Lalapalooza [ˌlɑləpəˈlu:zə]。
ララパルーザ。
太平洋戦争で、米軍が日本兵を識別するために使った合言葉(shibboleth)である。
検問所において、米兵やフィリピン兵に化けて通過しようとする日本のスパイを摘発するのに使ったというのである。
発音がおかしかったら、ただちに発砲せよ、などとされていたらしい。
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従来、これは、日本人が L と R を発音し分けることができなかったから、と説明されている。
だが、音声学的には、そんな単純な話ではないはずだ。
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ララパルーザには様々な異綴がある。
なんとなれば、この語の由来は不明であるからだ。
lallapalooza, lalapalooza, lallapaloosa,
lolapalooza, lolapaloosa, lollapaloosa
1音節目に a と o が現れるのは、発音が [ɑ] だからである。
この母音は強勢を持つ a と o の両方に現れる。
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[ɑ] の著しい特徴は、その調音がきわめて奥寄りであることだ。
英語の l には2通りの発音がある。
クリアL [l] とダークL [ɫ] がある。
――ダークLは、軟口蓋化したLで、系統的に記述する際には [lˠ] と右肩に ˠ を伏す。ただし、ここでは記述を単純にするため、旧来の ɫ を用いる――
ɫ は語末・子音の前、l は母音の前、というふうに、単純化して説明されるが、奥寄りの母音 [ɑ] や [u] の前では、程度の差こそあれ、[ɫ] が発音されている。
すなわち、
[ˌɫɑləpəˈɫu:zə]
[ˌlˠɑləpəˈlˠu:zə]
である。
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いっぽう、「ララパルーザ」 を日本人がどう発音しているか?
[ɺaɺapaɺɯ:za]
日本語のラ行音は、ふつう、[ɾ] とされる。
スペイン語の r 音と同じということになっている。
しかし、英語のネイティヴが、屢々、日本人のラ行音を L に聞き取ることから、純粋な [ɾ] というより、[ɾ] と [l] のキメラのような子音と考えたほうがよい。
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日本人の発音するララパルーザが看破されるのは、
日本人は l を r で発音する
からだ、というのが、一般的な理解だと思うが、これは正しくない。
英語の R というのは、[ɹ] で表される特殊な子音で、日本人には L 以上に難しい。
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ララパルーザの話は、当時の米兵によって、たびたび言及されているらしい。
Oliver Gramling によれば、語頭の2音節が rolled R で rorro であったら、後を聞かずに発砲することになっていたという。
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音声学の専門家でない人物の思い出話というのは厄介である。
rolled R というのは、英語のネイティヴにとって、ベランメエの R [r] やら、スペイン語の R [ɾ] やら、とにかく、英語式の R [ɹ] 以外のすべてを引っくるめて言う。
太平洋戦争当時であっても、ラ行音をベランメエで発音する純江戸ッ子なんてのは稀だったろう。
だとすると、L を学び損ねたスパイがいたとしても、その発音は [ɺ] であり、英語のネイティヴにとっても、[ɾ] なのか、[l] なのか、迷うに違いない音だと思う。
その他の母音などで判別するにしても、フィリピン人は [ɑ] などという母音を、日本人と同様に発音できないので、手がかりとはならないのである。
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このララパルーザ伝説、本当に機能したのであろうか?
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