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2023年07月20日06:57

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『お坊ちゃまにも苦労はある』第1話

 「海が好き!2023」https://www.pixiv.net/artworks/109044487の出品作です。
 『聖闘士星矢』の二次創作で聖戦後復活設定。
 面倒事にあうジュリアンと彼を守るカノンとソレントのお話です。
 にっこりと笑ってオレンジを握り潰して相手を脅すソレントを思い付いて書き始めた作品ですwあとは久しぶりにジュリアンのお守り役をしてる大人で格好いいカノンが書きたかった。
 ネタはわりと早目に思いついたんですが、なかなか筆が乗らなくて、大した作品でもないのに初日に間に合いませんでした。すみません(汗)
 ジュリアンがカノンやソレントと関係する話はこちらを参照。『倫敦三重奏』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3351082『鮫人の涙 土中の碧』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390376『ボスポラスの夕べ』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=3390443
 昨年の話はこちら。『最強の戦士だって歯医者は怖い』https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17981311
 はるか様、今年も楽しい企画をありがとうございました!

『お坊ちゃまにも苦労はある』第1話

 女神アテナと海皇ポセイドンの聖戦で地球上で大水害が起こり、その後の冥王ハーデスとの聖戦で異常な日食が世界中で起こり、と、そんな災厄の後始末がそれなりに片付いてきたころ。
 海皇ポセイドンに仕える七名の海将軍の生き残り二人、双子座の黄金聖闘士を兼任している海龍のカノンと海魔女のソレントは、なんやかんやあってポセイドンの憑代であるジュリアン・ソロと個人的に親しい関係になった。そして二人は「正体はいまいち分からないが、ジュリアン様の大切な友人」という扱いでギリシャのソロ邸に時おり顔を出す間柄になっていた。ジュリアン・ソロには海皇ポセイドンとしての記憶は全くないのだが、それでも二人に何か運命的なものを感じたのか、身元がよく分からない上に隠れた事情もありそうなカノンやソレントが自分の周りにいることを、何も言わずに受け入れている。
 その夏の日も、ソロ邸に顔を出していたカノンは、執務机に向かってなにやら仕事をしているジュリアンと同じ部屋にいて、ソファに座って新聞を読んでいた。
「カノン、すみません。お願いがあるのですが…」
 突然にそう言い出したジュリアンが椅子を立ち、カノンの傍らに移動してきた。
「この中から、一枚、選んでください」
 そう言ったジュリアンの両手には五枚の封筒があり、合わせた手の上で扇形に広がっていた。まるでトランプのババ抜きで「一枚引いてくれ」と言われた状況と似ている。
「何だ、突然に?」
「いいから、一枚、どうぞ」
 不審に思いながらもジュリアンに促されたカノンは、扇形になった五枚の封筒のうち、左側から二番目を選んで引いた。カノンの選んだ封筒を手にして、差出人を見たジュリアンが深くため息をつく。
「ああ…。よりによって一番面倒くさいところを…」
 はあ、と重い息を吐くジュリアンにカノンが問う。
「いや。だから、何なんだその手紙類は?」
「親戚とか付き合いのある家からの、パーティーや夕食会の招待状ですよ」
「ああ、それは…」
 と言ったきり、カノンは沈黙した。海商王ソロ家の当主であるジュリアンにとって、社交や親戚付き合いは大切な仕事の一環である。人付き合いが面倒だと感じても、全く無視して没交渉というわけにはいかない。カノンにも海将軍筆頭として「海界の統治者」たる一面があるので、その辺の社交だの外交だの重要性は分かる。だが同時に、「確かに面倒なんだよなぁ…」とジュリアンに共感するのだった。
 そしてさらにジュリアンは
「まあ、パーティーと言っても、いつも実質的には向こうがセッティングしたお見合いみたいなものになるのですけれどね…。ホント、めんどい…」
 と続けて、さらに重いため息を吐いたのだった。
「…大変だな、お前も」
 カノンとしてはそう慰めるしかなかった。ソロ家の財産目当てに親族の女をジュリアンの妻に何とかねじ込もうとしている彼の周囲の大人たちの欲望にぎらついた目が、容易にカノンにも想像がつくのであった。
「全部行くのもスケジュール的に無理ですし、かといって全てお断りしても角が立つので、適当に一件だけ選んでお茶を濁そうと思ったのですが…」
「で、おれに適当に選ばせたと」
「はい」
 こうして事情をカノンに説明したジュリアンだったが
「でも一番面倒くさいところだなぁ…」
 と、差出人の名前を眺めるとしみじみ呟いたのだった。
「どこなんだ?」
「パラノス家といって、ソロ家と同じく海運をやってる一族です。今の当主であるダヴィドおじの死んだ父親が、私の亡き父と親交があったので、その縁で今でも身内のような付き合いがあるのですが…」
 ジュリアンが説明する。
「で、何がどう面倒な相手なんだ?」
「…何と言うか、ダヴィドおじの息子のトマスが、あまりタチの良くない人で、私を何かと自分の悪友仲間に引っ張り込もうとするんですよねぇ…」
 また面倒くさそうにジュリアンはため息をついた。
「おまけにトマスの姉のマリアが、やたらと私に迫ってくるんですよ。十歳も年下の子供に色気を振りまいて誘惑するとか、やってて恥ずかしくないのか?と思うのですけれど…」
 再びのため息をジュリアンが漏らす。確かにそれは面倒くさい、とカノンも思った。パラノス家の姉弟は、どうやら常識のある人間なら付き合いたくないタイプの問題児らしい。
「そんなに面倒くさい相手なら、訪問箇所を他のところに変えたらどうだ?」
 だがカノンの勧めにもジュリアンはため息で答えた。
「まあ、他の相手も彼らとどっこいどっこいと言っていい連中ですし、とりあえずパラノス家の夕食会に行きますよ。でもカノン、あなたもついて来て下さいね」
「おれも?」
 カノンがジュリアンの依頼に問い返す。
「それとソレントも呼びます。私のボディガード代わりに、二人で一緒に来て下さい」
 そしてまたもジュリアンはため息をついた。
「というか、あなたたち二人を連れずに私一人であそこに行くとか、私の心が折れそうで…」
 そして、めんどい、めんどい、とただひたすら繰り返して嫌そうな顔をしているジュリアンに、カノンは承諾するしかなかったのだった。

