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お 嬢 in オイモーコミュの三十六日目

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「久しぶりね」
その時私はなぜだろう、笑っていたのだ

かつての大盗賊は鉄格子の中、痩せ衰え見る影もない
けれど、あの時の湧き上がるような殺意は簡単に思い出せた
用済みの人間として、口を封じるべき人間として、行く手の雑草をただ踏むのと同じく
私は彼を殺すつもりだったのだ

「窮屈そうね。貴方ほどの人が」

私はカンダタに目配せをすると、最後の鍵を取り出した
正直なところ、今、彼が生きていることは、何かの間違いとしか言いようがない
彼は縮み上がって牢の奥へ奥へと後ずさった

「と、とんでもないです。オレ…いや、私はその程度のケチなコソ泥だったってことで
 やっぱり、悪いことはできません。もう、すっかり改心しましたよ」

かちり、
闇の世界の牢獄でさえ、私の鍵は容易く開けてしまう

「冗談でしょう?貴方はこの世界でも充分に名を上げられるわ」
私は一歩、さらに一歩と距離を詰めた

「いえいえいえ!ヤキが回ったと言うかですね、と、とても昔のようにはやれないです」
「そうね。その傷、だいぶ深そうだもの」

私がつけた傷だ
私が刺し、斬り、刻み、突いた傷だ
むしろ、何とか手足を動かせている現状にこそ驚く

「でも、無事で嬉しいわ」
「は、はぃ」

かつての大盗賊は今や怯えきって、歯の根も合わない
けれど、命乞いの言葉は決して口にしない
彼は分かっているのだ
それが何の意味も持たないことを
潔くはあるけれど、目に涙を一杯に溜めて、必死に逃げ道を探している
その様はとても、可愛かった

「いいわ」
私は頷いた

カンダタにはもう利用価値はなかった
そして、彼が生きていることで私が不利益を被る可能性は十二分にあった
けれど

「ここから出してあげる」
私は出来る限り優しく、微笑みかけた

「その代わり、もう一度仲良くしましょう?」

まともな神経があれば、受け入れられるはずなどない
私は彼の部下を殺したのだ
無抵抗な者も逃さず、一人残らず、徹底的に

けれど、カンダタは何も言えなかった
ただただ、絶望的な顔で何度も首を縦に振る、それだけしかできなかった
満足した私は、彼に肩を貸し、立たせてやる

「そ、そうだ。ラダトームのお城には太陽の石ってやつがあるらしいですよ」
「そう」
緊張に耐えられなくなったのか、カンダタはわけのわからないことを言った
まるでうわ言のように
どうでもよかった

「精一杯、私の役に立つことね。もし生きていたかったら」


カンダタは不自由な足で、跳ぶように逃げて行く
私は彼に自由をあげた
ちゃんと逃げてくれるだろうか
それとも健気な彼は、ばか正直に私のために働くのだろうか

そうでなければいいと思う
次に会った時、私は嬉々として彼を殺すかもしれない

殺せる人間と殺せない人間について、考えていた矢先
私は、私の気分でその境い目を揺れ動く存在を知る
楽しくなってきた



ルーラという呪文はあまりにも便利すぎて
今後私は、この闇の世界アレフガルドの唯一の人間の王城、ラダトームにさえ
瞬時に戻ることが出来るようだった

てっきりギアガの底にはいきなりゾーマがいるのではないかなんて思っていた私だけれど
どうやらこの旅はもう少し続くらしい
それなら、と私は目の前の王城を見上げながら呪文を詠唱し始めた
軽い浮遊感の後、私はアリアハンに戻る



「ああー!姐さま!また!また一人で行った!」

ルイーダの酒場ですでに泥酔している賢者の少女
どうしてここにいるのだろう

「海賊の村は?追い出された?」
「ちちち違いますよ!」
少女は手をぶんぶん振って否定した
それならいいのだけれど
予定を変えずに済む

「この娘はですね!勇者様の力になりたいと、一人で長旅をしてきたそうですよ!」
「健気じゃないですか泣かせる話じゃないですか」
両脇の男二人を味方につけて、少女は得意そうに胸を張る
「…どこかで見たことのある顔だわ」

「ひどいですよ勇者様!」
「ひどいですよ勇者様!」
二人の僧侶が声をそろえて抗議した
全くの偶然だと思うけれど、こうして私の一行は再び4人に戻る
そして、私のかつての下僕は、もう一人いるのだ



ゾーマは殺す
必ず殺すけれど
その前に私はまず私のしたいことをしようと思っていた
なぜそれすらも思い浮かばなかったのだろう

私はテーブル一杯のグラスを片付けながら、彼らの飲み代をぼんやり計算していた
手持ちではちょっと足りなかったけれど
幸い、ここはルイーダの店だった


3人の盛り上がりは最高潮だ
何だか私だけ置いてけぼりにされたような気さえする
「魔王は死んだのよ」
私はまずそう言った

グラスを掲げ何度目かの乾杯をしようとした3人だったけれど
私がそのまま黙っていたので、互いに顔を見合わせた
ゾーマの話は誰にもしていない

「私が次に殺す相手が人間だったら?と聞いてるの」
僧侶二人が息を飲み、少女は「?」という顔できょとんとしている
「それでも行きたいと思う?」

この子達がいてもいなくても、どちらでもいい
けれど、これから私がしようと思っていることは、それなりに人手がいるのも事実だった
穏便に済ませるためには

けれど、それでこの子達は喜ぶのだろうか

「水臭いですよ姐さま!いつものように命令しちゃってくださいよ!」
どん、とテーブルを叩く賢者の少女
とても悟りを開いたようには見えない
勢いいっぱいの、絵に描いたような酔客だ
そして、それは隣の僧侶二人にも言えることだった

「うん。貴方達にもまるっきり無関係という話でもないかも」
少し考えて、
「だから、よく考えてから、好きにするといいわ」

「…何をするんですか勇者様?」
私は簡潔に続けた

「あの子と、私の港を取り戻す」

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