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2023年11月20日19:31

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Zさんとわたし・3・腕立つアシは盗まれる?

「かっちゃんカズノコ」直前まで一緒したスタッフ、「Xちゃん」としよう。
学校の一回り違い、Zさんとは8歳、私とは4歳差なのだがお家が客商売だからか、世代の壁をまったく感じさせない人当たりの良さ、高校まで「少女モデル」だった(しっかり「日本モデル名鑑」に載っていた)という美少女っぷりで、しかも腕がとてもよかった。

Xちゃんはプロ志望ではなく、高校から同人誌一筋なので人物(群衆シーンなど)には少しアニメっぽさがあるのだが、車・室内、室外、写真のような正確無比さなんである。

「ポルシェなら資料写真無しでも、どっち向きでも描けます。ポルシェの喜怒哀楽もOKです」
と笑っていたが、本当に、「カッコいいポルシャなんだけど怒ってたり・笑ってたり」がなぜかスラスラ描けちゃう不思議なテクニックの持ち主だった。

仕事帰り、途中まで一緒なので電車の手すりに並んでつかまっておしゃべりしていた。
シートでお勤め人らしいお姉さんが、膝の上で漫画雑誌開いたままウトウトしている。
Xちゃんはふと目をやり、私をつついて雑誌を指さした。
「華さん(私の呼び名)あれ…」
「ん?あ、あれ…ん、アレッ…?」
「そう、あれ、先々月私が描いた背景…」

地下鉄車中、ドア、戸袋、手すり、つり革、網棚、シートに客ふたり…
これ今ならパソコンで写真加工すれば模写はごく簡単テクなのだが、手描きだとものすごく手間がかかって難しい。
なにしろ入り組んだ「多層構造」なんである。
全部を縦13センチ横8センチの原稿にバランスよくまとめるのは相当な技量が必要。
で、漫画雑誌の1ページに「Zさんの雑誌掲載したものを少し縮小コピーして自分の原稿に貼り付けて、人物だけ差し替えたもの」が、まんま載ってたんである。

「Xちゃんの、ほぼ丸パクリだね」
「実はけっこう盗まれてますよ、私たちの描いた背景」
「え〜?」

Xちゃんちは客商売で、待たせるお客さんのため店に漫画雑誌各種置く上に、同人作家であちこちのイベントで同人誌買いまくりである。
時々「あれ?これは…」ということがあったらしい。

レデイースコミックは雨後のタケノコ状態、同人誌はアニメや漫画の二次創作BL花盛りになっていった時期で、漫画の描き手はものすごく増えた。
だが、誰もが「人物はとりあえず描ける」がそれ以外、特に「消失点法」を理解しないと難しい「背景」は、マスターするには時間がかかるし、ある程度アタマが良くないと無理だ。
それで「とりあえず・目の前にある・手っ取り早く・パクれるもの」になるらしかった。

「背景の正確さ」といえば当時は「青年漫画の一流どころ」なのだが、グラデーショントーンの多用で全体に重く、レディースコミック・少女漫画・同人二次元創作BLには向かない。
トーン部分のドット(点模様)は当時のコピー機の性能だとどうしても荒れて、「他人の原稿コピーしました」が丸バレだし
Zプロの背景は「軽くて・正確で・ライトな画面にはめ込みやすかった」のだ。

そのころ同人作家・新人作家向けに「版権フリーの背景集」なんかが画材屋やアニメファンの同人画材コーナーで売られ始めてはいた。(今はネットで買えるらしい)
パソコンで作画する人が出てきたので、そのために「背景用『海』『森』『炎』」なんて画材ソフトも少しずつ出回り始めた。

しかし、「版権フリー」=「みんな似たりよったりなタッチ」な上に「かなり高い」。
「完全一点もの」がタダで使えるのなら、雑誌刷りなので少し線に滲みはあっても、縮小コピーしたりトレースすれば、こんな楽チンなことはないのである。

Zプロでは「グリコ」と称して「オリジナル背景」をストックして、コピー機に通せる「透明スクリーントーン用」や「コピー紙印刷」で使い分けていた。
「一粒で二度おいしいアーモンドグリコキャラメル」にひっかけて「一枚で何度もおいしい背景」を「グリコ」のちに「グリさん」と呼ぶあたり、Zさんはホントに粋な・シャレ好きな人だ(笑)

新連載の準備期間には時間をかけて、スタッフがヒロインの住まいや職場を描く。
その他にも「成田国際空港」や「シティホテル」「渋谷センター街入り口」などは、1回使いで直接本番原稿に、ではなく、別紙・B5版に大きめに描いておく。
今度は右にセンターとか、今度は上の階中心とか、夜のシーン、朝のシーン、木立で四季を、バックにほかの建物を書き加えて看板とトーンを変えれば別の建物、と、さらに手を加えてどんどん使い分けるのである。

Zさんは職人気質の凝り性だ。
「バツ!!」の舞台の結婚式場が、のちに「赤信号直進します」で救急隊が駆けつける現場になっていたりして、たくさん読むと「おまけのお楽しみ」が用意されていたりする。(ちゃんと救急車を誘導するスタッフで「亀山さん」が出てくる)

たぶんXちゃんが耳に入れたのだろう、次第に背景大コマは「ストレート・スクウェア構図」から「モノローグの四角ワク」「フキダシ」「次のコマ」などが掛かり、盗みにくいパターンが多くなっていくのだが、それでもZさんの背景は「パクるにオイシイ」のは確かだった。


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