 パラノス家で夕食会がある当日。ジュリアンに呼ばれたカノンとソレントは、彼に同伴して同じ車に同乗してパラノス邸に向かった。親しい間柄の人間たちでの夕食会ということだが、それでも身なりはタイ必須のスーツ姿である。
 パラノス邸はアテネ郊外にある瀟洒な館だった。背後に山があり、中庭と、館周囲にささやかな庭園が広がっている。大きくはないが上品で洒落ており、建築した先祖の洗練された趣味がうかがえた。
「やあ。よく来てくれたね、ジュリアン」
 パラノス邸に着くと当主のダヴィドがジュリアンを出迎えた。見た目には愛想のよい、上品そうな紳士である。
「お久しぶりです、ダヴィドおじさん」
 ジュリアンも幼い頃からよく知っている間柄なので、血縁はないが彼のことは「おじさん」と呼んでいる。
「よ、ジュリアン。元気そうだな!」
 馴れ馴れしく声を掛けてきた青年がジュリアンの肩を親しそうに抱いた。癖のある金髪でとび色の瞳を輝かせた、いかにも陽気そうな青年である。パッと見た感じでは明るく人懐こそうな好青年に見える。
「こんばんは、トマス兄さん」
「なんだなんだ、相変わらず細っこいなぁ!男はもっと鍛えたほうがいいぞ!」
 そう評し、トマスは遠慮なくバンバンとジュリアンの背を叩いた。「ジュリアンとは親しい仲」という認識なのだろうが、さすがに距離感が近すぎて暑苦しい。なるほど、確かにこれはウザい…と横で見ていたカノンは思った。
「ジュリア〜ン」
 妙に甘ったるい舌足らずな発音でジュリアンの名を呼ぶ女がいた。トマスに似て豪華な金髪巻き毛に栗色の瞳をした女性が、ジュリアンに親しそうにすり寄ってくる。顔立ちは整っているが、化粧が不自然なくらいに濃くてくどい。
「マリア姉さん、お久しぶりです」
「ホントに久しぶり〜。私たち、幼馴染みじゃない?もうちょっと遊びに来てくれてもいいのよ?」
 ジュリアンの腕を取って、ボヨンとした豊かな自分の胸をわざとらしく彼に押し付けてくるマリア嬢だった。
「すみません、仕事が忙しくて…」
「ジュリアンは若くても凄腕のビジネスマンですものね!そういうところ、とっても素敵よ」
「ははは…」
 愛想笑いでマリアの媚びをジュリアンが受け流す。ウザい、ウザすぎる…と横で眺めていたカノンは再び思うのだった。
「初めまして。え〜と、あなたがカノンさん?ジュリアンの護衛役って話だけれど…」
「まあ、そんなところです」
 礼儀正しくカノンが一礼し、マリアの手を取って唇を寄せる。いかにも紳士然とした振る舞いだった。カノンだってやろうと思えば礼儀正しい振る舞いが出来るのである。見目はいいだけに、格好をつけると実に絵になる男でもあった。
「すっごいハンサムさん!こんな美男子と知り合いになれて嬉しいわ〜」
 マリアは今度はカノンに媚びを売り出した。接近されたマリアの体から発する強い香水の匂いに嗅覚を攻撃されて、カノンの顔が引きつる。
「カノン、笑顔、笑顔」
 マリアに密着されたカノンの表情が段々と険しくなっていくのを見て、隣のソレントがささやいた。
 だがカノンにそう注意していたソレントも
「あなたがソレントくんね。素晴らしいフルート奏者ですってね。評判は聞いてるわよ」
 とマリアが今度はソレントに関心を向けて体を密着させてきたため、ソレントもまたカノン同様に表情を凍らせることになった。
「ど、どうも…」
「あとで演奏を聞かせていただける?」
「は、はい…」
 お色気むんむんでまだ少年の自分に迫ってくるマリア嬢に完全にドン引いたソレントに、カノンは
「ソレント、愛想笑い、愛想笑い」
 とささやくのだった
「じゃあ、あとで夕食会でね〜」
 と言ってトマスとマリアの姉弟はその場から去っていった。二人がいなくなった途端に周囲が静かになり、空気からは清々しさが回復し、ジュリアン、カノン、ソレントの男三人はいずれもげんなりした顔で肩を落とすと同時に安堵の息をついたのだった。

