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お 嬢 in オイモーコミュの十六日目

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「ぎゃああああああ!」
全身をくまなく切り刻まれ、虫の息のかつての大盗賊の姿はとても可愛かった

「はぁあっ…」
私は荒く息を吐きながら剣を振るい続ける
凄い
常人ならもうとっくに死んでいるはずなのに

戦闘は一方的で
カンダタの渾身の一撃すら私には止まって見えた

「ほら、見なさい。可愛い子分は皆死んだわ。残りは貴方だけ」
私は剣でカンダタの顎を持ち上げる

「うあああ…」
カンダタは呻いて、子供がいやいやをするように地面を這いずった
その瞳はすでに正気を失っていた

「そう。地の底で私を見上げてる姿が貴方にはとてもお似合いだわ」



ダーマの宿で私は少し昔の夢を見ていた
とても気持ちのいい記憶だったけれど

私は結局カンダタにとどめを刺さなかった
彼は芋虫のように這いつくばったまま洞窟の奥の闇へと消えた
あの傷では途中で魔物に喰い荒らされたかも知れない
私への恐怖を刻み付けてなお生き続ける絶望をプレゼントしたつもりだった

けれど

私は頭を振る
もしかして、ただ殺せなかったのではないか、と


そして私は商人、老人、盗賊の少女の3人へも想いを巡らす

この子達は本当によくやってくれていると思う
彼らとの旅はここまで、驚くほど上手く回っている

けれど、今の状況が当たり前だとあぐらをかけるほど私は楽天家ではない

私は下僕を失うことはなんでもない
何を感じることもないと思う
だから下僕は何人いてもいい

けれど
仲間は一人も必要としていない
そう
私に、仲間を失った経験はない

だからこそ私は遠ざけたかった
そう遠くない未来に
私は間違いなく、この子達を殺してしまう

隣で盗賊の少女が安らかな寝息を立てていた



ダーマ周辺で私達はしばらく魔物を狩った
絶叫と血と埃にまみれて
戦闘は良かった
瑣末なことを全て忘れさせれくれる

北のガルナの塔では初めて竜と剣を交えた
優雅に空を泳ぐ様には神秘的なものを感じさせられたが
首を刎ねただけで地面に落ち、死んだ

取り立てて有益な宝も得られず
私達はまたダーマへと戻る


「悟りの書、ですか?」

盗賊の少女が猫のような目をして尋ねた
「これ? 誰でも賢者になれる、ありがたみのない本。
 悟りを開くと言えば聞こえはいいけど、そうね。これは魔法の道具ね」
「け、賢者に…」

彼女はその本から視線を反らせない
好奇心は猫を殺す、という言葉を私は思い出していた


翌朝
少女と、悟りの書がそろって姿を消していた

私がわざと、出したままにしておいたのだけれど
ご丁寧に宝石の詰まった袋まで置いておいたが、それには手を付けた様子はない

ただ手に取ってみたかっただけかも知れない
私が目覚める前に返すつもりだったのかも知れない
それでも、私はあえて彼女を探す


案の定、少女はダーマすら出ていなかった
現れた私を前に、この世の終わりのような表情で膝をついた

「ねえ愚かな子。貴女は何が欲しいの?」
私は無表情で問う
「お金?名声?それとも、自由?」

「姐さまごめんなさい許してください!
 あたし昔の悪い癖で、もう絶対にしませんから!お願いしますっ」
足の先まで怯えきった少女はうずくまり、立ち上がることが出来ない
どういうつもりだったか、どんな理由があったのか言いたいことはあるようだけど
そもそも言い訳が私に通じるわけがない、と心の底から信じ込んでいるようだった

私は少女の期待する私を演じる
「どうかしら。貴女の知ってる私は、貴女を許すかな…?」

「ひっ! ごめんなさいごめんなさい!許してください、
 何でもします、何でもしますからどうかっ」
「質問に答えてないわ。ねえ、私は貴女をどうすると思う?」

「あっ、あたしは…」
言葉に詰まる。失禁してもおかしくないほどの恐慌状態。言葉を操れるだけ、この子は強い

「あたしは…姐さまに、殺されます…」



「はずれ」
私は声をあげて笑いたいという欲求を初めて感じていた
彼女には悪いと思うけど

「はずれだけど、そう思ってるなら、そうね。貴女に命をあげる」
少女は涙でぐしゃぐしゃになった顔で私をぼんやり見上げる

「でも、ほかには何もあげない」



私は一人で宿に戻る
すでに商人と老人の旅立ちの準備は整っていた
「予定が変わったわ。今からルイーダの酒場へ」

欠けた少女のことを、二人とも私に聞かなかった

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