姿を見て
エジンベア兵は戦いをやめる
ほとんどの兵士は眠っているか、僧侶のマヌーサでわけがわからなくなっていたけれど

軍船は結局2隻だけで
こちらの方が旗艦だったようだ
私は当たりを引いた



「帝国は新大陸を諦めない。まして、海賊に屈服するなど有り得ぬ」
司令官はとても潔くて
「そう」
けれど愚かだったから
私は彼のことを気に入った

「戦いも終わったし、貴方達は解放しようと思うんだけど」
海の向こうでは海賊船がもう一隻の軍船を沈めてしまっていた
ちょっとやりすぎだとは思うけれど、彼女達には海賊としてのやり方があるのだろう
あちらはあちらでそっとしておくことにする

「ねえ、どこに行きたい?帰る?それとも、一緒にあの街に行く?」
「海賊どもと取引などはせぬ」
「私は海賊じゃないわ」
司令は頑なに私の言葉を拒否し続ける
どうにも会話がかみ合ってない気もするけど

「このお方をどなたと心得る!」
僧侶が興奮して私を指差していた
変な言い回し
私がどうとかはこの際どうでもよかった



ようやく私達は、新大陸の新しい街に寄港する
港には人々が集まっていた

すべてはただの偶然だったのだけれど
私はあらかじめ多くのカードを持っていた
結果として、これは始めから勝ち戦だったのだ

通商を遮断したことで起こった街の混乱と
住人をより一層締め付けた民兵達の圧政
その張本人の私達はと言えば
新大陸の権益を狙ったエジンベアの将校とともに姿を現したわけで

不安そうな表情の住人達
その中には見知った姿もある
彼らはどちらを選ぶのだろう?



商人が投獄され生きていることは、あらかじめ知っていた
私は彼に会いに行く
「災難だったわね」
彼はすっかり傷心しきった顔で
「私は皆のためと思ってやってきたのですが、この有様ですよ」
肩を落としてそう漏らした

「もう充分夢を見ました。今はこうして勇者様の旅の無事を祈って暮らすことにします」
私は苦笑した
まるで牙を抜かれた獣のよう



住人達が、正確には民兵達が選んだのはエジンベア軍船の司令官だった

私は好きにさせることにした
整列させたかつての「最初の住人」元奴隷達は半数を切り
ある者は逃げ、ある者はすでに亡く
少しだけ残念だけれど、私の街づくりは当の昔に頓挫していたというわけだ
やっぱり、一人の力には限界がある
あとはなりゆきに任せようと思った
私が欲しかったのはただ一つ
私の港、それだけなのだから

エジンベア軍船の司令は民兵達をまとめ上げ、混乱の平定に努めた
私はいくつか口を挟み
かつての商人の屋敷の上にはエジンベア旗が掲げられる

新大陸に築かれつつあるフロンティア
必ずどこかの介入があるとは思っていたけれど
ポルトガやロマリアでなくてエジンベアだったのは私にとっては面白いことだった

「もうしばらくしたら、ここは立派な国になるわね」
耳打ちした私の言葉に司令は戸惑い、何度も誘惑と戦っているように見えた



「貴方はここの総督になるわ。所属はエジンベアだけど」
私は牢の中の商人に伝えた
「うまくやってね」

こういう結末になるとは予想もしていなかったけれど
海賊達は戦利品とエジンベア軍船の旗艦を得てほくほく顔でアジトに帰り
私は私の下僕と港を取り戻した

新大陸で開拓された街はこれから西へ西へとその規模を広げるのだろう
国籍こそエジンベアだけれど
これからどうなるのか
この街とエジンベアを隔てる海はあまりにも広大すぎる



ふと、あることを思い出した私は粗末な家のドアをノックした
「どうぞー」
聞き慣れた声
元奴隷の、盲目の彼は、当たり前のようにそこにいた
複雑な思いにかられた
それは失望なのか、喜びなのか

「ここを離れるように言ったつもりだったけど」
私は彼に問う
「ああ、それはできません。あの時の宝石もこれこの通り!」
彼が嬉しそうに戸棚を開けた
現れた革袋にはものすごく見覚えがある

託した全財産はそのままだった
私は聞こえよがしにため息をつく

「貴方、ひょっとしなくても馬鹿でしょ」

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