 夕食会そのものは問題なく始まって、問題なく終わった。不必要なまでに胸の隙間を強調した真紅のイブニングドレスを着た厚化粧のマリアが、ジュリアンだけでなくカノンやソレントにまで色目を使ってきて、『勘違い系肉食女のお色気攻撃…ウザい、ひたすらウザい…』と三名の客人たちをうんざりさせたことをのぞけば、である。
 マリアの弟のトマスもやたらとジュリアンに絡んできて、ジュリアンをからかったり、彼が子供のころのネタをいじったり、と、これまた姉とは別の意味でウザかった。二人の父親でパラノス家の当主のダヴィドはというと、彼は一瞥すると穏やかな紳士だった。しかし子供たちの明らかに迷惑な言動をいっさいとがめず
「どうだね、ジュリアン。そろそろ恋人が出来たかね?」
とか
「私がいい相手を紹介しようか?」
とか
「うちの娘のマリアとか、どうかね?少々、年上だが、君はまだ若いし、最初は年長者に男女交際の手ほどきをしてもらうのも悪くはない」
とかジュリアンに勧めてくるあたり、全く信用のおける人間ではなかった。ダヴィドの妻で子供たちの母親であるソフィア夫人も、夫や子供たちの振る舞いを笑みを浮かべて見ているだけで止めようとしないので、所詮は彼らと同類だと判断された。
『これも仕事の一環。付き合い、付き合い』
 と自分に言い聞かせ、ジュリアンは表面的には社交的な笑顔を浮かべて、夕食会を「忍」の一字で乗り切った。カノンとソレントも、ジュリアンへの義務感で、パラノス家一同のセクハラまがいな会話の数々を受け流した。
 そんなこんなでウザさも極まり、夕食会が終わると早々に引き上げようとしたジュリアンたちだったが、玄関に向かう廊下でパラノス邸の警備員の一人がカノンに声を掛けてきた。
「カノン様、申し訳ありません。庭で不審者らしき影を見たという報告がありまして…。安全を確認したいので、手伝っていただけますか?」
 そうして断る間もなく警備員から懐中電灯を手渡されたカノンが、ジュリアンとソレントに告げた。
「すまん。ちょっと行ってくる。お前たちは少し待っていてくれ」
「ええ。それでは客間であなたが戻るのを待っています」
 こうしてカノンはジュリアンとソレントから離れた。二人きりになったジュリアンとソレントは、先程、カノンに言ったように客間に向かおうとした。だが
「ソレントく〜ん」
 甘ったるい声とともに背後からソレントの腕を取ってきた女性がいた。この家の娘であるマリア嬢だった。夕食会の後に彼らを追いかけてきたらしい。
「ねえねえ、ソレントくん。あなたのフルートの演奏を生で聞きたいの。父と母も待っているし、リビングに来てくれる?」
「え?」
 唐突なマリアの依頼にソレントが戸惑った。
「ね、ね?いいでしょ?ほら、こっち、こっち」
「え、いや、でもフルートが手元に…」
「それは我が家のものが楽器室にあるから大丈夫。ね、来てちょうだい」
 マリアは熱心にソレントを勧誘した。
「ソレント、少しでいいから演奏してあげたら?」
「は、はあ…」
「私は君たちが戻ってくるのを客間で待ってるから」
「す、すみません。すぐに戻りますから…ジュリアン様」
 こうしてソレントは引きずられるようにしてマリアに連れられて行った。一人になったジュリアンは、約束通りに客間に行って二人の帰りを待とうとした。だが今度はジュリアンの肩を後ろから抱いてくる者がいた。
「おい、ジュリアン。そうすぐに帰ることはないだろ?ちょっと遊んでけよ」
 馴れ馴れしくジュリアンの肩を抱いてきたのは、パラノス家の子息であるトマスだった。
「いや、私は…」
「今夜はおれの友人たちも集まってるんだ。この前のビリヤードの勝負ではお前が勝っただろ?勝ちっぱなしは許さないぜ!」
 わははは、と、暑苦しい大笑いをしながら、トマスはジュリアンを半ば無理矢理に自邸のプレイルームにと連れて行った。

