お　嬢　in ｵｲﾓｰコミュの三十七日目

結局私の選んだ方法は
当初の予定からすれば遥かに穏便で退屈なものとなった

「それはひどいですよ！」
「それはひどいですよ！」
僧侶二人の抗議がうるさかったから
二つ返事でついてきたくせに



海賊の女首領は私の申し出を快く受け入れてくれて
「だって、あんたがそうしたいんだろう？嬉しいねえ。アタシもちょっとは頼られてたんだね」

「けれど、これであんたは何が欲しいの？」
問われて、私はただ
「街」
と答えた

彼女はラムを豪快にあおりながら本当に楽しそうに笑う
「勇者様は、戦争でもおっ始めようってのかい」
「大体合ってるわ」
私は少しだけ考えて、肯定した
もし私の予想が、
ううん、期待が間違っていなければそこは戦場になるかも知れないのだ
どれだけの血が流れるのだろう

もしかしたら、皆は私のことを誤解していると思うから
私はほんの少しも、善良な人間ではない



「ザラキ！」
「ザラキ！」
出会った魔物にも怯まず、即座に死の呪文を繰り出す彼らのことを私は見直した
生き残る手段にだけ長けていると思っていたけれど
それなりに僧侶二人は頼もしい

「姐さま！見てください！賢者になって生まれ変わった新しいあたし！」
賢者の少女は自信満々でギラを唱える
パチパチと火花が散り、魔物の外殻から香ばしい臭いがした

「貴女は普通に戦いなさい」
「ええー！？」
悲しそうな顔をしながらも少女はチェーンクロスに持ち替え、魔物の群れに踊りかかっていった
洋上の旅はのんびりとしていて、楽しかった



私はただ人殺しが上手いと言うだけの人間で
有名な勇者の娘として生まれただけの人間、それだけで
欲しいものさえもはっきりしない欠陥品だと思う

あれだけ欲しかった私の船を手に入れた後も、ただ先へ先へ進み続けるのは
「魔王」などという分かりやすい脅威が私の道を塞いでいたから
そして、それは今もなお私の前にあるけれど
私にはまず、したいことがあった
私の港
有能な下僕

急いでいた
そのための手段は問わないつもりだった

けれど
「貴方達が気に入らないならやめるわ」
私はごく自然に、僧侶二人にそう言っていたのだ



そうして、
新大陸の東海岸
件の街の外洋に私達の２隻の船は投錨した
一言で言えば、ただそれだけの、単純なもの

私の船はそうでもないけれど
砲身を街と水平線に向け続ける海賊船の凶悪な外観は、とても役に立つ

「どれくらいこうしていればいいんだい」
停泊して３日ほど
さすがにせっかちな海賊は焦れてきているようだった
「先は長いわ。のんびり行きましょう」
私は舳先でただ水平線を見つめる


幾度か現れた商船に対し、私達は威嚇砲撃を加え追い散らす
ポルトガやロマリア、エジンベア船籍には海賊達が先を争うように襲い掛かった
「ほどほどにね」
私は一応、そう言ってはおいたけれど

舵を壊されるだけならまだ可愛いもので、
その大半は沈められたり、彼女達によって完全に制圧されていった

「ちょっと楽しくなってきたよ」
戦利品で潤い始めた盗賊の女首領がにっこりと笑った


私のしたことは、ただ待つこと
私が選んだのだから誰にも文句は言えないけれど
この穏やかすぎる日々の大半を私は船長室で寝て過ごした

今までからすれば考えられないほどに、私は待ち続け
しばらく経つと、
商船どころか国旗を掲げた船も寄り付かなくなった
街から逃げ出す船の姿も何度か見た
去るものは追わない

毎日はよりいっそう暇になる
次に来るのは何だろう？　
臨機応変と言えば聞こえは良いかも知れないけれど、
ただの思い付きをやってしまった私は、そこから反応を見て、今後を考えている
ばかばかしいことだけれど、実際、状況は悪くなかった


「悪くはないけれど、何のためか、やっぱりアタシにはわかんないよ」

ある日
私が見つめる水平線から、鐘楼の先端が顔をのぞかせた
大きい

どこのものだろう、
目を凝らすがまだよくわからない

「エジンベア海軍だ！」
海賊船の見張りが叫んだ
こんなわずかな間に
私は軍船を釣り上げてしまったようだ

「戦闘準備！」
女首領が勇ましく叫んだ

「大国にケンカを売っちゃったみたいですよ勇者様！？」
「どうしてこれが、解決方法なのかわかんないですよ！」
僧侶二人は今までで一番、うろたえていた

反対の方向を見る
あの街と、私の港は静かなものだ

私は海賊の女首領の問いに答える
「え！？何か言ったかい！？」
それはどうやら届かなかったようだ



「あの子の時代の方がずっとましだった、そう思ってもらう」