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お 嬢 in オイモーコミュの三十九日目

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私達は営業を再開した大きな酒場で食事をしていた
テーブルにはおよそマナーという言葉から開放された行儀の悪い咀嚼音が響く
海を数時間漂っていた中年の僧侶などは、失った何かを取り戻すかのように
太ったお腹にがつがつと食事をつめこんでいた

「でも。なんだかよくわかりませんね。あたし、頭悪いから」

仮にも賢者を名乗っている少女はあっけらかんと私に言う
この街での出来事があまりに早かったから?
僧侶二人もたまに首をひねってはいたけれど
美味しいものでお腹がいっぱいになればそれなりに達成感も沸くだろう
単純だから
もちろん、私も単純だけれど


「だから」
私は説明しようとしてやめた
棚ぼたっぽい話を手柄のようにするのは少し恥ずかしかった

商人は新大陸に立派な街を築き
それに目をつけたエジンベアが他国に先んじて体制をひっくり返し
私が船舶の行き来を邪魔して
餌に寄るエジンベアの軍人を釣り上げた

何を置いてもまず、街の混乱を治めなければならないのは当然のことだったから
私は、というよりもエジンベア軍船の司令は早急に行動を起こし
街の再建に必要な人材は民衆からも広く求めた
(私が作った混乱だけれど)

もし、革命を起こしたのがエジンベアの手によるものではなく純粋に民衆の蜂起だったら
話はもっともっと簡単だったのだけれど
民兵の圧政下におかれた人々は簡単な二択で私を選んだだろうから

そんなわけで、状況がこれ以上悪くなることはありえない話だった

商人は今は肩書きだけだけれど総督の任に就き
きっとうまくやると思う
ゼロからプラスを作るよりも
マイナスをゼロに戻す方が実はずっと分かりやすいから 
街の住人もそのうち彼を認めるだろう



その少し前
町外れの貧民街のようなところで
私達の意味のない問答は続いていた


「それは貴方のものでしょ?あげたんだから」
「そういうわけにはいきません」

盲目の彼は避けようとする私の手に、何度も革袋を押し付ける
器用だとは思うけれど、能力を生かすところが絶望的に間違っている

彼の家は以前にも増して質素で
生活に困っていることは明らかだというのに

「大体、貴方の言ってた国のくびきのない街、そんなものはもうないのよ」
「何も変わりません。街を大きくするのは僕達ですよ!」
私は一瞬言葉を飲み込んで、すぐに首を振った
基準を超えた愚者を賢いと錯覚してしまうことは、よくある話だから

「いいからそれをしまいなさい。私は受け取らない」
「でもこれは僕のものじゃないですよ」
「じゃあ、誰のものだって言うのよ」
彼は当然のように私の名前を呼んだ

心臓が跳ねた気がした
この感情はなんだろう
よくわからないけれど、多分、私は怒っていた

「馬鹿にしないで。私が、一度渡したものをあてにしてるなんて侮るなら」

気がつくと彼の細い首を両手で絞めていた
盲目の青年の爪先が地面を求めてもがいている

「ごめんなさい」
ついに彼は小さく声を絞り出す
我に返った私は、自分のした行動に驚きながら、手を離した
彼はどさりと音を立ててベッドに落ちた
空気を求めて喘いでいる

ああ、
つまり私は、まったくの気まぐれで、本当に無駄な時間を過ごしてしまったのだ
実際、彼の期待通り、街はこれからさらに大きくなるだろうし、
うまくやれさえすれば死ぬことはないだろう
どうでもよかった

「好きにするといいわ」
この街に留まるのも、お金に手をつけないのも、どこで生き、どこで死ぬのも
私には関係がないことだから、…そう続けようとして、彼の言葉が重なった

「じゃあ、二人のものに」

「何?」
反射的に聞き返す私
「ごめんなさい、侮るなんて、そんなつもりはありませんでした」
「そうじゃなくて」
私は苛立って、先を促す

「いや、だからその、二人の…共有?」
聞かれても困る
「それで貴方が納得するならそれでいいわ。じゃあね」
私はうんざりして扉に手をかけた

「いやいやいや!」
彼が取りすがる
ついさっき私に殺されかけたばかりだと言うのに
本当にこの子は馬鹿なんだと思う
私はしぶしぶ振り返った

「何?」
「納得とかじゃなくって!言葉通りで!間をとって、二人の」

「つまりどういうこと?貴方のものにするのも嫌。共有って言葉もだめ。
 じゃあ、それを持って、街の夢も置いて、私と一緒に来るとでも言うの?」

ずっと頭の後ろが痺れるような感覚があった
私は改めて、彼の首を思い切り絞めたいと思っていることに気付く
これはなんだろう?わけがわからない
それに、どうしてラダトームで会ったカンダタのことを思い出しているのだろう?

「そうか」
殺せるものと殺せないもの
そしてその境界
下らない言葉を使うのなら、愛しいと思うこと

「これが、殺意なのね」

「はい!?」
盲目の青年は飛び跳ねて、心底怯えた顔をした
あ、そうじゃなくて
殺すとか殺せないとかそういうものの境界にあることは
もしかしたら特別というものなのかも知れないと
けれど
説明するのも恥ずかしかったので私は黙った

だから彼はそのままずっと怯えている



私は窓から落ち着いた街並みを見ていた
「終わりよければ全てよしって言うものね」

その向こうには私の港がある
エジンベアの名で保障されたものだけれど
私に敗れた司令は、私の意図を量りかねた様子で、そのまま
それなりに私に敬意を払っている様子だ
どう誤解しているかは分からないけど、それは解かない方が都合がよさそう

「姐さま、なんだかご機嫌ですね」
賢者の少女がそんなことを言ったけれど
「たまにはね」
私は素直に認めた
なぜだろう、私はとても気分がよかった

「それで、さっきの分からないことなんですけど」
まだそんなことを言ってる
私は説明する気はないのに

「どうして一人増えてるんですか?」

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