 パラノス家の夫妻と令嬢マリアのためにフルートの演奏を頼まれ…というより半ば強要されたソレントは、数曲、演奏した後、賞賛の言葉を受けるのもそこそこに、さっさと彼女たちに別れを告げてリビングから退室した。客間でジュリアンが待っているだろうと思い、ソレントは急いで客間に向かったが、扉を開けても室内には誰もいなかった。
「あれ?」
 ソレントが首をかしげると同時に、背後からカノンが声を掛けてきた。
「ソレント、どうした?」
「え?」
 ソレントが後ろを振り向く。邸宅の周囲の見回りに出ていたカノンが戻ってきたのだ。
「カノン、不審者は?」
「キツネか野犬が物音を立てたんだろうという話になった。ところでジュリアンは?」
 カノンが誰もいない客間を見渡す。
「いえ、ここで待っておられると思ったんですが…」
 そしてカノンと別れた後、ソレントはフルートの演奏を頼まれてマリアにリビングに連れられて行ったことをカノンに説明した。
「…ジュリアンを一人にしたのか?」
 一連の事情を聞き、カノンが険しい顔になった。
「ソレント!ジュリアンを探せ!すぐに!」
 嫌な予感に血相を変え、二人はジュリアンの姿を屋敷の中に探し回った。

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